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Vol.49・旅の終わり
しおりを挟む風の匂いが変わった。
同じことを思ったのか、助手席でうとうとしていた相棒が顔を上げた。
「海が見える」
「え、本当? どこ?」
オープンカーの運転席からハンドルを支えたまま体をちょっと伸ばしてみたけれど、目の前には瓦礫と、砂埃の舞う道なき道で、一時間前と何ら変わらない景色が広がるばかり。
「ここからは見えないよ」
「あ、そう」
僕はがっくりとシートに座り直す。
相棒は眼がいい。
人がいなくなってからも、回り続けている人工衛星からの情報をキャッチして、視覚的に見える、ということができるらしい。
相棒は特殊に造られたアンドロイドだから仕方ないけど、年式の割にスペックが異様に高い。
ちょっと拗ねた気分で聞く。
「青い海が見えるかい?」
「そんなわけあるか。どこも同じ、オレンジ色の海だ」
呆れたように返す相棒に、僕は肩を竦めて少しスピードを上げる。
「町が見える」
またか、と思ったけれど今度は僕の視界にも普通に入ってきた。町と言っても民家らしき建物が数軒と、店舗のようなものも見える。久しぶりに生活感のある景色だった。
何も必要なものはないから、脇目も降らず通り過ぎる。数体のロボットやアンドロイドが一様に驚いた顔で僕らを見ている。
「みんな見てるよ」
よくあることだ。相棒も、
「ヤバい、伝説になっちゃうな」
と笑った。
街の外れ、断崖絶壁のような場所を目指す。きっと、海が見えると思うから。
「家があるよ。誰かいる」
勝手に敷地に入ってはまずいと思い、手前で車を止めた。
「あなたたち、人間?」
庭先に止まっていたバイクが軽やかな声を発したかと思うと、きゅるきゅると音を立て人間の女の子のような形になった。すごく驚いた波動が伝わってくる。ご期待に沿えず申し訳ない。
「違うよ」
そう答えると彼女はがっかりしたように息を吐き、気を取り直したように明るく振る舞う。
「すごいね! ヒューマノイドなんて初めて見た!」
「僕もバイカロイドは初めてだよ」
その時、家の中から大きな男性型っぽいアンドロイドが出てきた。
「ゼット! お客さんだよ!」
ゼットと呼ばれた彼は、僕を見て酷く驚いた顔になった。それは人間の姿をしたヒューマノイドを見た驚きとは違う。
僕の中の、僕を自分に似せて造ったマスターの記憶が、彼の姿を思い出させた。そうか、僕らは同じマスターに造られたんだ。
「初めまして、僕はエース。相棒はヒメ。突然で不躾だけど、僕らもここで、暮らしてもいいかな?」
もう旅は終わりでいい、そう思った。
fin
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