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Episode 16 決別

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 翌朝、朝食を終えて、着替えを済ませると、部屋にジャンがやってきた。ポールも一緒で、どこかかしこまった感じがする。
「どうしたの?」
 何かあったのかと不安になって聞くと、真剣な顔でジャンが言った。
「ルナ。これから、元の世界に帰れるか試してみよう。」
 そう言われて、私はフリーズする。

 帰る?
 元の世界に?
 ・・・あぁ、そうだよね。・・・帰らなくちゃ・・・。

「ジャン。」
「ん?」
「あなたは、どうするの?このまま、ここで生活していくの?」
 自分で何を聞いているんだろう?て思う。だけど、心配なのだ。
「お前には関係の無い事だ。」
 突き放したように言われて、改めて思う。私なんかが何も出来ないし・・・もしかすると、居るだけ邪魔なのかもしれない。

 ジャンが、衣装室に入って行くので、私もその後に続く。
 部屋の電気を付けて、ジャンもポールも、制止した。
「あ・・・」
 鏡が床に倒されて、荷物が上に置かれているので、2人とも呆然とした様子だった。なので、慌てて言い訳する。
「あ~あのね!これはね!私の決意なのよ!翼麟が見つかるまで帰らないぞ!って決めたから、だから・・・」
 言いながら、荷物をどけていく。
 そこへ、ジャンも一緒になって荷物をどけてくれた。なんとか、鏡を立てかけてみる。

 3人でジーーーっと眺めて、ジャンは顎に手を置く。
「普通の鏡に見えるな。」
 その言葉に私も反応する。
「うん。特に変わらない普通の鏡よね?」
 一応、鏡に手をついてみる。
 そこへ、ジャンが後ろから鏡に手を置く。目を閉じて、呪文のような文言を言い出した。

『父と子と精霊の御名において……今一度、扉を開かん!』

 ジャンの体から、青い光が湧き上がり始める。
 青い光が鏡面を波打ちながら包み込み始めると、風が鏡から吹いて来る。

 必死に見てると、ポールが後ろから、説明してくれた。
「竜の神力しんりきを使って、時空の扉を開こうとしているのです!」
 
 青い光が、鏡面を覆いつくして上から波打ちながら、青い光が消えて行く。
 すると、だんだんと見覚えのある部屋が映し出されて、見えてきた。

 あ・・・・懐かしい壁紙。
 壁紙に貼られたポスター。シングルサイズのシンプルなベッド。

「・・・私の部屋・・!」
 私は思わず、鏡に近寄って、手を当てる。だけど、映し出された世界には行けないようだった。
「ダメみたい・・・そっちに行けない・・・」
 何度も、鏡を触って確かめるけれども、映し出されているだけで行けそうに無い。

 その時だった。鏡の中から声がする。
「ルナ~?早くお風呂に入っちゃいなさい。」
「!!?・・・お母さん?!お母さん!!mom!?」 
 ルナの必死の呼びかけに、母からの反応は無く、別の声が響いた。
「はい!今行きます。」

 え?
 その声と共に、鏡の中を横切った女性が居た。

「ルナベル!!?」

 私は、鏡の中を横切って行った女性が見えなくなってしまったのを、慌てて呼び戻そうとした。
「ルナベル!!ルナベル!!」
 何度も呼ぶと・・・そろりそろり、と、鏡の中に女性が戻って来る姿が映し出される。

 私と同じ顔をした女性が、目を大きくさせて言った。
「ルナ・・・?」
「ルナベル!」
 みるみるうちに青い顔になって行くルナベルは、震える声で言った。
「ルナ・・・ごめんなさい。あ・・・そこに居るのは・・・侯爵様・・・!!」
 私の後ろにいるジャンを見て、ルナベルはガクガクと震え始める。
 ジャンは私の隣に立ったままで、鏡に掴みかかる。
「おまえが本物のルナベルだな?お前の居る場所は、その世界ではない!こちらへ来い!」
 ルナベルは、震えながら首を横に振る。
「ごめんなさい・・・!ごめんなさい!私・・・私は・・・」

 その時だった。
「うっ・・・!」
 急に、ジャンが右耳を押さえて、フラッとする。
「どうしたの?」
 ジャンの腕を支える用に掴むと、ポールが、衣装室の扉から外に出る。

「結界が破られました!!・・・兵士200名ほど敷地内に侵入!おそらく国王の近衛隊です!」
 そう言った瞬間だった。
 ドオン!! 
 地響きのような音がして、建物が揺れる。
 ジャンは眉間に皺を寄せて、鏡に手を置いたままで言った。
「くそっ!こちらに力を使い過ぎて集中しすぎた。まさか、要塞でもない屋敷に大砲をぶち込むとは!」
「ジャン!大丈夫なの?」
 少し焦りを見せて、ジャンがルナベルに叫んだ。
「早くしろ!ルナベル!こちらへ来い!!
 
 ルナベルは、震えるばかりで首を振る。
「ごめんなさい・・・私、あの方以外には触れられたくない!自害することも出来ず・・・ルナのフリをして、のうのうと生きて、ごめんなさい!」
「ルナベル待ってよ!でも、アンドリュー王子に会いたくないの?戻って来たくないの?」
 私の質問に、ルナベルは泣きながら言った。
「会いたい!会いたいけれど、それも叶わないわ!あなたに身代わりをさせたのだもの!私は罰として余生をここで暮らすわ!」

 屋敷の1階から、大勢の兵士たちが乱入してくる音が響き始める。
あるじ!」
 ポールがジャンに呼びかける。それを聞いて、ジャンは叫んだ。
「ルナベル!第2王子の所に返してやる!だから戻れ!!今すぐにこちらへ来い!!」
「え・・・?」
 ルナベルが顔を上げた。

 あっという間に2階の廊下まで、ドカドカ、ガヤガヤと兵士達が上がって来る音が響いてくる。「竜を探せ!殺せ!」そんな怒号が響き始める。

 私は、目の前に元の世界があるのに、違うことを考えてた。今、私は、元の世界に帰れそうなのに。もうすぐで、ルナベルを説得して帰れるかもしれないのに。どうして?

 帰りたくない

「竜を殺せ!退治しろ!生かしておくな!」      

 バキィ!!っと音がして、部屋の中に兵士が入り込んで来る音がする。それに、ポールが応戦する。
 部屋に乱入してきた兵士の中に、アンドリュー王子が居て、王子が叫んだ。
「ルナベル!!どこだ?!ルナベル!!」

 その声を聞いたルナベルが声を上げた。
「アンドリュー様!!」

 その声を聞きつけたアンドリュー王子が、衣装室に入って来る。
 私とジャンを見るなり、王子は怒りを爆発させるように、大きな剣を振り上げてジャン目掛けて飛び掛かってきた。
 私は、反射的にジャンを庇おうとして、ジャンがそれに気がついて、私を引き寄せて剣を避ける。王子の剣が振り下ろされて、鏡を真っ二つに割り壊した。
 ガラスの砕ける大きな音と共に、鏡は崩れた。

 それを呆然と見る私を、ジャンは引っ張り部屋を出る。

 衣装室から部屋に戻ると、ジャンは青い光に包まれて、竜の姿に変身した。


 剣も矢も何も貫けない体となった竜は、手に私を握りしめて、大暴れし、火を吐き館を焼き払った。敷地内も全て焼き払い、兵士達はチリジリになって撤退していく。

 口惜しそうにする王子がチラリと見えたけれども、私は大きな竜の手の中で、竜の手の感触を確かめてた。

 
 ジャンは本当に竜だったんだって。
 本当は強いんだなって、ただ、それに安心して、その手の中でしがみついていた。

  

 
 

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