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第21話
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飛び出して、出て行ったものの、行く当ても無かった。
2日ほど彷徨って、結局、私は伯爵家に戻って来てしまっていた。
コウモリの姿のままで、家族に見つからないように、廊下のランプの影や、テーブルの下。ルナルドの部屋にも忍び込んだ。
今の時間は、ルナルドは学校に行っている時間だ。
部屋の掃除が終わったのを確認すると、ルナルドの部屋の机に腰掛けてみる。
子供のころから勉強ばかりで、この椅子に座っている姿を見ることが多かった。ふと、引き出しを上から順に開けていってみる。
ルナルドのお気に入りの万年筆と、インク。祖父の形見だというペーパーナイフだけが1番上に入っていた。2段目には、箱が入っていて、3段目には書類が入っているだけだった。
2段目の箱を取り出して開けてみる。
「・・・・」
それは、見覚えのある物ばかりだった。
はじめて伯爵邸に来て『お兄様、よろしくお願いします』そう言って挨拶代わりに渡した、ペン。その年の誕生日に、贈った本の栞。翌年の誕生日に送った、手袋。私が初めて刺繍した、ハンカチ。宮廷官僚試験に合格した時にお祝いで贈った万年筆。去年の誕生日に贈ったカフス。などなど、今までに贈った全ての物が、贈った時のままの状態で、箱にしまわれてあった。
私の贈った物を使っている所を、1度も見たこと無かった。だから、趣味が違ったり、好みでは無かったのかもしれないと思ったこともあった。
でも、なんとなく、今なら、理由が分かる気がする。
ルナルドは、私の事が凄く好きだ。隠しきれないほどに。だから、私の贈った物を隠してきたんだ。
この気持ちを隠さない、と決めてから、あなたは私に、たくさんの覚悟を示してくれた。
私もそれに答えたかったよ。だけど・・・。
やっぱり、どう考えても、自分が自分でいられなくなるなら、それは私じゃない。生きる意味なんて無い。そうとしか思えない。
私は、ルナルドから贈られたブローチを、その箱の中に一緒に入れた。
ルナルドと違って、私は贈られたものを、ボロボロになるまで使った。嬉しくて嬉しくて、初めて贈ってくれたリボンも、毎日のように使って、ボロボロになると、ルナルドが次の誕生日に新しいのを買ってくれた。
「次の誕生日は、壊れにくいものがいい」
そんなおねだりをして、選んでくれたものがブローチだった。
壊れたりしない。消えたりしない。無くなったりなんてしない。
返せない想いと一緒に、この箱に、ブローチを入れて引き出しに仕舞う。
その時、私はうっかり力を入れ過ぎて、引き出しを閉めた時に、ガタン!と音がなってしまった。
その音が少し大きく鳴って、廊下から声がした。
「ルナルド?・・・部屋にいるのですか?」
その声は、母の声だった。
ギッと部屋の扉が開けられて、コウモリに変身しようと慌てふためいて、窓の外に出なくてはと、手をかけた時だった。
「リリアナ?!」
変身し遅れて、窓から脱走しようとしている所を見つかってしまう。
私は振り返って、母を見る。
「お、お母様・・・」
伯爵夫人は、一心不乱に駆け寄ってきて、リリアナを抱きしめた。
「リリアナ!!リリアナ・・・!どこへもいかないで!」
「お、お母様・・・!」
「お願いよ。リリアナ!お母様の話を聞いて!お父様と話し合ったのよ。あなたとルナルドの気持ちを、認めると。ルナルドとリリアナが、そこまで想いあっているならば、2人を認めようって。」
・・・認める?
「お父様が?」
「えぇ、えぇ!そうよ。だから戻って来てちょうだい。もう、あなたたちを別れさせようなんて誰もしないわ。だから。」
私は首を振る。
もう、遅いのだ。何もかも、もう私は、人間じゃないんだから。
「でも・・・でも、お母様。私は、どんどん心を失っていくわ。最後は、私じゃなくなるのよ!そんな姿は見られたくないの!」
そう言っても、母は物凄い力で私の手首を握る。絶対に離さないという意思を感じた。
「お母様はね、あなたが、どんな姿になっても、あなたを失いたくないのよ!母親だもの!鬼になろうとも、あなたを守りたいの!・・・それに、それにね、リリアナ。お母様と同じように思ってくれる人が、あなたには居るでしょう?」
母は、嬉しそうに微笑んでいた。
「ねぇ、リリアナ。あなたの愛した人は、母親である私なんかよりも、強い愛情で、あなたを守ってくれる。そんな、あの子には、あなたが必要だわ。毎日、あなたを探して、学校にも行っていないわ。ずっと、あなたを探して歩いているのよ?」
「・・・ルナルドが?」
「リリアナがいなくなったら、この家はおしまいよ?」
「そんな・・・」
「だから。ここにいなさい。お母様も、ルナルドにも、あなたには居てくれるだけでいいのよ。」
「でも」
「本物の鬼になって、醜くても、無様でも、最後の最後まで一緒にいると、ルナルドと約束したのではないの?あの子は、そのつもりよ。」
「でも、でも、お母様・・・」
「本当にダメなら、その時は、お母様が殺してあげるわ!だから、安心して最後まで生き抜きなさい!最後まで悪あがきしなさい!!」
涙が、止まらなかった。
母は、やはり、強かった。
母に抱きつくと、しっかりと抱きしめてくれた。
「自分を信じられなくても、あなたを本気で愛している人を、信じなさい。」
私は、そのまま母に抱きついて、子供のように泣いた。
その後は、母に言われるままにシャワーを浴びて、自分の部屋に戻り、ルナルドに手紙を残して家を出た。
2日ほど彷徨って、結局、私は伯爵家に戻って来てしまっていた。
コウモリの姿のままで、家族に見つからないように、廊下のランプの影や、テーブルの下。ルナルドの部屋にも忍び込んだ。
今の時間は、ルナルドは学校に行っている時間だ。
部屋の掃除が終わったのを確認すると、ルナルドの部屋の机に腰掛けてみる。
子供のころから勉強ばかりで、この椅子に座っている姿を見ることが多かった。ふと、引き出しを上から順に開けていってみる。
ルナルドのお気に入りの万年筆と、インク。祖父の形見だというペーパーナイフだけが1番上に入っていた。2段目には、箱が入っていて、3段目には書類が入っているだけだった。
2段目の箱を取り出して開けてみる。
「・・・・」
それは、見覚えのある物ばかりだった。
はじめて伯爵邸に来て『お兄様、よろしくお願いします』そう言って挨拶代わりに渡した、ペン。その年の誕生日に、贈った本の栞。翌年の誕生日に送った、手袋。私が初めて刺繍した、ハンカチ。宮廷官僚試験に合格した時にお祝いで贈った万年筆。去年の誕生日に贈ったカフス。などなど、今までに贈った全ての物が、贈った時のままの状態で、箱にしまわれてあった。
私の贈った物を使っている所を、1度も見たこと無かった。だから、趣味が違ったり、好みでは無かったのかもしれないと思ったこともあった。
でも、なんとなく、今なら、理由が分かる気がする。
ルナルドは、私の事が凄く好きだ。隠しきれないほどに。だから、私の贈った物を隠してきたんだ。
この気持ちを隠さない、と決めてから、あなたは私に、たくさんの覚悟を示してくれた。
私もそれに答えたかったよ。だけど・・・。
やっぱり、どう考えても、自分が自分でいられなくなるなら、それは私じゃない。生きる意味なんて無い。そうとしか思えない。
私は、ルナルドから贈られたブローチを、その箱の中に一緒に入れた。
ルナルドと違って、私は贈られたものを、ボロボロになるまで使った。嬉しくて嬉しくて、初めて贈ってくれたリボンも、毎日のように使って、ボロボロになると、ルナルドが次の誕生日に新しいのを買ってくれた。
「次の誕生日は、壊れにくいものがいい」
そんなおねだりをして、選んでくれたものがブローチだった。
壊れたりしない。消えたりしない。無くなったりなんてしない。
返せない想いと一緒に、この箱に、ブローチを入れて引き出しに仕舞う。
その時、私はうっかり力を入れ過ぎて、引き出しを閉めた時に、ガタン!と音がなってしまった。
その音が少し大きく鳴って、廊下から声がした。
「ルナルド?・・・部屋にいるのですか?」
その声は、母の声だった。
ギッと部屋の扉が開けられて、コウモリに変身しようと慌てふためいて、窓の外に出なくてはと、手をかけた時だった。
「リリアナ?!」
変身し遅れて、窓から脱走しようとしている所を見つかってしまう。
私は振り返って、母を見る。
「お、お母様・・・」
伯爵夫人は、一心不乱に駆け寄ってきて、リリアナを抱きしめた。
「リリアナ!!リリアナ・・・!どこへもいかないで!」
「お、お母様・・・!」
「お願いよ。リリアナ!お母様の話を聞いて!お父様と話し合ったのよ。あなたとルナルドの気持ちを、認めると。ルナルドとリリアナが、そこまで想いあっているならば、2人を認めようって。」
・・・認める?
「お父様が?」
「えぇ、えぇ!そうよ。だから戻って来てちょうだい。もう、あなたたちを別れさせようなんて誰もしないわ。だから。」
私は首を振る。
もう、遅いのだ。何もかも、もう私は、人間じゃないんだから。
「でも・・・でも、お母様。私は、どんどん心を失っていくわ。最後は、私じゃなくなるのよ!そんな姿は見られたくないの!」
そう言っても、母は物凄い力で私の手首を握る。絶対に離さないという意思を感じた。
「お母様はね、あなたが、どんな姿になっても、あなたを失いたくないのよ!母親だもの!鬼になろうとも、あなたを守りたいの!・・・それに、それにね、リリアナ。お母様と同じように思ってくれる人が、あなたには居るでしょう?」
母は、嬉しそうに微笑んでいた。
「ねぇ、リリアナ。あなたの愛した人は、母親である私なんかよりも、強い愛情で、あなたを守ってくれる。そんな、あの子には、あなたが必要だわ。毎日、あなたを探して、学校にも行っていないわ。ずっと、あなたを探して歩いているのよ?」
「・・・ルナルドが?」
「リリアナがいなくなったら、この家はおしまいよ?」
「そんな・・・」
「だから。ここにいなさい。お母様も、ルナルドにも、あなたには居てくれるだけでいいのよ。」
「でも」
「本物の鬼になって、醜くても、無様でも、最後の最後まで一緒にいると、ルナルドと約束したのではないの?あの子は、そのつもりよ。」
「でも、でも、お母様・・・」
「本当にダメなら、その時は、お母様が殺してあげるわ!だから、安心して最後まで生き抜きなさい!最後まで悪あがきしなさい!!」
涙が、止まらなかった。
母は、やはり、強かった。
母に抱きつくと、しっかりと抱きしめてくれた。
「自分を信じられなくても、あなたを本気で愛している人を、信じなさい。」
私は、そのまま母に抱きついて、子供のように泣いた。
その後は、母に言われるままにシャワーを浴びて、自分の部屋に戻り、ルナルドに手紙を残して家を出た。
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