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17話
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ヴィンセントは、ソフィアの部屋を出ると、自室に戻った。
廊下を歩いている途中で、騎士団と合流する。
「陛下、ご報告いたします。」
騎士団長のグレイが報告をする。
「セルバシア帝国がモンテカリブ王国への攻撃を開始しました。援軍を送りましたので、明日到着予定です。」
話を聞きながら、ヴィンセントは着替えを始めた。
「陛下の御指示通り、援軍が到着次第に砦を守り、砦に居た兵たちはモンテカリブへ向かわせます。」
ヴィンセントが頷いて言った。
「私は、これからラデシュの砦に向かう。城を頼んだぞ。」
「は!お任せください!」
いつになく、グレイは真剣に家臣として返答する。いつもは、騎士団長が同行するのだが、今回は大きな戦闘にならない見込みで、副団長を連れて行くことになっていた。
ヴィンセントは軍服に着替えると、剣を腰に差す。
ふと、ベッドルームに視線を移す。
ソフィアの綺麗な襟足と背中を思い出す。・・・・紋章は現れなかった。その事実が、自分を崩壊させそうなほどに、心を抉る。
確かに、王家の紋章は誰にでも現れるわけではない。しかし、なんとなく自分の中で、彼女で間違いないと思っていた。
生前、父王が言っていたのだ。
『迷信と思っていたが、言い伝えは本当であった。ヴィンセントよ。王家の紋章は運命の女だ。心の底から沸き起こり、会えば分かるだろう。それが運命の女だ。』
正直言って、何を言っているのか解らなかった。
王妃探しを始めた時でさえ、愛人が20人を超え始めたころには、むしろ、どうでもよくなっていた。
どうせ、しなくてはならないのなら、セックスを楽しもうとした。しかし、50人を超え始めたころには、嫌気がさしはじめた。そこからは、義務感だった。
体が慣れたのか、快感も感じ難くなり、行為はどんどんエスカレートして激しくなった。
しかし、ソフィアと初めてしたキスは、今までに感じた事の無い、愉悦感だった。
キスが、あれほどに心を締め付け、上気させたのは、初めての事だったんだ。
あいつが、運命で無いのなら、もう王家の紋章なんて、どうでも良い程に・・・。
「陛下?」
ノアに声をかけられた。
「・・・すまん。少し考え事をしていた。」
そう言って、自室の部屋を出る。ノアとグレイ騎士団長と副団長、第1隊長が、後ろに続いて歩く。
「あぁ、そうだ。アデルに、ソフィアの話を聞いて、学校を作ってやれと伝えろ。」
「御意。」
そうして、ヴィンセントは、お城の端にある塔に登り、そこで魔法を発動させて瞬間移動した。
騎士団の副団長、従者のノアを引き連れて、ラデシュの砦に向かった。
砦には、トリス辺境伯と砦を守る部隊が待っていた。
軽く報告を受けて、ヴィンセントは、砦にある魔法の発動装置に手をやる。
そこに、王族が魔力を流す事で、その装置は発動し、砦の周囲が魔法で迷路になるのだ。外の国からは砦に辿り着けなくなるという装置だ。
こうして、この砦は守られてきた。
ヴィンセントは、すぐに王都には戻らずに、暫く戦況の様子を見守ることにした。
◇◇◇◇
「え?陛下は、砦に行かれたんですか?」
ソフィアが、そのことを知ったのは、陛下が砦に向かった数時間後だった。
アデル書記官がやってきて、その話を告げた。
「はい。おそらく、数日後には戻られますよ。心配には及びません。では、話の続きを。」
ノートを広げて、サラサラと私の話をメモしていくアデル書記官は、法務の仕事をしているが、次期宰相と噂されている。仕事の内容は多岐にわたっていた。
「なるほど。構想もしっかりされていて、理念も素晴らしいかと。確かに、私も学園の創設に国の未来が開けていく感じがします。これは早急に進めていきましょう。」
「本当ですか?!」
ソフィアは、アデル書記官の手を握りしめて、立ち上がってしまう。
「アデル書記官様!どうかよろしくお願いいたします!」
アデルは、驚いて手を引っこ抜く。
「あははっ・・・なるほど。これはまた、危なっかしい令嬢だ。陛下も心を乱されてしまうわけですね。」
ケラケラと可笑しそうに笑うアデル書記官に、ソフィアは、その言葉の意味を少し考える。
アデルは、茶化したようにウインクをして言う。
「陛下から寵愛を受けておいでなのだから。他の男との関わり方には気をつけてください。」
「・・・」
「どうかされましたか?」
「あ、いえ、陛下の寵愛だなんて。私は、101人目の愛人でしかありません。」
アデルは、少し目を見開てポカンとする。
その会話を聞いていた騎士団長のグレイが、話に参加してきた。
「あなたは、ただの愛人ではありませんよ。陛下の大切な女性です。」
私が?
「でも・・・」
「陛下は、あなたへの気持ちを、伝えられてませんか?」
アデルが、心配そうにソフィアを覗き込む。
「まぁ、ハッキリと言葉にされなくても、城に住まわせるなんて、特別な人だからに決まってるじゃないですか。それだけでも、お分かりでしょう?」
と、特別だなんてっ!
「そ・・・それは、祖父の孫だから、気を使って他の方と差をつけて下さつたのかと・・・!」
「「それはありえません!」」
アデルとグレイの声が、重なった。
「あなたを城に住まわせると同時に、すべての愛人とは縁を切るとおっしゃったんですから!」
え・・・。
「他の愛人とは、縁を切った?」
アデルが頷く。
「そうです。ソフィア嬢を城へ招いた日、すべての愛人へ関係を終了すると連絡をしました。」
なんて答えて良いのかわからずに、湯気が出そうなほどに赤面しながら、目を泳がせる。
ほ・・・本当に?
陛下は、私を特別だと思ってくれている?
自惚れじゃなくて・・・信じて良いの?
陛下の、あの言葉は・・・本心?
「あなたは・・・、ソフィア嬢は、陛下をどのように思われていますか?」
私?
私は・・・・。
私は、陛下のこと、
あれ?どう思ってる?
私は陛下のことが、好き・・・?
廊下を歩いている途中で、騎士団と合流する。
「陛下、ご報告いたします。」
騎士団長のグレイが報告をする。
「セルバシア帝国がモンテカリブ王国への攻撃を開始しました。援軍を送りましたので、明日到着予定です。」
話を聞きながら、ヴィンセントは着替えを始めた。
「陛下の御指示通り、援軍が到着次第に砦を守り、砦に居た兵たちはモンテカリブへ向かわせます。」
ヴィンセントが頷いて言った。
「私は、これからラデシュの砦に向かう。城を頼んだぞ。」
「は!お任せください!」
いつになく、グレイは真剣に家臣として返答する。いつもは、騎士団長が同行するのだが、今回は大きな戦闘にならない見込みで、副団長を連れて行くことになっていた。
ヴィンセントは軍服に着替えると、剣を腰に差す。
ふと、ベッドルームに視線を移す。
ソフィアの綺麗な襟足と背中を思い出す。・・・・紋章は現れなかった。その事実が、自分を崩壊させそうなほどに、心を抉る。
確かに、王家の紋章は誰にでも現れるわけではない。しかし、なんとなく自分の中で、彼女で間違いないと思っていた。
生前、父王が言っていたのだ。
『迷信と思っていたが、言い伝えは本当であった。ヴィンセントよ。王家の紋章は運命の女だ。心の底から沸き起こり、会えば分かるだろう。それが運命の女だ。』
正直言って、何を言っているのか解らなかった。
王妃探しを始めた時でさえ、愛人が20人を超え始めたころには、むしろ、どうでもよくなっていた。
どうせ、しなくてはならないのなら、セックスを楽しもうとした。しかし、50人を超え始めたころには、嫌気がさしはじめた。そこからは、義務感だった。
体が慣れたのか、快感も感じ難くなり、行為はどんどんエスカレートして激しくなった。
しかし、ソフィアと初めてしたキスは、今までに感じた事の無い、愉悦感だった。
キスが、あれほどに心を締め付け、上気させたのは、初めての事だったんだ。
あいつが、運命で無いのなら、もう王家の紋章なんて、どうでも良い程に・・・。
「陛下?」
ノアに声をかけられた。
「・・・すまん。少し考え事をしていた。」
そう言って、自室の部屋を出る。ノアとグレイ騎士団長と副団長、第1隊長が、後ろに続いて歩く。
「あぁ、そうだ。アデルに、ソフィアの話を聞いて、学校を作ってやれと伝えろ。」
「御意。」
そうして、ヴィンセントは、お城の端にある塔に登り、そこで魔法を発動させて瞬間移動した。
騎士団の副団長、従者のノアを引き連れて、ラデシュの砦に向かった。
砦には、トリス辺境伯と砦を守る部隊が待っていた。
軽く報告を受けて、ヴィンセントは、砦にある魔法の発動装置に手をやる。
そこに、王族が魔力を流す事で、その装置は発動し、砦の周囲が魔法で迷路になるのだ。外の国からは砦に辿り着けなくなるという装置だ。
こうして、この砦は守られてきた。
ヴィンセントは、すぐに王都には戻らずに、暫く戦況の様子を見守ることにした。
◇◇◇◇
「え?陛下は、砦に行かれたんですか?」
ソフィアが、そのことを知ったのは、陛下が砦に向かった数時間後だった。
アデル書記官がやってきて、その話を告げた。
「はい。おそらく、数日後には戻られますよ。心配には及びません。では、話の続きを。」
ノートを広げて、サラサラと私の話をメモしていくアデル書記官は、法務の仕事をしているが、次期宰相と噂されている。仕事の内容は多岐にわたっていた。
「なるほど。構想もしっかりされていて、理念も素晴らしいかと。確かに、私も学園の創設に国の未来が開けていく感じがします。これは早急に進めていきましょう。」
「本当ですか?!」
ソフィアは、アデル書記官の手を握りしめて、立ち上がってしまう。
「アデル書記官様!どうかよろしくお願いいたします!」
アデルは、驚いて手を引っこ抜く。
「あははっ・・・なるほど。これはまた、危なっかしい令嬢だ。陛下も心を乱されてしまうわけですね。」
ケラケラと可笑しそうに笑うアデル書記官に、ソフィアは、その言葉の意味を少し考える。
アデルは、茶化したようにウインクをして言う。
「陛下から寵愛を受けておいでなのだから。他の男との関わり方には気をつけてください。」
「・・・」
「どうかされましたか?」
「あ、いえ、陛下の寵愛だなんて。私は、101人目の愛人でしかありません。」
アデルは、少し目を見開てポカンとする。
その会話を聞いていた騎士団長のグレイが、話に参加してきた。
「あなたは、ただの愛人ではありませんよ。陛下の大切な女性です。」
私が?
「でも・・・」
「陛下は、あなたへの気持ちを、伝えられてませんか?」
アデルが、心配そうにソフィアを覗き込む。
「まぁ、ハッキリと言葉にされなくても、城に住まわせるなんて、特別な人だからに決まってるじゃないですか。それだけでも、お分かりでしょう?」
と、特別だなんてっ!
「そ・・・それは、祖父の孫だから、気を使って他の方と差をつけて下さつたのかと・・・!」
「「それはありえません!」」
アデルとグレイの声が、重なった。
「あなたを城に住まわせると同時に、すべての愛人とは縁を切るとおっしゃったんですから!」
え・・・。
「他の愛人とは、縁を切った?」
アデルが頷く。
「そうです。ソフィア嬢を城へ招いた日、すべての愛人へ関係を終了すると連絡をしました。」
なんて答えて良いのかわからずに、湯気が出そうなほどに赤面しながら、目を泳がせる。
ほ・・・本当に?
陛下は、私を特別だと思ってくれている?
自惚れじゃなくて・・・信じて良いの?
陛下の、あの言葉は・・・本心?
「あなたは・・・、ソフィア嬢は、陛下をどのように思われていますか?」
私?
私は・・・・。
私は、陛下のこと、
あれ?どう思ってる?
私は陛下のことが、好き・・・?
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