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第18話 鍵
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翌日。
ロジャー家に到着するなり、ルナルドは、入口で固まった。
「やぁやぁ!待っていたよ。ようこそいらっしゃい♪ルナルド。」
妙に陽気な感じで、屋敷から出て来たジルベールは、ルナルドの手を取るなりブンブンと腕を振る。
「ジルベール・ロジャー?・・・まさか、おまえが?」
「まぁ、中に入って。」
執事がお茶の準備をしてくれて、部屋を出て行くと、ジルベールは微笑んだ。
「僕のことは、国家機密だから他言無用でお願いするよ。」
ルナルドは、確認するように聞く。
「おまえがダンピールなのか?だから、侯爵位を得ているということか・・・。」
ジルベールは、苦笑いをする。
「まぁ、その通りだね。僕が産まれて、国からロジャーという名を与えられ、爵位も生まれて間もなく僕自身に与えられている。」
それは異例中の異例といえた。
王族の隠し子だとか、色々言われて来たけれども、そうゆう理由があったということかと、ルナルドは納得する。
足を組み、ジルベールは私達を見て言った。
「吸血鬼退治を国から任されて、生涯その仕事を全うするためにって所かな。」
吸血鬼退治・・・・。
私は俯いて、目を伏せた。
自分の事なのだと噛みしめて聞く。
ルナルドは、私の手の上に、自分の手を乗せた。
「リリアナから、ダンピールが吸血鬼を人間に戻す方法を聞いた。だが、頼む。もう少し、待ってくれないか?」
「待つ?」
挑戦的な視線を、ジルベールはルナルドに向けた。
ルナルドは頷いて見せる。
「待って欲しい。少し時間がかかるかもしれないが、世界中を回ってでも吸血鬼に関する事を調べてこようと思う。2人で一緒に生きていく方法を探してくる。リリアナを吸血鬼にしたのは、俺だ。俺が彼女に血を提供し、他の誰にも危害を加えさせたりしない。だから、」
「その方法が無かったら?」
ジルベールは言葉を遮って、冷たい眼差しをルナルドに向ける。
「方法が見つからなかったらどうするんだ?」
ルナルドは、ギュウっと手を握りしめて眉間に皺を寄せる。
目を閉じてから、真っ直ぐに顔を上げて、ジルベールを睨んだ。
「その時は、おまえに・・・リリアナを頼む・・。俺は、リリアナと一緒に棺に入るつもりだ。」
・・・!!
「ルナルド!ダメ!お義父様や、お母様が悲しむわ!」
「許してくれリリアナ。俺は、おまえ無しで生きていけない!頼むから、追い払わないでくれ!」
ルナルドは、私の両手を握って、真っ直ぐに私の目を見る。
「それに、俺は諦めてない!確信を得るまで、絶対に諦めない!!何か、何かあるはずだ!一緒に生きていく方法が・・・きっと、見つけてやる!」
あぁ、私の大好きなルナルドだ。
子供のころから真面目で、辛抱強くて、前向きで。
甘やかしてしまいたくなるほどの、頑張り屋さんなのだ。
そんな、強いあなたが大好きで、尊敬していた。
人目もはばからずに、私の手を握り、熱い視線を向けてくる。ルナルドはもう、私への想いを、隠すつもりは微塵も無いのだ。貫き通す覚悟を感じた。きっと、そう。お義父様に見つかって、告白したあたりから・・・。
ううん。違うかもしれない。
お互いの気持ちを知って、初めて抱きあった、あの夜かもしれない。あの夜から、ルナルドは全ての反対を押し切る覚悟をしたのかもしれない。
能天気な私は、ただただ、あなたへの気持ちがあふれて止められなかった。恋に落ちて、愛に溺れて、覚悟も無いまま・・・・。
あぁ、何て愚かな。
死んで、吸血鬼になって、今さら知るだなんて。
あなたの覚悟も、あなたをこんなにも愛していることも。
世間体を気にしていたのは、お義父様だけじゃない。この私だったんだ。良い子ぶって、世の中わかってますみたいな、物わかりの良い子を装って。
でも、本当は・・・。
「死にたくない!他の人に触れられたくない!醜くても、人間じゃ無くてもいいから!ルナルドの傍にいたい!」
堰を切ったように溢れてしまう。
泣き出した私を、ルナルドは抱きしめた。
その時、ジルベールは少し微笑んで頷き、そして言った。
「人間に戻す方法は、もう1つだけある。」
その言葉に、ルナルドは私を抱きしめたままで、ジルベールの方を見た。
「もう1つの方法?」
「そう。吸血鬼は、火炙りか、ダンピールに抱かれるか、もしくは、❝鍵❞だ。」
「鍵?」
ルナルドの言葉に、ジルベールは頷く。
「ダンピールは、生まれる時にカギを握りしめて産まれてくる。その鍵を、愛する者の手で心臓に刺して開けるんだ。その扉の中に入って、本物の彼女を探して連れてくればいい。」
「本物・・・。そうすれば、リリアナは!」
「生き返りはしないよ。人間の死体に戻る。」
希望を与えない、とでも言わんばかりに、ジルベールは言った。
「残念だけど、現実は変えられない。死んだ人間は生き返らない。そして、もう1つ。」
ジルベールは、私の方を見た。
「吸血鬼になると、人の心は徐々に失われていく。リリアナ嬢。君の恐れている通り。血を吸う事で、人の心が失われてしまうんだ。君はまだ、恐らく人の血を飲んでいないんだろう?」
ルナルドにはウソをついてしまったけれど、事実を素直に認めて、私は頷いた。
すると、ルナルドは私を抱きしめる腕の力を強めた。
「選択肢は4つ。自ら火炙りか、僕に抱かれるか、鍵を使うか、凶暴な吸血鬼になってから逃げて国と僕に追われて火炙りか。それ以外に方法は無い。」
そう言うと、ジルベールは上着の内ポケットから何かを取り出して、ルナルドに向けた。
「これはね、最新の武器で、拳銃と言うんだ。リリアナ嬢は死なないけど、人間は1発で殺せる。」
しっかりと、ルナルドの眉間に狙いを定めて、ジルベールは立ち上がった。
「ごめんね、見逃すわけにはいかないんだ。2人とも離れて。リリアナ嬢、僕の所に来てくれるかい?」
私はすぐさま、離れて立ち上がろうとした。けれど、ルナルドが私を離さない。
「ルナルド!離して!」
「俺たちは逃げたりしない!少しだけ時間が欲しいと言っているんだ。」
「それはできない。僕はね、散々見て来たんだよ。吸血鬼は、全て元々は人間だ。みんな豹変していった。1人残らず、みんなだ!凶悪な吸血鬼に変わるんだよ。君には解らないだろうけどね。」
私は、ルナルドを庇うようにして、銃口の前に出る。
「やめて!言う通りにします!だから、ルナルドには手を出さないで!」
「リリアナ!」
ジルベールは、腕を下ろして、悲しそうに微笑む。
「・・・本当に残念だよ。どうにかしてあげられるなら、僕だって、君達を助けてあげたい。だけど、無理なんだ。僕は・・・2人が、今のままの状態で、鍵を使ってくれることを望んでいるよ。」
よく考えて答えをくれ。ジルベールはそう言うと、私の所まで歩いて来て、腕を掴んだ。
「リリアナ嬢は、今後、この館から出ることを禁じる。」
ロジャー家に到着するなり、ルナルドは、入口で固まった。
「やぁやぁ!待っていたよ。ようこそいらっしゃい♪ルナルド。」
妙に陽気な感じで、屋敷から出て来たジルベールは、ルナルドの手を取るなりブンブンと腕を振る。
「ジルベール・ロジャー?・・・まさか、おまえが?」
「まぁ、中に入って。」
執事がお茶の準備をしてくれて、部屋を出て行くと、ジルベールは微笑んだ。
「僕のことは、国家機密だから他言無用でお願いするよ。」
ルナルドは、確認するように聞く。
「おまえがダンピールなのか?だから、侯爵位を得ているということか・・・。」
ジルベールは、苦笑いをする。
「まぁ、その通りだね。僕が産まれて、国からロジャーという名を与えられ、爵位も生まれて間もなく僕自身に与えられている。」
それは異例中の異例といえた。
王族の隠し子だとか、色々言われて来たけれども、そうゆう理由があったということかと、ルナルドは納得する。
足を組み、ジルベールは私達を見て言った。
「吸血鬼退治を国から任されて、生涯その仕事を全うするためにって所かな。」
吸血鬼退治・・・・。
私は俯いて、目を伏せた。
自分の事なのだと噛みしめて聞く。
ルナルドは、私の手の上に、自分の手を乗せた。
「リリアナから、ダンピールが吸血鬼を人間に戻す方法を聞いた。だが、頼む。もう少し、待ってくれないか?」
「待つ?」
挑戦的な視線を、ジルベールはルナルドに向けた。
ルナルドは頷いて見せる。
「待って欲しい。少し時間がかかるかもしれないが、世界中を回ってでも吸血鬼に関する事を調べてこようと思う。2人で一緒に生きていく方法を探してくる。リリアナを吸血鬼にしたのは、俺だ。俺が彼女に血を提供し、他の誰にも危害を加えさせたりしない。だから、」
「その方法が無かったら?」
ジルベールは言葉を遮って、冷たい眼差しをルナルドに向ける。
「方法が見つからなかったらどうするんだ?」
ルナルドは、ギュウっと手を握りしめて眉間に皺を寄せる。
目を閉じてから、真っ直ぐに顔を上げて、ジルベールを睨んだ。
「その時は、おまえに・・・リリアナを頼む・・。俺は、リリアナと一緒に棺に入るつもりだ。」
・・・!!
「ルナルド!ダメ!お義父様や、お母様が悲しむわ!」
「許してくれリリアナ。俺は、おまえ無しで生きていけない!頼むから、追い払わないでくれ!」
ルナルドは、私の両手を握って、真っ直ぐに私の目を見る。
「それに、俺は諦めてない!確信を得るまで、絶対に諦めない!!何か、何かあるはずだ!一緒に生きていく方法が・・・きっと、見つけてやる!」
あぁ、私の大好きなルナルドだ。
子供のころから真面目で、辛抱強くて、前向きで。
甘やかしてしまいたくなるほどの、頑張り屋さんなのだ。
そんな、強いあなたが大好きで、尊敬していた。
人目もはばからずに、私の手を握り、熱い視線を向けてくる。ルナルドはもう、私への想いを、隠すつもりは微塵も無いのだ。貫き通す覚悟を感じた。きっと、そう。お義父様に見つかって、告白したあたりから・・・。
ううん。違うかもしれない。
お互いの気持ちを知って、初めて抱きあった、あの夜かもしれない。あの夜から、ルナルドは全ての反対を押し切る覚悟をしたのかもしれない。
能天気な私は、ただただ、あなたへの気持ちがあふれて止められなかった。恋に落ちて、愛に溺れて、覚悟も無いまま・・・・。
あぁ、何て愚かな。
死んで、吸血鬼になって、今さら知るだなんて。
あなたの覚悟も、あなたをこんなにも愛していることも。
世間体を気にしていたのは、お義父様だけじゃない。この私だったんだ。良い子ぶって、世の中わかってますみたいな、物わかりの良い子を装って。
でも、本当は・・・。
「死にたくない!他の人に触れられたくない!醜くても、人間じゃ無くてもいいから!ルナルドの傍にいたい!」
堰を切ったように溢れてしまう。
泣き出した私を、ルナルドは抱きしめた。
その時、ジルベールは少し微笑んで頷き、そして言った。
「人間に戻す方法は、もう1つだけある。」
その言葉に、ルナルドは私を抱きしめたままで、ジルベールの方を見た。
「もう1つの方法?」
「そう。吸血鬼は、火炙りか、ダンピールに抱かれるか、もしくは、❝鍵❞だ。」
「鍵?」
ルナルドの言葉に、ジルベールは頷く。
「ダンピールは、生まれる時にカギを握りしめて産まれてくる。その鍵を、愛する者の手で心臓に刺して開けるんだ。その扉の中に入って、本物の彼女を探して連れてくればいい。」
「本物・・・。そうすれば、リリアナは!」
「生き返りはしないよ。人間の死体に戻る。」
希望を与えない、とでも言わんばかりに、ジルベールは言った。
「残念だけど、現実は変えられない。死んだ人間は生き返らない。そして、もう1つ。」
ジルベールは、私の方を見た。
「吸血鬼になると、人の心は徐々に失われていく。リリアナ嬢。君の恐れている通り。血を吸う事で、人の心が失われてしまうんだ。君はまだ、恐らく人の血を飲んでいないんだろう?」
ルナルドにはウソをついてしまったけれど、事実を素直に認めて、私は頷いた。
すると、ルナルドは私を抱きしめる腕の力を強めた。
「選択肢は4つ。自ら火炙りか、僕に抱かれるか、鍵を使うか、凶暴な吸血鬼になってから逃げて国と僕に追われて火炙りか。それ以外に方法は無い。」
そう言うと、ジルベールは上着の内ポケットから何かを取り出して、ルナルドに向けた。
「これはね、最新の武器で、拳銃と言うんだ。リリアナ嬢は死なないけど、人間は1発で殺せる。」
しっかりと、ルナルドの眉間に狙いを定めて、ジルベールは立ち上がった。
「ごめんね、見逃すわけにはいかないんだ。2人とも離れて。リリアナ嬢、僕の所に来てくれるかい?」
私はすぐさま、離れて立ち上がろうとした。けれど、ルナルドが私を離さない。
「ルナルド!離して!」
「俺たちは逃げたりしない!少しだけ時間が欲しいと言っているんだ。」
「それはできない。僕はね、散々見て来たんだよ。吸血鬼は、全て元々は人間だ。みんな豹変していった。1人残らず、みんなだ!凶悪な吸血鬼に変わるんだよ。君には解らないだろうけどね。」
私は、ルナルドを庇うようにして、銃口の前に出る。
「やめて!言う通りにします!だから、ルナルドには手を出さないで!」
「リリアナ!」
ジルベールは、腕を下ろして、悲しそうに微笑む。
「・・・本当に残念だよ。どうにかしてあげられるなら、僕だって、君達を助けてあげたい。だけど、無理なんだ。僕は・・・2人が、今のままの状態で、鍵を使ってくれることを望んでいるよ。」
よく考えて答えをくれ。ジルベールはそう言うと、私の所まで歩いて来て、腕を掴んだ。
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