14 / 35
14話
しおりを挟む窓の外が白み始めて、朝なのだと気がつく。
腕の中で寝息を立てるソフィアに、視線を落とす。
やっと、愛する人を自分のものにしたという安堵感と充足感に浸る。
脱力しきっているソフィアの体を、引き寄せて抱きしめる。彼女の匂い、柔くて温かな感触。ずっと、ずっと、こうして居たいと、心から思う。
『ナカはダメ!』
そう言われたことを思い出し、震えるほどに悲しくなる。
だが、私がおまえを手に入れる為には、もう、こうするより他に無いだろう・・・?
「・・・ごめん」
小さい声で呟いて、すがるように抱きしめる。
ソフィア、おまえに愛されたい。求められたい。
例え、おまえの心の中に思う男が居るのだとしても。誰かに、とられたくはない。髪の毛一本だって、他の男に触れさせないで欲しい。
あの時。
名前も、どこの誰かも知らぬまま、初めてキスをして、抱き合ったのは、互いに、惹かれ合ったからでは無いのか?
2度目も、確かに愛人になるように言ったが、私を少し位は好いてくれていたのではないのか?
昨夜も、最初こそ、中に出すことを嫌だと言っていたが、もう1度と体を求めると、素直に体を開いて、とろけるように愛し合った。抜かずの3回目と思ったところで、ソフィアは意識を手放してしまったが。
腕の中で眠る、愛しい女を眺めながら、背中に回した手で、そうっと背中をさする。
昨夜、2回とも魔力を込めて、しっかりと彼女の膣内に射精した。
これで、彼女の背中には王家の紋章が現れるはず。
早く見たいな。
私のものになったという、その証を。
ヴィンセントは目を閉じて、ゆっくりと睡魔に襲われていく。
急に、部屋の扉の外に、誰かがやってきたのを感じる。
素早くベッドを出て、ガウンを羽織り、扉の前まで歩いて行くと、1度ベッドの方を振り返って、ソフィアが寝ているのを確認してから、扉を開けた。
ガチャリと扉が開いたので、扉の外に居たグレイ騎士団長が驚く。
扉の前では、グレイ騎士団長と、騎士が3名ほど集まっていた。
「陛下・・・お目覚めでしたか。」
ヴィンセントは、扉を少しだけ開けたままの状態で、外を確認すると言った。
「何かあったのか?」
低く静かな声だったので、それに合わせてグレイも静かな声で返事をする。
「はい。ラデシュの砦から知らせが入り、敵国の動きがあったようなのです。」
「・・・解った。すぐに執務室に行く。」
早朝から、城内は慌ただしくなった。
◇◇◇◇
ソフィアが目を覚ましたのは、午前10時頃だった。
ベッドの中で、暫くボーーーっとしていると、ドアがノックされて女官達が入って来た。
果物や軽食、温かいお茶を並べていってくれる。体が重くて、億劫で起き上がれずに布団の中にいると、「着替えを手伝いましょうか?」と言うので、もう少し寝ていたいと伝えると、着替えだけを置いて「また来ます」と言ってみんな出て行った。
女官達が部屋の外に出て行ってから、ひと眠りした。
再び11時頃に目を覚ますと、1人でベッドから降りる。
見る限り、胸も、首も、腕も、お腹も、太腿にも、体中にキスマークがあった。人に見られるのが恥ずかしくなり、1人で着替えを始める。
なんとか自力でコルセットを絞めようとしている所で、再びドアをノックされる。
「ソフィア様、王女様がいらっしゃっております。」
女官がそう言うと、続けて王女様の声がした。
「ソフィア!中に入って良いかしら?」
コルセットの紐を掴んだままで、慌てふためく。
「えっ?王女様?!い、今、着替えをしておりまして、少しお時間を・・・・」
「あぁ、そうなのね。では私が手伝ってさしあげるわ。」
「えぇ?!」
慌てる私に、お構いなしの王女様は、部屋へと入って来た。
許可の得ていない女官達は、部屋の中には入って来なかった。
「お、王女様!!申し訳ございませんっ、このようなお見苦しい姿でして・・!」
慌てて後ろを向くも、王女はニコニコ笑って近づいて来る。
「女性同士だもの、さぁ、私が手伝ってあげるわ。」
王女様に手伝ってもらうとか、ありえないと思いつつも、あまり拒否するのも悪いと思い、背中を向けて、髪を前に持ってくる。
「・・・・っつ!!!そ・・・ソフィア?!」
王女が悲鳴のような声を上げた。
驚いて振り返ると、王女様が口を押えて驚愕している。
「??・・・どうかされましたか?」
メリーアンは、ソフィアに駆け寄ると、コルセットを絞めてくれるどころか、思いっきり外された。
そして、私の背中に手を当てて、指でなぞる。
「これ・・・これはっ・・!ソフィア。あなた、王家の紋章を授かったのね?」
「・・・・・ぇ?」
王家の紋章・・・?
慌てて2人で鏡を覗き込む。
王女様が手鏡を持ってくれて、なんとか後ろを確認すると、肩甲骨の間に入れ墨のように模様があった。
「これ・・・・王家の紋章??」
信じられなくて、自分の指で触れてみる。でもデコボコもしていないし、どうやら絵が浮き出た感じだ。
「ソフィア。王家の紋章を授かった女性は、王妃になる。知ってるわよね?」
・・・・知っている。というか、王妃様には王家の紋章があるとしか知らないかもしれない。
「ラトニア王家はね、平和の神であるエイレーネの力を受け継いでいるそうなの。だから、王家の男子に抱かれて、エイレーネ神が認めた運命の相手には王家の紋章が現れるそうよ。」
運命の相手?私が・・・?
王妃?!
「・・・困ります。」
暗い顔で呟いた私に、王女様は私の肩に手をやってから言う。
「お兄様を好きになれないかしら?」
それに、首を振って答える。
「今の私には、自分の為に、女性の為に、学校をつくるという夢があるんです。今、本当にそのことだけに没頭したいんです。」
ストールを掴むと、私の肩に掛けながら王女様が言う。
「王妃になれば、その夢は簡単に叶うわ。」
確かにそうなのである。この国で2番目の権力を持つことになる。夢を叶えるなら、このまま、王家の紋章を見せて、王妃になるのが良いのだろう。だけど・・・・。
『好きだ。愛している。』
そんなの、絶対に嘘だ。
「私、夫となるべく男性とは、愛し愛される存在でなければ嫌です。」
何より、国中から選りすぐりの100人もの、才色兼備を愛人にして侍らせてきた王様だ。
女性らしくなく、従順でもなくて、男性の後ろを1歩下がって歩くのはムリで、男性の横に立ちたい私だ。
「それに、王妃ではなく、学校の創立者として君臨したいのでもなく。教壇に立ちたいのです。」
「でも、でも、ソフィア。あなたの背中には王家の紋章が現れたのよ?周囲は放っておかないわ。もう、あなたの自由になんてムリよ。」
少し考えてから、メリーアン王女に頭を下げた。
「王女様。この背中の紋章は、見なかったことにして頂けませんか?」
「え?」
「この紋章は、なんとか消すか隠し通します。この国に学校を作ったら、お城を出て行きます。私・・・やっぱり、愛の無い結婚は出来ません!」
「ソフィア・・・・!」
「私・・・愛のある結婚も、自分の夢も、どちらも捨てられません!!」
我儘を言っているのは、百も承知だ。だけど、それが正直な気持ちなんだ。最後の最後まで諦められない。
自分が自分らしくある為に、諦めたくない。
「・・・・解ったわ。」
王女は、頷いた。
ソフィアは、まだ隣国の王子のことが忘れられないのだと、王女は思った。紋章の事は、そう長く隠し通せないだろうとも考え、自分からは黙っていることを決めた。
ソフィア自身は、陛下に惹かれている自分に気がついていなかった。
恋に夢を抱いて、夢を現実にする為に邁進していた。
どこまでも鈍感で、少年のような女であった。
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる