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20話
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翌朝、王都から援軍が到着した。
ヴィンセントは、早朝から王座の間(広間)で、各所の確認作業や報告などを受け、指示を出していた。
結局、ヴィンセントの部屋の隣に部屋を用意してもらって休んでいたソフィアも、外の慌ただしさに目を覚ました。
こんなに忙しい時に、私がここに居ては邪魔だろう。早くお城に帰って、陛下が帰って来るのを待って・・・その間に、気持ちの整理をしよう。
そう、心に決めてから、使用人に陛下の居場所を聞くと、王座の間に居ると聞いて案内してもらう。
王座の間に1歩踏み入れると、ヴィンセントの声と、どこかで聞いたことのある青年の声が聞こえて来た。
「王太子が重症だと報告を受けたが?」
「はい。昨日の戦で、敵兵の勢いは想像以上でした。戦陣に出たゲイル王太子が負傷しました。王は数日前より床に臥せっており、第2王子と第3王子である私とで何とか防いでいる状況です。」
「・・・急いだ方が良さそうだな。すぐに、モンテカリブへ援軍を向かわせよう。」
ソフィアは思った。
ゲイル王太子・・・留学中の夜会で会った事がある。モンテカリブの第1王子だった人だ。そして、今、ヴィンセントと話をしているのは、懐かしい友人だった。
思わず、王座の下まで進んで行く。
留学中、同じ学校で3年間、一緒に学んだ同学年の学友。
「ヨナス・・・」
ソフィアは、彼の名を呟いた。
声をかけようと思ったわけではないのだけれど、広間は石造りで、小さい声が少し響いたようだった。
王座の下で、跪いて話をしていた青年が、ソフィアの方を振り向く。
「・・・ソフィア?」
つい、広間の中央まで出てしまってから、あっ!と気がついて、王座の方を見る。すると、ヴィンセントは少し驚いたようにこちらを見て言った。
「ヨナス王子。彼女とは知り合いなのか?」
ヨナス王子は、ヴィンセントに向きなおる。
「はい。リッテンバーグ侯爵令嬢様が留学中。私は同い年の学友でした。」
「なるほど。では、久しぶりの再会というわけだな。」
陛下が、穏やかな顔になったのを確認してから、ヨナスの側に行く。
「会えて嬉しいわ。ヨナス。」
ヨナス王子は満面の笑みで、ソフィアに向きなおる。
「うん。まさか、会えるとは思っていなかったから驚いた。でも、早く行かなければならないんだ。」
ヨナス王子は、疲れ切った顔で、顔に砂が付いていた。ソフィアは、その頬の砂を手で優しく払ってあげながら言った。
「無茶しないでね。絶対に生きて。また、必ず会いましょう?」
ヨナス王子は、心配そうに見つめるソフィアを、少し見つめてから言った。
「ソフィア。今、メイナード兄上は、1人で軍を率いて戦っている。第2王子である兄上が、倒れた父上の王国軍と、王太子の軍の総司令官として1人で・・・戦況も思わしくなくて・・・・。僕が、ココに来たのは、このままだとモンテカリブは・・・。」
ソフィアは、ヨナスの手を握った。
ギュウっと強く握る。
深刻な状況なのだと知り、背筋が凍るような思いだった。
第2王子であるメイナード王子を思い出す。
グッと唇を噛んでから、声を張り上げた。
「ヨナス!大丈夫よ!あのメイナードでしょう?私は、メイナードは殺しても死なないって信じてるから!!」
ヨナスは、眉を落として、少しだけ微笑む。
ソフィアは自分の胸にあるペンダントを外して、ヨナスに渡す。
「これ、お爺様が留学する時に、お守りにくれたやつだけど、メイナードに渡して。」
ヨナスは、受け取って、ソフィアを見つめる。
その不安そうな顔を見つめて、ソフィアは、元気づける為に満面の笑みを見せる。
「そうだわ。」
手招きして、誰にも聞こえないように、ヨナスの耳に手を当てて、小さい声で言った。
「もしも、また会えたら、ほっぺにキスくらいはしてあげてもいいってメイナードに伝えて。」
茶化したようにソフィアがウインクすると、ヨナスは笑った。
「ありがとう。それ、兄上は凄く喜ぶよ。」
そう言って、ヨナスは立ち去って行った。
ソフィアは、ヨナスが見えなくなるまで見送った。
メイナード。
モンテカリブ王国の第2王子。
明るくて活発で、体育会系のノリがある2つ年上の、ヨナスの兄。
弟のヨナスと仲良しで、学生寮に2人とも居たので、女子寮に居た私も、いつの間にか親しくなった。
留学2年目の春。
メイナードは、ニコニコ楽しそうに、言った。
「ソフィア!おまえ、卒業したら俺と結婚しよう。」
その言い方が、ちょっとそこまで遊びに行こう!のノリだった。
私と一緒に、次の授業の教室へ移動している途中だったヨナスは、目が点になっていた。
「・・・メイナード王子?何を言っているのか分かってます?」
「ん?おう、結婚しようっていう提案をしている。」
「・・・それ、そんな言い方で、休み時間に廊下でばったり合って、言う言葉ですか?」
ん~~と、メイナードは考える仕草をしてから、言った。
「だけど、思った時に言わなきゃ、誰かに取られるかもしれないだろう?それに、ばったり合ったわけじゃなくて、会いに来た。」
「・・・私は、学ぶためにココに来たのですよ?恋人を作る為ではありません!どなたとも、お付き合いする気はありませんから!」
メイナードは、嬉しそうに笑う。そして、ソフィアの首に腕を巻き付けて、肩を寄せた。
「きゃっ!ちょっ、ちょっっと!」
「じゃぁ、ソフィアは今フリーってことだろ?充分に俺にもチャンスがあるわけだ。」
「は、離してください!!いくら王子といえど!」
「そうだ。今日から俺たちは呼び捨てで名を呼び合おう!な?ヨナスも!いいな!」
学園では、いつも軽い感じのメイナードは、式典や王子としての祭事では、凛々しい姿を見せていて、国民の信頼も厚い人だった。剣術にも馬術にも長けていて、一見いい加減に見えていたけれども、気さくで努力を惜しまない人でもあったようだった。
そんな彼が、卒業する数日前に、真剣な顔で私に言った。
「ソフィア。ずっと、この国にいてくれないか?本気なんだ。ずっと言ってきたけど、本気で好きなんだ。俺と一緒になってくれないか?」
メイナードの真剣な目を、正面から見るのは初めてだった。
メイナードもヨナスも、大好きだった。
でも、それは、友人としてで、それ以上の事は考えられなかった。
帰国する当日、
最後に、メイナードは切なそうに言った。
「せめて、最後にさ・・・キス、してもいいか?」
「だ、ダメよっ。何言ってるのっ!」
「だよな。悪かったよ。怒るなって。」
怒っているわけじゃない。驚いただけよ・・・。
なんとなく、想われているのは嬉しくて、サヨナラが少し寂しくて、切なくなった。
そんな事を思い出しながら、砦の外壁に登り、モンテカリブのある方向を見つめる。
援軍がどんどん遠くなっていく。
どうか、みんなが無事でありますように。
そう、願うしか出来なかった。
ヴィンセントは、早朝から王座の間(広間)で、各所の確認作業や報告などを受け、指示を出していた。
結局、ヴィンセントの部屋の隣に部屋を用意してもらって休んでいたソフィアも、外の慌ただしさに目を覚ました。
こんなに忙しい時に、私がここに居ては邪魔だろう。早くお城に帰って、陛下が帰って来るのを待って・・・その間に、気持ちの整理をしよう。
そう、心に決めてから、使用人に陛下の居場所を聞くと、王座の間に居ると聞いて案内してもらう。
王座の間に1歩踏み入れると、ヴィンセントの声と、どこかで聞いたことのある青年の声が聞こえて来た。
「王太子が重症だと報告を受けたが?」
「はい。昨日の戦で、敵兵の勢いは想像以上でした。戦陣に出たゲイル王太子が負傷しました。王は数日前より床に臥せっており、第2王子と第3王子である私とで何とか防いでいる状況です。」
「・・・急いだ方が良さそうだな。すぐに、モンテカリブへ援軍を向かわせよう。」
ソフィアは思った。
ゲイル王太子・・・留学中の夜会で会った事がある。モンテカリブの第1王子だった人だ。そして、今、ヴィンセントと話をしているのは、懐かしい友人だった。
思わず、王座の下まで進んで行く。
留学中、同じ学校で3年間、一緒に学んだ同学年の学友。
「ヨナス・・・」
ソフィアは、彼の名を呟いた。
声をかけようと思ったわけではないのだけれど、広間は石造りで、小さい声が少し響いたようだった。
王座の下で、跪いて話をしていた青年が、ソフィアの方を振り向く。
「・・・ソフィア?」
つい、広間の中央まで出てしまってから、あっ!と気がついて、王座の方を見る。すると、ヴィンセントは少し驚いたようにこちらを見て言った。
「ヨナス王子。彼女とは知り合いなのか?」
ヨナス王子は、ヴィンセントに向きなおる。
「はい。リッテンバーグ侯爵令嬢様が留学中。私は同い年の学友でした。」
「なるほど。では、久しぶりの再会というわけだな。」
陛下が、穏やかな顔になったのを確認してから、ヨナスの側に行く。
「会えて嬉しいわ。ヨナス。」
ヨナス王子は満面の笑みで、ソフィアに向きなおる。
「うん。まさか、会えるとは思っていなかったから驚いた。でも、早く行かなければならないんだ。」
ヨナス王子は、疲れ切った顔で、顔に砂が付いていた。ソフィアは、その頬の砂を手で優しく払ってあげながら言った。
「無茶しないでね。絶対に生きて。また、必ず会いましょう?」
ヨナス王子は、心配そうに見つめるソフィアを、少し見つめてから言った。
「ソフィア。今、メイナード兄上は、1人で軍を率いて戦っている。第2王子である兄上が、倒れた父上の王国軍と、王太子の軍の総司令官として1人で・・・戦況も思わしくなくて・・・・。僕が、ココに来たのは、このままだとモンテカリブは・・・。」
ソフィアは、ヨナスの手を握った。
ギュウっと強く握る。
深刻な状況なのだと知り、背筋が凍るような思いだった。
第2王子であるメイナード王子を思い出す。
グッと唇を噛んでから、声を張り上げた。
「ヨナス!大丈夫よ!あのメイナードでしょう?私は、メイナードは殺しても死なないって信じてるから!!」
ヨナスは、眉を落として、少しだけ微笑む。
ソフィアは自分の胸にあるペンダントを外して、ヨナスに渡す。
「これ、お爺様が留学する時に、お守りにくれたやつだけど、メイナードに渡して。」
ヨナスは、受け取って、ソフィアを見つめる。
その不安そうな顔を見つめて、ソフィアは、元気づける為に満面の笑みを見せる。
「そうだわ。」
手招きして、誰にも聞こえないように、ヨナスの耳に手を当てて、小さい声で言った。
「もしも、また会えたら、ほっぺにキスくらいはしてあげてもいいってメイナードに伝えて。」
茶化したようにソフィアがウインクすると、ヨナスは笑った。
「ありがとう。それ、兄上は凄く喜ぶよ。」
そう言って、ヨナスは立ち去って行った。
ソフィアは、ヨナスが見えなくなるまで見送った。
メイナード。
モンテカリブ王国の第2王子。
明るくて活発で、体育会系のノリがある2つ年上の、ヨナスの兄。
弟のヨナスと仲良しで、学生寮に2人とも居たので、女子寮に居た私も、いつの間にか親しくなった。
留学2年目の春。
メイナードは、ニコニコ楽しそうに、言った。
「ソフィア!おまえ、卒業したら俺と結婚しよう。」
その言い方が、ちょっとそこまで遊びに行こう!のノリだった。
私と一緒に、次の授業の教室へ移動している途中だったヨナスは、目が点になっていた。
「・・・メイナード王子?何を言っているのか分かってます?」
「ん?おう、結婚しようっていう提案をしている。」
「・・・それ、そんな言い方で、休み時間に廊下でばったり合って、言う言葉ですか?」
ん~~と、メイナードは考える仕草をしてから、言った。
「だけど、思った時に言わなきゃ、誰かに取られるかもしれないだろう?それに、ばったり合ったわけじゃなくて、会いに来た。」
「・・・私は、学ぶためにココに来たのですよ?恋人を作る為ではありません!どなたとも、お付き合いする気はありませんから!」
メイナードは、嬉しそうに笑う。そして、ソフィアの首に腕を巻き付けて、肩を寄せた。
「きゃっ!ちょっ、ちょっっと!」
「じゃぁ、ソフィアは今フリーってことだろ?充分に俺にもチャンスがあるわけだ。」
「は、離してください!!いくら王子といえど!」
「そうだ。今日から俺たちは呼び捨てで名を呼び合おう!な?ヨナスも!いいな!」
学園では、いつも軽い感じのメイナードは、式典や王子としての祭事では、凛々しい姿を見せていて、国民の信頼も厚い人だった。剣術にも馬術にも長けていて、一見いい加減に見えていたけれども、気さくで努力を惜しまない人でもあったようだった。
そんな彼が、卒業する数日前に、真剣な顔で私に言った。
「ソフィア。ずっと、この国にいてくれないか?本気なんだ。ずっと言ってきたけど、本気で好きなんだ。俺と一緒になってくれないか?」
メイナードの真剣な目を、正面から見るのは初めてだった。
メイナードもヨナスも、大好きだった。
でも、それは、友人としてで、それ以上の事は考えられなかった。
帰国する当日、
最後に、メイナードは切なそうに言った。
「せめて、最後にさ・・・キス、してもいいか?」
「だ、ダメよっ。何言ってるのっ!」
「だよな。悪かったよ。怒るなって。」
怒っているわけじゃない。驚いただけよ・・・。
なんとなく、想われているのは嬉しくて、サヨナラが少し寂しくて、切なくなった。
そんな事を思い出しながら、砦の外壁に登り、モンテカリブのある方向を見つめる。
援軍がどんどん遠くなっていく。
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