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Episode 17
しおりを挟む国王の軍が撤退していくと、シュバリエ侯爵邸と敷地内は、瓦礫だらけの焼け野原になった。
すると、ポールが竜の足元から、ひょっこりと出てきて言った。
「主!竜の玉の欠片です!」
そう言って、竜の口元まで高く放り投げた。竜は、それをパクリと口に入れて飲み込む。ポールは、それを確認してから、ジャンプして人並み外れた身体能力を発揮し、私の居る竜の手の平まで飛んで来て一緒に手の平に納まる。
ポールは、城から逃げて来る時、どさくさに紛れて、竜の玉の欠片を持って来ていたのだ。
ニコリと私に笑いかけて言った。
「竜の玉は、竜の食べものでもあるんですよ。人間の姿では食べられないのですがね。これを食べれば、少しは竜本来の能力が戻ります。」
ポールがそう言ったのと同時に、竜が地面を蹴る。
グンッと、宙に浮くと、竜は空を駆けた。
「飛んだ!飛んだわ!空を飛べるようになったの?」
私の声に、ポールが首を横に振って答える。
「残念ながら・・・雲の上までは飛べません。浮いて移動ができる程度と言ったところでしょうか。」
「・・・そっか。」
あっという間に海を越えて、森の中へと降り立つ。
手の平から、私とポールを地上に下ろすと、竜は人間の姿に変身した。
「ジャン!大丈夫?どこも怪我してない?」
私はジャンの傍に駆け寄って、体中を見回す。
「大丈夫だ。かすり傷1つ無いよ。それよりも、これからの事だが・・・」
「主、ここは、エルバーン国外です。このまま人里離れた場所で、静かに暮らして行けば良いのでは?」
ポールの言葉に私も乗っかる。
「もう、あの国を出ているの?それなら、このまま出来るだけ街を避けて、もっと遠くの、良さそうな場所を探して旅をするっていうのはどう?」
ポールが大きく頷く。
「いいですね!隣国とはいえ、まだ国境沿いですからね。竜を見た事が無い国まで行くのが万全と言えます!」
「待て!!」
ジャンが制止して、煮え切らない顔で、私を見る。
「ルナ。おまえは、エルバーン国に戻ることも出来る。ルナベルとして、伯爵令嬢として何不自由なく暮らしながら、元の世界に戻る方法を探すという事も出来る。」
「元の世界に戻る方法が、まだあるの?」
「・・・」
私の質問に、ジャンは黙り込んだ。きっと、もう方法なんて見当もつかないのかもしれない。
元の世界で読んだ数々の物語では、異世界から現世に戻るには“同じ条件”と言うのが、お決まりだったと思う。だけど、私の場合は、もう不可能だ。鏡が無い。最初に着てた服も、多分もう無い。
この世界で生きるしかないなら、私は、ジャンと一緒にいたい。
「私が、一緒だと邪魔?迷惑?」
「そうじゃない!ただ、私と一緒では、世間から隠れて生きなければならない!危険も伴うだろう。それに一緒に行くということは、つまり・・・」
「私は一緒に居たい!」
世間から逃げて、危険だとしても、一緒がいい。
金色の目を真っすぐに見て、ジャンの腕を掴む。
「邪魔でも迷惑でもないなら、一緒に連れて行ってよ!」
ジャンは、言おうとした言葉を飲み込んだ。
ただ、ルナが自分とは違う意味で、一緒にいたいと言ったのだとしても、それでも良いとすら思えたのだ。
ただ、他の事など考えずに“傍にいたい” “一緒にいたい”と思う、その気持ちだけで動いても許されるのではないか・・・と。そう思うことにした。
「わかった。では、先を急ごう。日が暮れる前に行ける所まで行って、宿も取らなければならない。私はともかく、人間のお前を野宿させるわけには行かないからな。」
ジャンのその言葉を聞いて、これからも一緒に居られるんだと思うと、心が躍り、足取りも軽くなる。2人の男性の両腕にしがみついて、私は満面の笑みで言った。
「私は野宿でも平気♪」
ふふふっ♪と笑って見せると、ジャンが意地悪そうに言う。
「野宿したこと無いだろう?お前の知らない、這う虫や、人間の血を吸う毛むくじゃらの足が8本もある虫なんかが、この世界にはたくさんいるんだぞ?森の奥には人食い獣がいるとか。」
「・・・・っ!!」
ゾワゾワゾワ~~~!!聞いてるだけで嫌かも!!
「主。ルナ様を脅かして遊ばないでください。」
ポールの呆れた言葉に、なんだ嘘?と気が抜ける。
「大丈夫ですよ。香木を炊くと近寄って来ないそうです。まぁ、我々には近寄って来ないので詳しくは知りませんがね。」
・・・実在するのね。
少し歩いてから、ジャンが溜息をつく。
「ともかく!このペースでは森を抜ける前に日が暮れる。少し走って行こう。」
そう言うと、ジャンは私を軽々と抱き上げた。
「ちゃんとしがみついてろ。」
そのまま、ジャンとポールは走り出す。そのスピードは、車のようだった。こうゆう時ばかり、人間じゃないんだなと実感する。
時々、ジャンは私の顔を見て、大丈夫そうか確認してくれてる。そうゆう優しい所が、好きだな。なんて、そんな事を考えながら、流れていく森の中の景色を見ていた。
そうして、私達の安住の地を求めての旅が始まった。
◇◇◇◇◇
森を抜けて、私達は近くの街に来ていた。
街を避けて行くつもりだったけれども、結局は生活の為に、何かと調達しなければいけないものがあって、買い物を済ませて直ぐに街を出ることにした。
3人で話し合った結果。
①目立たない服装&防寒具、②旅費、③携帯食などが必要だということになった。
「費用・・・お金はどうするの?」
私が聞くと、ジャンは腕を組んで真剣に考える。そこへ、ニマニマと笑みを浮かべるポールが巾着袋を取り出して、言う。
「ここに、今まで何かの時の為にと集めておいた主の鱗がありますから、売って資金にしましょう!」
「・・・・」
「・・・・」
ジャンは、ポールをジトーーーっと見つめる。ポールは悪びれる事も無くニコニコしながら、宝石店へ入って行った。
「あいつは、本当によく動く“使い”になったな。」
ジャンが、やれやれとポールの後ろ姿を見送っている後ろから、私は言った。
「じゃぁ、ポールが戻ってきたら最初に眼鏡屋さんに行かない?ジャンの目は目立つから、サングラスみたいのが必要かも。」
「あぁ、確かにそうか。」
ジャンは自分の目に手をかざす。
すると、目の色が茶色に変色していった。
「色を変える位は出来る。集中していないと元に戻ってしまうがな。」
その目の色を見て、少し安心する。
「じゃぁ、まずは洋服だね!」
ジャンの鱗を売ったお金が、かなりの資金になっていた。旅用の服とバッグなどを購入。剣などの武器も調達して、すっかり3人は旅人らしい装いになった。
私は、この世界に来て、初めての村に心を躍らせた。
「ねぇねぇ、あれ!あれ何?」
屋台もいくつかならんでいて、私は良い匂いがしてくる屋台を指差す。
「あぁ、あれは、ポテトと肉の串焼きですよ。お祭りなどでよく見かけるものです。」
ポールが説明してくれた。
「串焼き・・・」
どっからどう見ても、日本で見た屋台の串焼きと同じに見える。カナダでもああいうBBQしたことあるなぁ。ジーーっと見ていると、ジャンとポールが、私をジーーーっと見つめる。
「食べたいのか?」
「食べますか?」
2人に聞かれて、ちょっと姿勢を正してから言う。
「うん。ちょっと興味ある。」
ポールが1つ買ってきてくれたので、近くのベンチに座って受け取る。
「2人は食べないの?」
「ポールは生き物ではないからな、食さない。竜はもともと肉を食べない。とは言っても、興味本位で最近は何でも食べてしまっているがな。」
ふーん。そうか。そうゆうもんなんだね。
「じゃぁ、頂きます!」
パクリと食べてみる。その味は、まさに塩気がしっかりしていて、久しぶりに口にしたジャンクな味だった。
「~~~~~!!あぁ、マ●クが恋しくなる~!!」
お肉とポテトを噛みしめながら、前の世界に思いをはせる。
そんな姿を、2人はジーーーっと見つめた。
パッと目を向けて、ジャンを見つめる。
「?」
「ねぇ、ちょっと食べてみない?」
「・・・・いや、生き物の肉というのは・・・ちょっとな。美味いか?」
「うん!ここのカリカリのポテトなんかは、塩気がすっごい効いてて美味しいよ!」
そう言って、ジャンの口元にポテトを持って行く。
ジャンは少し困惑した顔をしたけれども、綺麗な仕草で、そのまま私の持つ串にささったポテトをパクリと食べた。
モグモグするジャンは、可愛らしい青年にしか見えない。
「・・・しょっぱい。」
そんな可愛らしい感想まで聞けた。
そうして、私たちは腹ごしらえもして?先を急いで、街を離れた。
私たちが旅立った1週間後、その街へアンドリュー王子と私兵数名が訪れていた。
アンドリュー王子の側近が、宝石店から出て来る。
「殿下!どうやら、1週間ほど前に、旅人が来て竜の鱗を宝石店に持ち込んだそうです。それも大量にです。」
「殿下。服屋に現れたのは3名の旅人だそうで、うち1人が身なりの良い女性だったと。」
アンドリュー王子は、頷く。
「見つけた!間違いない。このまま足取りを追うぞ!」
「は!!」
アンドリュー第2王子は、夕日を眺めながら呟いた。
「ルナベル。待っていてくれ。必ず、おまえを取り戻す。」
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