君の矛先

月野さと

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第6話 皇太子妃の選出

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 その日から、皇太子妃の選出が始まった。
 選出方法は、次の3つの方法で決められる。
 
《第1回》
 皇太子妃候補が1人ずつ、貴族たちを招待したお茶会を開催する。
 貴族たちが、誰のお茶会が1番良かったかを決める。
 
《第2回》
 王妃様へのプレゼントとして、刺繍をすること。
 候補者の令嬢たちが作った刺繍を見て、王妃様が刺繍を1つだけ選ぶ。

《第3回》 
 皇太子が出す、政治的な問題に答える。
 質問される内容の詳細は、当日にならないとわかならない。
 とは言っても、令嬢が答えられる程度の難しい物ではないことが多いらしい。

 令嬢の、器量を見るといった所だろう。
 王妃様のプレゼントとしての刺繍も、刺繍の技術だけではない、何をデザインするのかが問題。王妃様の好みを調べるために、人のつてが必要だ。情報収集する力だ。相手への敬意と気遣いなどが必要。
 お茶会の主催も、同じである。周囲との連携や指揮が必要だし、スムーズに段取りを組まなくてはいけない。センスや行き届いた気遣いが必要だった。


 まず最初に、お茶会を開く令嬢は、ビビアン・シュチュアート侯爵令嬢となった。
 レオノーラは、それを聞いて、素直にわくわくした。
 お茶に詳しく、ブレンド茶まで作ると言っていた令嬢が、どんなお茶会を開くのか?今までにない新鮮なものになるに違いない。
 朝食の時間、食堂でビビアンに話しかけた。
「最初のお茶会の主催、ビビアン様なんですね。とても楽しみだわ。」
 静かに食事をしていたビビアンは、レオノーラに答える。
「ありがとうございます。期待に添えるように頑張りますわ。」
 それを聞いて、隣で食事をしていたメアリー嬢が、くすくすと笑う。
「成り上がりの貴族が、出しゃばって、せいぜい恥をかかないようにすることね。」
 鋭い視線をメアリーは、ビビアンに向ける。
 ビビアンは、恐怖に目を泳がせる。
 レオノーラは、食事の時間位、楽しい会話が出来ないのかと、溜め息をつく。そして、メアリーに言い返した。
「そうですわね~。メアリー様も私も歴史ある家門。古くて凝り固まった形式ばかりを大事にしすぎて、古くてつまらないお茶会にならないよう、気を付けなければ、恥をかくわ。」
 そう言って、素知らぬ顔で、温かいスープを口に運ぶ。
 メアリーは、レオノーラを睨む。
「ラッセル伯爵令嬢、私につっかかってくるのを、やめて下さいな。私が朝からあまりにも美しいので、嫉妬されているのかしら?」
 レオノーラは、思わず吹き出しそうになったのを堪える。あっぶな!
 でも、ついつい、そう言われて、彼女の胸元を見てしまう・・・。
 大きくて柔らかそうで張りのある胸。腰は細いのに、頬はこけていないし、どうやったら、その体系維持できるのか?ダイエット?運動?いや、確かに魅惑的だとは思う。
 というか、体のラインも見えて、胸は開き過ぎのドレスで、朝から刺激が多いなぁ。
 
 メアリーを見ていて、ふと、視界に入ったのは、斜め前に座っていたジュリア様。
 グラスを手にしたまま、何か様子がおかしい事に気が付く。

 次の瞬間、
 ジュリア様が、激しく咳き込んだ。

「ゲホッ!!!ゲホ!」
 レオノーラは、咄嗟に立ち上がる。
 給仕たちも、慌てて駆け寄った、その時、ジュリア様は、椅子から転げ落ちるようにして、倒れた。

「ジュリア様!?!?!?」
 レオノーラは、すぐさま、ジュリア様の側に駆け寄る。
 ジュリア・ホークス公爵令嬢は、激しく咳き込みながら、うずくまったので、肩を支えようとした瞬間に、泡を吹き始める。その姿を見て、一瞬、頭が真っ白になる。

 ジュリア様の手足は小刻みに震え、痙攣し、顔面蒼白だった。そして、微かなこの匂い・・・・。

「毒・・・・」

 レオノーラは、頭をよぎったことを口にした。
 瞬間に、全員が距離をとったのが解った。

「だ・・・誰か!医師を呼んで来て!早く!!!」
 そう言いながら、ジュリアの口に指を突っ込む。迷わず3本を喉の奥に突っ込んだ。
 前傾姿勢にさせながら、舌を押し指を奥に入れる。すると、ゲホっとジュリアは嘔吐した。
 背中をさすりながら、名前を呼ぶ。
「ジュリア様!ジュリア様?」

 嘔吐した後、完全に意識を失ったようで、彼女は動かなくなった。



◇◇◇◇◇◇
 

 

 その頃、皇太子の自室に、エドワードが呼ばれていた。
 
「殿下、ウィンチェスター公爵のご子息、エドワード様がいらっしゃいました。」 
「あぁ、入ってくれ。」

 エドワードは一例して入出する。
「失礼いたします。殿下のお召しと伺いまして、参上いたしました。」
 堂々とした風貌で現れ、皇太子を見る。
 気安い感じでニコニコと、皇太子は誘う。
「2人で話すなんて、久しぶりだなぁ。まぁ、座ってよ。お茶でも飲もう。」
 無言のまま、エドワードはソファーに座った。

 暫しの沈黙が続く。
 エドワードはまっすぐな瞳を、皇太子へ向けたままに待っていた。
 麗しの王子様と言った感じで、優雅にお茶を手に取り、フィリックス皇太子はお茶を飲んだ。カップをテーブルに置くと言った。
「俺たち、こうして話をするのって、子供の頃以来じゃない?」
 他愛もない話からしようとすると、エドワードからピシャリと断られた。
「殿下。本日のご用件は?」
 チラリとエドワードを見てから、フィリックスは人払いをした。

 部屋には、2人だけになった。
「ラッセル伯爵令嬢のことだ。」
 そう言うと、フィリックスは、途端に無表情になり、口調を変えて淡々と言う。
「ウィンチェスター公爵から申請があった、君の婚約の書類を、受理させなかったのは私だ。陛下も、このことを知らない。」
 エドワードの眉間に皺が寄る。
「これには、理由がある。スムーズに間違いなく、王妃を選考するのに、彼女は利用できると思ったからだった。」
「利用、ですか?」
「彼女は、発言が斬新で飾りが無い。そんな異物を入れれば、女たちの本性が見れると思った。それだけじゃない。それぞれの派閥から、平等に女性を選出する必要があったのもある。」
「・・・・」
「しかし、彼女に会って、良い意味で裏切られたよ。」
 エドワードは、皇太子の表情が変化したことに気が付く。
 そして、無性に、嫌な予感しかしなかった。
「もう、彼女を、利用しようとは思わない。一人の王妃候補として見ようと思っている。」
 
 皇太子という立場の人間に、自分が何を言えるだろうか?
 エドワードは、両手を握りしめて、うつむき耐えることしかできなかった。

「一人の男として聞きたい。エドワード。」
 ゆっくりと、エドワードは顔を上げる。
「レオノーラと君は、恋人同士だったのだろうか?」

 一人の男としてなんて、エドワードにとっては、皇太子は皇太子だ。
 恋人だと言えば、彼女を開放してくれるのだろうか?いいや。そんなことはありえない。『恋人ではない』そう、言わなければいけない。

「殿下!・・・私から申し上げられることは何もありません。ただ一つ。」
 エドワードは、皇太子を真っすぐに見た。そして、なんとか声を絞り出す。
「願いを聞いて頂けるのであれば、レオノーラの幸せだけが私の願いだということです。」
 
 もしも、こいつが皇太子でないのなら、私は、利用できると言った瞬間に息の根を止めただろう。
 もしも、こいつが皇太子でないのなら、彼女を、今すぐに連れ出して帰っただろう。
 
 彼女が『行かないで』と言った。あの時に、
 彼女の為なら、何もかもを捨てても構わないと思った。

 エドワードは首を振る。ダメだ。
 破滅的な考え方はやめろ。
 今は、待つしかない。
 

 その時だった、バタバタバタと走って来る足音がしたと思うと、部屋のドアを荒々しくノックする者がした。
「皇太子殿下!大変です!妃候補が、毒を飲んで倒れました!」
 
 その知らせに、エドワードが立ち上がる。
「倒れたのは、誰だ?!」
「はっ、はい! ホークス公爵令嬢だそうです。」


 2人は慌てて、食堂へ向かった。


 
 
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