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第20話 希望
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灰の山が出来上がって、ジルベールはそれを少し眺めてから、何事もなかったかのように服を着て身支度を整えはじめる。
影か銅像の様に、身動きしなかった執事が、足音を立てて動き出し、ジルベールのいる部屋に向かう。
「主様、お疲れ様でした。お見事でございます。」
執事は上着を拾い上げて、最後の身支度を手伝う。
ジルベールは視線もくれずに、息ピッタリで、執事から上着を着せてもらって言う。
「どうやら100年超えの吸血鬼だったようだ。大物を退治出来て良かった。」
ルナルドが、部屋に入って行くと、ジルベールが視線を向けた。
「ルナルド。話を聞いていたかい?」
ジルベールが、清々しい顔で微笑む。
「・・・リリアナは、死んでいなかった?」
半信半疑で、確認するように言うと、ジルベールは頷いて答える。
「鍵を使って、人間に戻してあげればいいんだ。彼女は、人間に戻るだけだよ。」
ルナルドは、走り出した。
旧校舎の階段を走り下りる。学校の門まで、一気に駆け抜けた。
乗ってきた馬にまたがると、手綱を短く持って、ダッシュさせる。
早く。早く伝えたい。逸る気持ちを抑えきれなかった。
しかし、その頃。
ロジャー家に残されていたリリアナに、異変が起きていた。
ーーーーー
リリアナは、1度眠ったものの、深夜になって目が覚める。
すると、高熱が出た後のように、喉の渇きと、体のだるさすら感じた。
額に手を乗せてみるけれども、熱は無い。部屋が乾燥しているのだろうか?
そんな事を思いながら、水差しを手に取るけれども、もう中は空だった。考えてみたら。寝る前にも妙に喉の渇きを覚えて、ゴクゴクと水を大量に飲んでから寝たのだ。
仕方がなく、部屋を出て飲み物を頂きに行こうとすると、メイドを見つけた。
「どうかされましたか?」
感じの良いメイドさんに、のどが渇いたことを伝えると、部屋までお持ちしますね。と言われて、部屋に戻った。暫くしてから、別の若いメイドが入ってきて、「よく眠れるように」と、温かいミルクを持ってきてくれた。
若いメイドが部屋に入ってきた瞬間・・・・急激に焼けるかのような喉の渇きに襲われた。
「・・・?どうかされましたか?」
メイドが聞く。
私は、自分の胸と喉に手を当てて、目を見開いた。
何?この感覚?何が起きたの??
「はぁ・・・はぁ・・・」
息が荒くなる。
なんだろう?なんでこんなに、息苦しくて、喉が渇くの・・・?
何事かと周囲を見回して、ふと、ミルクの入ったカップを置いた、メイドの指に目が行く。
「そ・・・それは・・・どうしたの?」
自分の口から、涎が出そうになるのを堪える。
メイドの指には、小さいガーゼが張られていて、そこに血が滲んでいた。
「あぁ、これは、お恥ずかしいのですが、ナイフで少し切ってしまいまして・・・・え?」
リリアナの目は、カッと見開いて血のにじんだ部分から目を離さずに、メイドの腕を掴んでいた。
血の匂い・・・美味しそうな・・・甘い香り。
あぁ、なんて魅惑的な香り・・・。
はぁ、喉が渇く、それが飲みたい。早く、飲みたい。噛みついて、甘い血をすすりたい!
「え・・・え?あの・・。」
狼狽えるメイドには目もくれずに、自分の体が動いていた。
「きゃあああああああ!!!」
大きな悲鳴で、我に返る。
いつの間にか、私は若いメイドの上に、馬乗りになって、そのメイドの腕に噛みついていた。
「いやぁぁああ!!誰か!!誰かぁ!」
メイドの声に、使用人たちが部屋に入り込んで来る。
「きゃぁああ!!」
私の顔を見るなり、全員が悲鳴を上げた。
自分の口に手をやってみる。
指には血が付いて、口の中からは血の味がした。
うそ・・・私・・・人の血を吸った?
頭で考えようとしても、何故か・・・体が誰かに乗っ取られたような感覚になる。
あれほどの喉の渇きが、少し楽になって、体がもっと飲みたい、もっともっと飲みたいと騒ぎ出す。
私の下から逃げ出そうと、後ろを向いて四つん這いで逃げようとするメイドの肩を掴む。
その衝動は、頭の片隅でダメだと言ってるのに、止められなかった。
私はメイドを後ろから掴むと、首筋に噛みついた。
ジュルリと啜ると、温かく甘く、ずっと感じていた喉の渇きが癒えていく。
砂漠の真ん中で、やっと見つけた水をすするかのように、ゴクリと飲む。
そこへ、コウモリの姿で飛んで帰ってきたジルベールが、窓から侵入すると人間に変身しながら叫んだ。
「リリアナ嬢!!やめるんだ!!」
その声に、ハッと気がついて、口を離す。
そこへ、ルナルドが部屋の中に駆け込んで来た。
「リリアナ?!」
使用人たちの、おぞましい物を見る目。
驚き、信じられないと言わんばかりの、ルナルドの表情。
あぁ、私・・・もう、人間じゃないんだ。
私は放心状態で、フラリと後ずさる。
ガタン!と、家具に当たって、そこにあった鏡に目をやる。その鏡の中には、私の顔をした吸血鬼が居た。
牙を生やして、口には血がついている。
両手で口を覆い、首を振る。
「嫌!・・・嫌だ!」
こんな姿を、見られたくなかった!こうなりたくは無かったのに!
その場にいられなくなって、コウモリの姿に変身する。そのまま、窓から外に出た。私は必至になって、遠くへ。出来る限り遠くへ行こうと、飛び進む。
自分が、吸血鬼になっていく。
こうやって、いつか人の血を吸い続けて、我を忘れてしまうんだ。
自分が自分でなくなってしまう。
それは、想像よりももっと、恐ろしい事だった。
影か銅像の様に、身動きしなかった執事が、足音を立てて動き出し、ジルベールのいる部屋に向かう。
「主様、お疲れ様でした。お見事でございます。」
執事は上着を拾い上げて、最後の身支度を手伝う。
ジルベールは視線もくれずに、息ピッタリで、執事から上着を着せてもらって言う。
「どうやら100年超えの吸血鬼だったようだ。大物を退治出来て良かった。」
ルナルドが、部屋に入って行くと、ジルベールが視線を向けた。
「ルナルド。話を聞いていたかい?」
ジルベールが、清々しい顔で微笑む。
「・・・リリアナは、死んでいなかった?」
半信半疑で、確認するように言うと、ジルベールは頷いて答える。
「鍵を使って、人間に戻してあげればいいんだ。彼女は、人間に戻るだけだよ。」
ルナルドは、走り出した。
旧校舎の階段を走り下りる。学校の門まで、一気に駆け抜けた。
乗ってきた馬にまたがると、手綱を短く持って、ダッシュさせる。
早く。早く伝えたい。逸る気持ちを抑えきれなかった。
しかし、その頃。
ロジャー家に残されていたリリアナに、異変が起きていた。
ーーーーー
リリアナは、1度眠ったものの、深夜になって目が覚める。
すると、高熱が出た後のように、喉の渇きと、体のだるさすら感じた。
額に手を乗せてみるけれども、熱は無い。部屋が乾燥しているのだろうか?
そんな事を思いながら、水差しを手に取るけれども、もう中は空だった。考えてみたら。寝る前にも妙に喉の渇きを覚えて、ゴクゴクと水を大量に飲んでから寝たのだ。
仕方がなく、部屋を出て飲み物を頂きに行こうとすると、メイドを見つけた。
「どうかされましたか?」
感じの良いメイドさんに、のどが渇いたことを伝えると、部屋までお持ちしますね。と言われて、部屋に戻った。暫くしてから、別の若いメイドが入ってきて、「よく眠れるように」と、温かいミルクを持ってきてくれた。
若いメイドが部屋に入ってきた瞬間・・・・急激に焼けるかのような喉の渇きに襲われた。
「・・・?どうかされましたか?」
メイドが聞く。
私は、自分の胸と喉に手を当てて、目を見開いた。
何?この感覚?何が起きたの??
「はぁ・・・はぁ・・・」
息が荒くなる。
なんだろう?なんでこんなに、息苦しくて、喉が渇くの・・・?
何事かと周囲を見回して、ふと、ミルクの入ったカップを置いた、メイドの指に目が行く。
「そ・・・それは・・・どうしたの?」
自分の口から、涎が出そうになるのを堪える。
メイドの指には、小さいガーゼが張られていて、そこに血が滲んでいた。
「あぁ、これは、お恥ずかしいのですが、ナイフで少し切ってしまいまして・・・・え?」
リリアナの目は、カッと見開いて血のにじんだ部分から目を離さずに、メイドの腕を掴んでいた。
血の匂い・・・美味しそうな・・・甘い香り。
あぁ、なんて魅惑的な香り・・・。
はぁ、喉が渇く、それが飲みたい。早く、飲みたい。噛みついて、甘い血をすすりたい!
「え・・・え?あの・・。」
狼狽えるメイドには目もくれずに、自分の体が動いていた。
「きゃあああああああ!!!」
大きな悲鳴で、我に返る。
いつの間にか、私は若いメイドの上に、馬乗りになって、そのメイドの腕に噛みついていた。
「いやぁぁああ!!誰か!!誰かぁ!」
メイドの声に、使用人たちが部屋に入り込んで来る。
「きゃぁああ!!」
私の顔を見るなり、全員が悲鳴を上げた。
自分の口に手をやってみる。
指には血が付いて、口の中からは血の味がした。
うそ・・・私・・・人の血を吸った?
頭で考えようとしても、何故か・・・体が誰かに乗っ取られたような感覚になる。
あれほどの喉の渇きが、少し楽になって、体がもっと飲みたい、もっともっと飲みたいと騒ぎ出す。
私の下から逃げ出そうと、後ろを向いて四つん這いで逃げようとするメイドの肩を掴む。
その衝動は、頭の片隅でダメだと言ってるのに、止められなかった。
私はメイドを後ろから掴むと、首筋に噛みついた。
ジュルリと啜ると、温かく甘く、ずっと感じていた喉の渇きが癒えていく。
砂漠の真ん中で、やっと見つけた水をすするかのように、ゴクリと飲む。
そこへ、コウモリの姿で飛んで帰ってきたジルベールが、窓から侵入すると人間に変身しながら叫んだ。
「リリアナ嬢!!やめるんだ!!」
その声に、ハッと気がついて、口を離す。
そこへ、ルナルドが部屋の中に駆け込んで来た。
「リリアナ?!」
使用人たちの、おぞましい物を見る目。
驚き、信じられないと言わんばかりの、ルナルドの表情。
あぁ、私・・・もう、人間じゃないんだ。
私は放心状態で、フラリと後ずさる。
ガタン!と、家具に当たって、そこにあった鏡に目をやる。その鏡の中には、私の顔をした吸血鬼が居た。
牙を生やして、口には血がついている。
両手で口を覆い、首を振る。
「嫌!・・・嫌だ!」
こんな姿を、見られたくなかった!こうなりたくは無かったのに!
その場にいられなくなって、コウモリの姿に変身する。そのまま、窓から外に出た。私は必至になって、遠くへ。出来る限り遠くへ行こうと、飛び進む。
自分が、吸血鬼になっていく。
こうやって、いつか人の血を吸い続けて、我を忘れてしまうんだ。
自分が自分でなくなってしまう。
それは、想像よりももっと、恐ろしい事だった。
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