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Episode 1 異世界
しおりを挟むこの春、私は大学受験に成功して、卒業旅行はどこに行こうかとか、浮き立つ気持ちだった。
I wonder where to go.
SNSに、呟くように打ち込むと、1人から返信が来る。
come here
この人、誰だっけ?
そう思って、ニックネームを確認するけれども、思い出せない。暫く考えてから、少しだけ思い出す。1度だけ会ったことがある人だ。
もう、今では顔も覚えていない人。
SNSで、週1回くらいは写真をUPしている人。それを見るのが楽しみになっていた。
ナイアガラの滝、ケベック州、ロッキー山脈、オーロラ、など、旅好きなのか、様々な写真をUPしている。
私の父は日本人で、母親はカナディアンだ。
産まれはカナダで3歳まで居たらしけれど、記憶は無い。だからかなぁ?カナダを中心にUPされる写真に、親近感すら感じるのだ。
そんな写真には、いつもの決まり文句が添えられていた。
「Everything is going to be OK.」
全て上手く行く。
この言葉が好きだった。
優柔不断な私に、前へ進め、と背中を押してくれるんだ。
今日。
私は初めて、この人にコメントした。
All your pictures are so beautiful
How do you take such beautiful pictures?
どうやったらこんなに素敵な写真が撮れるの?
すぐに返信は無かったけれど、暫くしてから返信があった。
There is someone special in my life
あ、そう来る?と思ったけれど。素敵な写真を撮る人だから、芸術的センスと感覚で物事を見る人なのだと思う。そんな事を考えていると、相手から続きの文章が送られてくる。
Who is the most important person in your life?
あなたの人生で大切な人は誰ですか?
family・・・と打ち始めて、私はふと自分の部屋にある姿見の鏡に視線を移した。
どうして、その時、急に鏡を見たのか?というと、特に理由は無い。
たぶん、本当に“何か”の予感。
私の部屋にある姿見の鏡は、カナダから持ってきたというアンティークな鏡だ。
今は深夜の13時を超えたところ。いつもの姿見の鏡には、私が映し出されていて・・・?
いや違う。
私の顔をしているけれども、それは、私ではない。そのことに気がつくのに、数秒かかった。
もしかすると、1度しか会った事もない人とSNSで会話しているあたりから、普段の私ではないような行動だったし、そこから、夢だったのかもしれない。
鏡に映し出された女性は、私の顔をしたお姫様だった。
いや、中世ヨーロッパ風?のドレスを着て、そこに立っていた。
「え・・・?」
私は立ち上がって、鏡の近くに行って、鏡をまじまじと覗き込む。
見間違い?でも、顔は、やっぱり私だ。
驚いた顔で、鏡に触れようとする行動に、引き込まれるように、私も鏡に手をついた。その瞬間だった。
鏡の中に引き込まれた。
周囲を見渡す。
洋服が沢山収納されている、ウォークインクローゼットだった。だけど、服は全部、結婚式場か?というほどにドレスばかりだ。
その時、鏡の中から声がした。
「あなたは・・・誰?ここは・・・」
振り返って鏡の中を見ると、鏡の中には私の部屋があって、入れ替わったように、私の顔をしたお姫様が居た。
「何?これ?どうゆうこと??」
私は、パニックになって鏡に近寄って、手で触れてみる。だけど、自分の部屋には行けない。その姿を見て、私の顔をした女性が言った。
「お願い!私の身代わりになって欲しいの!」
ドレスを着た女性は、意味の分からない事を言い出した。
「お願いします!私には愛する人が居るのです!ですから、私の身代わりになって!」
泣きながら言う女性の、思いつめた切羽詰まった言葉。
頭の中はグルグルと、思考しようとして、半分はフリーズしていた。
「え?待って・・・あの、どうゆう状況?ナニコレ?」
泣きながら、私の顔をした女性は言う。
「私・・・恐ろしい・・・恐ろしい男と結婚させられて。でも、やっぱり耐えられないの。自害しようと思ったけれど、あなたが現れて・・・これは神様の救いだわ。」
「え?あ~・・いやいや、何を言ってるの?」
その時だった。
隣の部屋から、女性の声がした。
「ルナベルお嬢様?!もうお仕度のお時間なのに、どちらに行かれたのかしら?」
なんとなくだけど、私を探しているのだと分る。
焦って、私は鏡の中の女性に言う。
「助けて!冗談やめてよ!そこは、私の部屋!」
女性は、鏡から距離をとるように後ずさった。その瞬間に、鏡はクローゼットの中と私を映しだした。
え?嘘でしょ?
「まぁ!ルナベルお嬢様!このような場所で何をしていらっしゃるのです?」
メイドのような恰好をした女性たちが数名現れて、私の腕を掴む。
「さぁさぁ、今日は結婚式ですからね!すぐにお仕度を致しましょう。今日は、良いお天気でようございました。」
私は、必死になってメイドさん?に掴みかかって言った。
「あ、あの!私は、瑠奈です!人違いですよ!青木瑠奈です!ルナベル?って人じゃありません!!」
メイドたちは、目を点にして一瞬止まったけれども、可愛そうな人間を見る目で、頷きながら言う。
「お嬢様。ばあやには、解っております。この婚姻が、どれほど意に反するものか。しかし、シュバリエ侯爵は国にとって重要な方です。国王がお決めになった婚姻ですから、旦那様も誰も断ることができなかったのですよ。」
どうやら、口を半開きで話を聞いている私が、偽物だとは、誰も気がついていない様子で、どんどんと、ドレスを着せられて、化粧をされていく。
コーシャク?オウサマ?婚姻?結婚式?!
もはや、次から次へと、絵本の中の世界すぎて、ツッコミすらできない。
「まさか、お嬢様が・・・生贄のように婚姻させられるなんて。」
若いメイドさんが可哀そう!と言って涙ぐむ。その様子を、他人事のように眺めながら、じゃぁ助けてくれ!と心の中で呟く。
「生贄だなんて!何て事を言うんです!!」
そう言った、ばあやまでも、涙ぐむ。
オイオイ、何々?結婚式に、お葬式のような、この空気。
生贄?どんな結婚相手?
ルナベルって子が、死にたいほど嫌がってた相手って・・・?
どんななの?
涙を拭きながら、ばあやが言った。
「シュバリエ侯爵は、人間ではないですが、戦場以外では人の形をしているし、」
「はぁ?!」
話の途中で、私は大きな声を上げてしまった。
「人間じゃ無いの?!」
私の言葉に、全員が「?」という顔をする。
「・・・お嬢様、あまりのショックに、混乱されているんですね。」
「ねぇ!人間じゃないなら、なんなの?!?種族違う生き物が結婚できるわけないでしょう?!」
「お嬢様・・・・お可哀そうな、お嬢様・・・」
さめざめと、その場に居たメイドたちが泣き出す。
チーンと、お経でも響いてきそうな暗い雰囲気。
おいおい、これは夢?
大学合格して、頭が緩んで、変な夢見てる?
お願い、誰か助けて。
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