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王国ヴィダルの軽薄王子
王国ヴィダルの軽薄王子2
しおりを挟む生まれた時からその愛らしさで蝶よ花よと育てられ、成長とともに麗しさに輪をかけた王子が少々(?)ナルシストに育っても致し方ないと周囲は思っている。
自分の見た目や言動には甘いところは否めないが、頭脳は明晰だし体力もあり何より健康であり、将来王となるに相応しい資質は持ち合わせていると評価は悪くない。
少々懸念されている女性問題に関しても、王になるなら側室を何人抱えても咎められるではなし、あまりにも限度を超えた振る舞いさえなければ概ね目を瞑ってやろう、くらいには思われているようだ。
だからこそ、早く妃をもらって世継ぎを見せてほしい、と願うのは平和な国ならではの平和な話題なのだが、このような小国ではあっても政略の策謀は水面下で渦巻いている。
それも偏に、この国の存在の特異性故であった。
「で、それが原因で家出なんですか」
「そうそう。だってコレだよ? 考えたらわかるだろう?」
さっき――といっても実際にはその後だが――ラシルに見せた縁談の肖像画を、できるだけ触りたくないように隅っこだけつまむようにしてベルナールにかざしてみせる。中身はもう既に見たベルナールも、う、と言葉に詰まった。
「…さすがに私も、ご遠慮申し上げたい姫君ではありますが」
そういうベルナールは、実は結構な面食いだ。
「さすがにって何だよ、すっごく綺麗な奥さんがいるくせに」
案の定、細君をよく知るアシュランがぼやいた。
ベルナールは自由でいいなぁ、と呟いてみせる姿には少々本音が見え隠れしている。
自分の立場上、政略結婚をせざるを得ないのは半分は理解しているが、アシュランもまだ十九歳、少しぐらいは本当の恋をしてみたい、という気持ちもあった。
外国の王女や国内でも貴族の子女など、アシュランの立場を知る者では本心がまるで見えない。なまじアシュランの見てくれが美し過ぎるが故に、王子としての地位が魅力なのか、アシュラン自身を好いているのか判断がつかない。
だから近衛騎士団の団員に紛れて街の少女たちと合コンしてみたり、お忍びで王宮から遠い街へ出かけて出逢いを求めてみたりしたのに、どこからか漏れるようで結局はおかしな噂になってしまって―――ついたあだ名がチャラ王子だ。
大体は合コンで女の子の視線と人気を独り占めされてしまう腹いせに、近衛騎士団の誰かがこっそりばらすのだろうと踏んではいるが。
(まぁ、いいけどね、別に)
どうせ、自分が好きになるタイプはどうしても王子の地位になど興味がないのだ。そういう人ばかり好きになってしまうのは、ないものねだりなのだろうか。
王子や王位に興味がなくても、立場的に釣り合う女性を選べばいいのだが、その辺のバランスが難しい。
王国はそれほど身分を問わないので、本当なら庶民出身の妃でも全然問題ないのだが。加えてあのざっくばらんな王だ。細かいことは気にしないに決まっている。
でも。
多くの人は、そうは考えないようだから。
王と話した後、その日のうちに手筈を整えてアシュランは森に向かった。鬱蒼と繁る深い森は知らない者には歩きづらく恐怖感もあろうが、アシュランにとっては子供の頃からの遊び場だ。幼い時から傍にいるベルナールは少々乱暴でも逞しく育った方がいいと、こっそり抜け出すのを手伝ってくれたし、いずれ自分が統治する国を隅々まで知っていなければいけないだろうという使命感のようなものもあった。
「ちょうど真ん中辺りに広場になってるところがあるよね? 天幕を張るならあの辺りかなぁ」
地図は見ない。森の中は全部頭に入っている。
そしてそれはベルナールも同様だ。王子の意思を理解し同行できる器がなければ、長年の側近などは務まらない。
「そうですね」
当たり前のようにベルナールも頷き、しばらくささやかな自由を満喫しようと思った。
だが。
そうして赴いた広場には、先客がいた。
そして、ラシルと出逢った。
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