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Episode 18 あてのない旅

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 街を出てから、暫くは街道を抜けて、そこから思うままに馬を走らた。
 海に出れば、海釣りをして、川があれば川魚を釣った。森の中では果物などを収穫して食べた。でも、やはり私に野菜や肉を食べさせようと思ったジャンは、時々は村などに出て買い物をする。
 そうやって、だいぶ遠くまで旅をして来た。


「ねぇ!これ見てこれ!」
「どうした?」
「これ!この木!」
 私は、森の中で懐かしい物を見つけたのだ。 
「この木!メープルの木!」
「メープル?」
 そこには、大きな掌のような形をした葉をたくさんつけた、大きな木があった。
「この木は、私が産まれた国の国旗になってるの!懐かしい!!」
 落ちている葉っぱを拾って、顔の前に持ってくる。
「ここに目と口を書いてね、お面みたいにして子供の頃は遊んだわ♪こっちの世界にも同じ木があるなんて!」
 私は、すっかりはしゃいだ。
 地面に落ちている、たくさんのメープルの葉をかき集めて、空に向けて巻き散らす。

 その姿を、目を細めて見つめるジャンの傍に、ポールがやってくる。
 そして、そっとジャンに言った。 
「おそらく、深い意味はありませんよ。故郷を懐かしく思っているだけで、帰りたいという恋しさでは無さそうですよ?」
 ジャンは頷くように目を閉じてから、ポールに視線を移す。
「・・・そうだな。」
 そう答えて、少し歩いて行くと崖があって、崖の下は街があった。
 そのまま、空を見上げる。
 
 ジャンは、ふと思っていた。
 ルナと出会う前は、空を見上げると恋しかった。自由に空を飛びたい。駆け上がりたい。こんな所に落ちてしまった自分を恥じた。早く這い上がりたかった。でも、今は違う。
 この地上を、もう少し知りたいと思い始めている。ルナの好きなものや、彼女が教えてくれる綺麗なものを、一緒に見ていたい。ルナとの、この時間が永遠であって欲しいと思う。

「わぁ~!!ねぇ!見て見て!!このキノコ!」
 再び、ルナが歓声を上げたので、振り返るとポールがルナの隣に座り込む。
 まさに綺麗なピンク色のキノコと、ブルーのキノコ。・・・・鮮やかすぎて、毒々しいと言うべきか? 
 すかさずにポールが言う。
「ルナ様、食いしん坊ですからねぇ~。食べちゃダメですよ?こいつは毒キノコかもしれませんし。」
「やっぱりダメそうだと思う?」
「色鮮やかなのは危険だと相場は決まってます」
「だよね~。」
 そう言うと、チラッと見え隠れした方向に視線をうつして、ルナは走って行った。そこには、綺麗な湖があった。
 
「綺麗な湖~♪」
 森の中で、透き通った湖を発見する。
 じーっと見ているうちに、私はモジモジと2人に言う。
「・・・水浴びしていい?」
 野宿生活が続いていて、なかなかお風呂に入れない。川で水浴びを時々するしか出来ないのだ。こうして、綺麗で良さそうな川や水を見つけると、私は水浴びしたいとお願いした。
 ジャンとポールが、すぐに周囲を確認する。
「いいよ。少し離れた場所で待っているから、終わったら声をかけるんだよ。」
 そう言って、後ろを向いてくれる。ポールも周囲の見回りに徹する。

 木の陰で服を脱いで、きちんと畳む。そうっと、つま先から湖に入った。
 今日は良く晴れていて、太陽の木漏れ日が綺麗だった。気候は温かいのに、水は鳥肌が立つほどに冷たかった。それでも、さっぱりする。
「はぁ~。気持ち良い。」
 背泳ぎをするように上を向いて、水に浮かぶ。
 少しボーっとしてから、ふと足元を見ると、ニョロニョロと水面がゆれる。
「?!」
 スゥ~っと泳いでくるものがあった。紐じょうの物が、クネクネと泳いで向かってくる。ニョロニョロ・・・・ッ!!!!

「きゃぁあああああああ!!!!」
 私は悲鳴を上げて、パニックになりバシャバシャと逃げ泳ぎ始める。すぐに、足首あたりに、ブスッと何かに噛みつかれた痛みが走って、振るい落そうと暴れると、水の中に体が沈んだ。ブクブクブクッ!!っと沈んで、慌てて水面に上がろうとして、手と腕が水をかく。だけど、なかなか上に上がれず・・・

 そこへ、バシャン!!!とジャンが湖に飛び込んで来た。そのまま、ルナを掴んで湖から上がる。
 陸地に上がると、ポールがすぐに大きな布で私を包んだ。

「ゲホッ!!ゴホ・・・ゴホッ!!ゲホッ・・・!!」
 思ったよりも水を多く飲んでしまったのか、鼻の奥がツンと痛んで、苦しくて涙も流れる。
「ルナ!大丈夫か?!何があった?!!」
 ジャンが心配そうに顔を覗き込みながら、私を支える。
 私は痛む足に手を伸ばす。その仕草に、2人が気がつく。
「・・・蛇、っが!・・・ゲホゲホッ・・!」
 それを聞いたジャンは、すぐさま私の足に口を付けた。ポールは、私の足をギュッときつく布で結んだ。
「!!・・・っ!」
 足に痛みが走る。ジャンは、噛まれた傷口から血を吸いだすと、地面に吐く。何度かそうしてから、ペロリと唇を舐める。
「毒蛇だな。毒の味がする。」
「ジャンも毒飲んじゃったの?」
「心配ない。私は、こんな毒が効くような生き物ではない!」
 そう言いながら、私の体に掛けられた布を引っ張る。少しはだけたのを隠すようにしてから言った。
「急いで医者に診てもらおう。さぁ、服を着るんだ。立てるか?」
「医者?・・・でも、近くに町とか探さないと・・・」
 そう言うと、ジャンは私の服を持ってくるなり、上から着せて行く。ワンピースをサッと着せてしまうと、私を横抱きにして、持ち上げた。
 
 そのまま、数分歩いて行くと・・・そこは崖の上で、眼下には大きな街が広がっていた。

「ジャン!すっごい眺め!わぁ~~♪大きな町~!」
 3人で崖の上から街を見下ろす。
 ポールが首をかしげる。
「おかしいですねぇ。大きな市町村を避けて歩いてきたはずなのに・・・」
 ジャンが頷く。
「どうやら、道を誤っていたようだ。途中から、道を外れてアバウトに進み過ぎたな。」
 その時、私はくしゃみをした。
 それを見たジャンが、少し考えてから言う。
「ずっと野宿だったからな。それに少し北寄りに来てしまったようだし、今日は医者に行ってから、どこかの宿に泊まろう。」
 明日になったら、南に方向を変えて、そろそろ永住する場所を考えようという話になった。


 街外れのお医者さんに、解毒薬を貰えたのでそれを飲んだ。一安心して、街外れの宿に向かうと、宿の主人が言った。
「部屋にシングルサイズのベッドが1つしかないけど、いいかい?新婚さんなら、少し狭くても大丈夫かねぇ。」
 私とジャンを見て、宿の主人はニコニコ笑う。
 ポールは、こうゆう時は宿代がかからないように、鱗に戻ってもらっている。
 ジャンと私は、互いに顔を真っ赤にする。
「?あんたたち夫婦だろう?今日はあいにく1人客用の部屋しか空いてないんだよ。なぁに、くっついて寝ればなんとか寝れるさ。」
「・・・わかった。頼む。」
 ジャンがそう答えると、部屋の鍵を受けとる。
「あぁ、あとウチは1階が食堂になってるからさ、よそに行かないで、ウチで食べて行ってよ!安くするからさ♪朝食は無料だよ!」
 ・・・そんなふうに言われてしまうと、どうも断り難いなぁ。
 とりあえず、部屋に荷物を置きに行く。

 部屋に入ると、確かにベッドが1つしかないし、小さい・・・。
 この世界に来たばかりの頃は、一緒のベッドに寝ていたけど・・・。
「あ、あの、私!先にお風呂使わせてもらうね!」
 ずっと野宿生活で、お風呂に入りたい。さっき湖に入ったし、数日前も川で身を清めたけれども、お風呂は1週間ぶりだ。
「1人で大丈夫か?」
「・・・う、うん!大丈夫だよ。」
 そうして、傷口を気にしながらも、久しぶりのお風呂に入った。全身を石鹸で洗って、心も体もリフレッシュする。

 はぁ~~♬お風呂って、やっぱり最高♪
 こんなに幸せなことは無い!!

 そうして、落ち着くと、湖でのことを思い出して、赤面する・・・。

 私・・・何も身につけて無かった・・・。
 思い出すだけで、顔から火が出そうで、恥ずかしさと色んな気持ちで、いっぱいいっぱいになる。

 ジャンにどう思われただろう?とか、周囲からは夫婦だと思われてるんだとか、なんか、ドキドキする。
 そんなことを考えていると、だんだんのぼせてきて、お風呂から上がる。
「あれ・・・?」
 なんかフラフラしてきちゃった。急いで体を拭いて、服を着る。でも、もう立っていられなくなって、部屋に戻ってベッドに倒れ込んだ。

 その夜。
 私は発熱してしまった。



  
 

 


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