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Episode 23 黒竜

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 荷解きが、ある程度終わってから、3人で夕食作りをした。

「これは果物?」
 元の世界と似ている物も有るけれど、謎の食材が多い。
「ルナ様、これは煮たりして食べるものですよ」
「そうなの?えーと、じゃ、ポールの言う通りにやるから、指示してくれない?」
 料理長はポールに任命して、私は見習い料理人として指示に従うことにした。
「では、これを一口サイズにカットしてください。」
「了解!」 
 包丁とまな板を取り出して、適当に切り始める。すると、ジャンが言った。
「おい、ポール。かき混ぜたぞ?」
「!!?あ~!あるじ、泡だらけではないですか!やり過ぎです(笑)」
 どれどれと、ジャンが持っているボールの中を見る。1分位で卵を泡立ててしまったようだ。
「一瞬でここまで?ある意味、凄い特技だね」
 私が感心しながらも、プププと笑って言う。
「うーん、こうでは無いのか?料理とは難しいな」
 あーでもない、こーでもないと、言い合ったり、知らないことは教え合ったり、人のミスを笑い飛ばしてあげたりして、楽しい時間が過ぎた。
 なんとか完成して、3人で賑やかな夕食の時間を過ごした。

「あ~これ切ったの私だっけ?なんか繋がってるわ…」
「形はともかく、美味しくうまく出来たんじゃないか?」
「でしょ?私って料理のセンスあるのかもぉ~♪」
「食事をしない私が、料理が出来るという所にも注目して頂きたいです♪」
「確かに!!ポール凄い!天才!」
 ポールを褒めると、得意げに笑う。そんなポールは、前よりもどんどん人間らしくなっていくというか、色んな感情表現をしてくれるようになって、友達みたいになりつつあった。それがまた、嬉しくもあったりする。

 食卓を囲んで、他愛もない話をして、3人で笑い合う。
 あぁ、なんか良いな。こんなふうにして、ずっと暮らしていけるのかな。
 
 そんな事を漠然と考えていると、外は真っ暗闇になり、夜もふけていく。
 
 食事の片付けも終わって、ポールは自分の部屋に戻って行った。
 私は広いお風呂を楽しんでいた。
「はぁ~♬お風呂最高~♪」
 ルンルン気分で、鼻歌まで歌い始めた時だった。
 
 ・・・?

 何か聞こえた気がして、キョロキョロとお風呂場を見渡す。
   
 なんだろう?なんかこう、風が吹く音が聞こえたような気もするし、でも何かの気配というか、なんか違う何かを感じる。・・・なんとなく不気味に思って、私はバスタブから上がって、脱衣所に入る。体を拭いて、タオルを体に巻いて、服を手に取った時だった。

 低い低い、呪いのような男性の声がした。
「おまえは誰だ?」

 振り返ると、お風呂場の湯舟の中から、真っ黒い竜が出てきて、お風呂場の戸を開けて、ルナを見下ろしていた。

「き・・・・きゃぁああああ!!!」

 自分でも驚くほどの大きな声が出て、腰が抜けてしまい、その場に崩れるようにして座り込む。
 その数秒後、ポールと、ジャンが同時に駆け込んできた。

 ジャンは、黒い竜を見て、大きく目を見開いた。
「・・・ガイアか?」
 その呟きに答えるようにして、黒い竜は、ジャンをまっすぐに見て言った。
「ん?おまえは・・・まさか・・・ジャンクロード?」

 黒い竜は、ジャンの名前を呼ぶと、ポン!っと人間の姿に変身した。黒い肌に、金髪と金色の目。ジャンと同じ位の年齢に見える青年だった。
 青年はジャンに駆け寄る。
「おまえ、ジャンクロードだろ?!こんな所で何してるんだよ?!」
「ガイア!おまえこそ!どうして、地上に?」

 2人が嬉しそうに、再会を喜びあってる横で、私はポールに支えられて立ち上がる。
「ジャンの知り合い?」
「あぁ、ガイアは、兄のように慕っていた竜だ。・・・あ」
 ジャンは私の方を見て、タオル1枚しか身にまとっていないことに気がつく。慌てて、黒竜の腕を掴んで、脱衣所を出て行く。
「すまん!あとで説明するから、ルナは服を着ろ!」
 黒竜とポールを部屋から追い出すと、ジャンはすぐにドアを閉めた。
 私は急いで服を着て、髪が濡れているので肩にタオルを巻いて、リビングに向かった。


 
◇◇◇◇

 リビングの扉を開けると、黒竜のガイアが声を上げた。
「そんな事になっていたなんて、人間どもめ!」

 どうやら、ジャンが地上に居る理由を打ち明けた様子だ。ガイアは目を吊り上げて、恐ろしい形相になっていた。体中から、何か禍々しいオーラすら感じる。
「腹の虫が治まらん!!俺が今から行って食い殺してやる!!」
「人間は小さいが集団で来るから厄介だ。それに・・・もう、いいんだ。」 
「ジャンクロード?!何がいいんだ?これから、ずっと地上ここで生きていくって言うのか?!」

 ガイアの問いかけに、ジャンは少し口を開きかけて・・・やめた。そのまま、ふわりと顔の表情を緩めると、穏やかな口調で、言う。
「・・・ガイアは、どうしてここに?」
 ジャンのなだめる様な言い方に、ガイアは怒りを抑えるように一呼吸してから言った。
「俺は、時を駆けているうちに、うっかりココに来たんだ。その時に爺さんと知り合った。俺を見るなり、桃を食っていけと言う。人間と話すなんて、初めてで面白いから友達になったんだ。」
 ・・・? 
 私はガイアの言葉が引っかかったけれども、2人の会話を邪魔しないように、とりあえず、聞いていた。
 ジャンは視線を落として、少し言い難そうに言った。
「ここに住んでいたお爺さんは、亡くなったそうだ。」
 その言葉に、ガイアは頷いて、視線を落とす。
「あぁ、そうみたいだな。竜と違って、人間はすぐに死ぬんだってことを忘れてたよ。」
 暖炉の前にある、ロッキングチェアーに、ガイアは視線を移して、目を細めた。
「なんだか、この家が朽ち果てていくのが辛くて、時々来ては、綺麗にしてたんだ。そうすれば、あの爺さんが、ひょっこり出てきそうな気がして。」
 ガイアの言葉に、ジャンは黙り込む。
 
 少しの沈黙が続いて、私は気になった事を質問することにした。
「あの・・・竜の寿命ってどの位なんですか?」
 ガイアはルナを見て、即答した。
「千年位かな。」
「千年?!」
 ビックリして、声が裏返ってしまう。
「ははは。そんなに驚いた?殺されたりしなければ、その位は平均的に生きる。」
 千年ってことは、ジャンって、まだまだ途方もない時間を生きるってこと?
 目をまん丸にしたままで、ジャンを見上げると、ジャンも私を見た。どうした?と言う顔で、首を傾げてくる。
 目つめ合う私たちを、ガイアは眺めてから言った。
「おまえらの関係は?」
 急に低い声で、真剣な眼差しを向けて来るので、私はビクッと体を固くする。だけど、ジャンは私の手を握ってから言った。

「俺の番いつがいだ」
 いつもは、ジャンは自分の事を“私”と言うのに、初めて“俺”と言ったので、少しびっくりする。それに…ツガイ=私を恋人だと紹介してくれたわけで…なんか照れる。
 いつもの優しい目で見つめられて、ドキドキする。なんかこそばゆいような、恥ずかしい気持ちになって、頬を染めると、ジャンは愛おしそうに笑う。

 そんな私達に、冷たい視線を送って、ガイアは低い声で言う。
「本気なのか?その子、人間だろう?こう言ったらなんだが、すぐに死ぬ。竜は生涯に1度しか番いつがいを持たない。子を産めるのも1度きりだ。悪い事は言わない。やめておけ。」
 ガイアの言葉に、一瞬で心が凍りつく。
 私にとっての一生は、ジャンや竜にとっては長い年月の一瞬でしかない。そうなら、ジャンはこの先…。
 ルナが考え込んだ時、ジャンが言った。
「・・・分かってる。でも、ルナがいいんだ。」
 真剣な眼差しでジャンが言うと、ガイアは睨み返して言い返す。
「おまえ、地上で長くは生きられないからって、諦めてるんだろう?」
 え?
「どうゆうこと?」
 反射的に、ガシッとジャンの腕を掴んで問い詰める。
「長く生きられないって、なんで?ジャン!」
 取り乱した私に視線を向けて、困った顔をして、頭を撫でてくれる。
「大丈夫。決してルナを1人ぼっちにはさせない。ルナが生きている限りは、ずっと傍にいる。」

 ガイアは、眉をひそめて、私たちを見ながら腕と足を組んだ。
「ジャン。番いつがいになるというなら、全てを話すべきだ。ルナちゃん、考えてみろ。竜が人間が支配する地上で、千年も生きていたら、どうなるか解るか?」

 千年?
 竜の存在は、人間たちにとっては魅力的だ。私利私欲に囚われた人間が、1人、また1人と次々に現れ続ける。第二第三のエルバーン国が現れる。強欲な人間たちに、永遠に追われて暮らすことになる。恐れて殺そうとする人間も、次々と現れるだろう。
 元の世界でも同じだろう。竜が居たら。きっと、同じように研究材料やら、不思議な力に目がくらんだ人に追われる。生きている限り、ずっと。永遠に。
「人間の暮らす世界に、竜が存在すれば、いつかは捕まる。」
 私の言葉に、ガイアは頷く。
「永遠に人間に追われて生きる事になるだろうな。そして、いずれは、殺される。」
「・・・」
 
 ジャンが、いつか、殺される?
 ゾクリと背中を冷たい汗が流れ落ちる。

「ガイア。そんな話はやめてくれ。もう決めた事なんだ。」
「ジャンクロード!決めたって、まだちゃんと番いつがいの関係にはなっていないんだろう?まだ間に合う!」
 ガイアは、ジャンを必死に説得しようとした。

「俺が、翼麟を取り返してやる!」
 
 
  
  

 
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