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Episode 28 恋慕の末

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 アンドリュー王子に無理やり連れて来られた私は、立派なお屋敷の一室に閉じ込められた。
 いきなり馬車の中に押し込まれて、連れて来られたのだ。 
 ここまで来る途中、馬車の中で叫んだり、暴れたりしたけれど、両手を縛られてしまい、どうにもならなかった。
 部屋の中に押し込められると、鍵を閉めて、部屋には私とアンドリュー王子だけになった。

「お願い!離して!私はルナベルじゃ無いの!人違いよ!!」
 アンドリュー王子を睨んで、必死に言うと、王子は私の傍まで近づいて来て腕を掴む。
「ルナベル!何故そんな事を言う?心変わりをしてしまったのか?あいつが・・・あんな竜が好きなのか?」
「違う違う!違うって言ってるじゃない!私はルナベルじゃない!!本当に好きなら、解るでしょう?!私は、あなたのルナベルじゃないの!別人なの!」
「別人だと言うならば、これは何だ!!」
 アンドリュー王子は、私の服を引きちぎった。
 服の中に隠していた、首にかけたネックレスの先についてる、翼麟が露わになる。

 その翼麟を見て、アンドリュー王子は言った。
「ルナベル。これは、おまえが私の部屋から持ち出した物だ。違うか?」
 私は、服を引きちぎられたショックで、呆然となり、体が震えた。怖かった。恐ろしかった。ガクガクと震える中、アンドリュー王子は、私の露わになった胸元を見て、鬼のような形相に変わった。
 そこには、毎日のように抱き合って、ジャンが私に付けたキスマークが残っていた。
「殺してやる・・・!!あの竜を殺してやる!!」
 もはや、人間とは思えないほどの人相に姿を変えて、アンドリュー王子は怒りを爆発させた。

「や・・やめて!やめてください!!もう竜を自由にして!放っておいて!!お願いっ、お願いします!!」
 恐怖に打ち震えながら、私は必至に言った。
「許せるものか!!おまえを奪われ、おまえの心も体も・・・!!」
「違う!ルナベルは、アンドリュー王子を好きよ!あなたの事を、ずっと愛してる!!」
 もう、だんだん、自分で自分が、わけが解らなくなってきそう・・・だけど、必死だった。
「ルナベルは、あなたを本当に愛してるの!心から、あなただけを愛してる!だけど、だけど、私は、」
 あぁ、上手く言えない。
 私の事をルナベルだと思い込んでるから、私って言っちゃダメなのか・・・もう!どうしたらいいの?!
 何て言えば信じてくれるの?なんて言えば分かってくれるの?
 あ~!!もういい!分ってくれなくてもいい!
 ジャンを助けなきゃ。ジャンに、翼麟を渡さなきゃ・・・!
「お願い・・・解って!解ってください!この翼麟を、返しに行かせて!!」
 ジャン・・・ジャンに会いたい。

 泣き出した私を、アンドリュー王子は、じっと見ていた。
 そして、肩に手を置くと言った。 
「その翼麟を、竜に返して、竜が天に帰ってくれれば、おまえは自由になれる。そう思ったんだろう?」
 王子の声は穏やかだった。そして、優しく私の頭を撫でる。
「ルナベル。おまえさえ私の元に帰ってきてくれるなら、竜のことなど、どうでも良かったんだ。もう、あんな竜のことなど、どうでもいいんだ。」
 そうっとアンドリュー王子の顔を見上げる。すると、少し悲しそうな顔で、愛おしそうに私の顔を見ていた。
「愛している。ルナベル。お前の望む通り。その翼麟を竜に返して、空に帰ってもらおう。そして、一緒に国へ帰ろう?」
 そう言って、私を抱きしめた。

 全然、解ってくれない。
 だけど、
 この人もまた、愛する人の為に必死だったんだ。

 翼麟を返す。その言葉を聞いて、ホッとして、私は黙った。

  

 その後、アンドリュー王子の私兵たちは、町で、帰りの遅い私を探しているジャンを見つけた。
「ルナベル様が、お待ちだ。一緒に来い。」
 そう言われて、ジャンは馬車に乗り、私が囚われている町長の家までやってきた。

 私は、服を着替えさせられて、手枷も外され、大人しく窓辺で外を眺めていた。部屋には、アンドリュー王子も居て、なんか落ち着かなかったけれども、もう騒いだり抵抗したりすることはせずに、待っていた。
 そこへ、部屋がノックされて「竜を連れて来ました」という男の声と共に、扉が開かれた。

 ジャンは、私の顔を見るなり、顔をほころばせる。私も思わず、駆け寄ってしまいそうになるのを、堪えた。なぜなら、部屋の真ん中には、私たちの間には、アンドリュー王子が居たからだ。

「久しぶりだな。シュバリエ侯爵。」
 この地上で、エルバーン国で付けられた苗字を呼ばれ、ジャンは苦笑した。
「どうゆうつもりだ?貴様の国は、まだ竜に固執するのか?何の用だ?」
 ジャンは、言葉を発しながらも、スタスタと真っ直ぐに歩いて、私の所に向かって来る。アンドリュー王子の前を通り過ぎようとした時、王子は言った。
「止まれ!それ以上、ルナベルに近づくな!」
 ジャンは、王子を睨む。

 少しのの後、アンドリュー王子が私の方を見て言った。
「ルナベル。さぁ、竜に渡してやれ。」
 
 私は王子を見て、頷く。
 ゆっくりと、ジャンの目の前まで行って、自分の首からネックレスを取り出し、ジャンの首にかけようとして、届かなくて、小さい声でジャンに言う。
「ちょっと、かがんで?」
 すると、ジャンも訳が分からぬままに、驚いた顔で翼麟を見つめながら、かがむ。
 なんとか、ネックレスを首にかけることが出来て、私はホッとした。
  
 ジャンは、目を大きくさせて、翼麟を手に取り、見つめた。そのまま、私の目を見つめて何か言いたそうなので、私は頷いて目で訴える。ついつい、満面の笑みを浮かべてしまう。
 そうだよ。ジャン。翼麟を取り戻したんだよ! 
 心の中で、やったぁ~!と喜ぶ。

 その瞬間、アンドリュー王子は私の腕を掴んで、引き寄せた。片手で私を抱きしめたままで言う。
「竜よ。さっさと天に帰れ!今すぐにだ!」
 そう言われて、ジャンは、王子から私の方に視線を移す。私は心の中で叫んだ。
 
 行って!ジャン!飛んで!!私は大丈夫!私は大丈夫だから!ルナベルは、この世界に戻って来てる。だから、国に帰ればいずれ、アンドリュー王子に会う。私は、その後でも自由になれるはず。だから、だから行って!

「ルナを、離せ。そいつは、おまえのルナベルではない。」

 ジャン!!

「・・・どうゆう意味だ?貴様の物だとでも言うつもりか!!」
 アンドリュー王子が剣を抜く。
 咄嗟に、私は王子の腕にしがみついた。
「やめて!!やめてください!!ジャン!行って!私は大丈夫だからっ、早く!!」
「ルナ!!」
 ジャンが私たちに近づこうとした瞬間に、部屋の隅に居た兵士達がボウガンを構えて、ジャンに向けた。
「ダメーーー!!」
 

 ドス!ドズドス!!

 鈍い音がして、ジャンの体が強い衝撃にビクッビクッと揺れる。見開かれた目が苦痛に歪んだ。


「ジャン!!!」

 そのまま、私の目の前で、ジャンは崩れ落ちるように倒れた。

「・・・っ!!!ジャン!!い、いやだ!いやーーー!」
 
 
 床に倒れたジャンの背中には、3本の矢が突き刺さっていた。






 
  
 
 
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