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Vol.46・リアルゲーム
しおりを挟むヘッドセットを装着して暗闇の中しばし待つ。やがて視界の中央に〝READY?〟と白い文字が浮かび上がってくる。
更に数秒待つと、その下部に少し小さなフォントで、左側に〝YES〟右側に〝NO〟と浮かび上がる。視線で左を選ぶと、一度瞬きをする。
すると文字は消え、全体に〝GO!〟と大きく浮かんだかと思うと、そのままどんどん拡大して僕の身体を突き抜けていく。同時に四方八方すべてに巨大な『街』が現れた。
僕は前に出した両手を見下ろして、何度か握って開いてを繰り返す。視線を上げると、軽くジャンプして、それから走り出した。初めは自分の脚で、それからついてくるエアボードに飛び乗って街を駆け巡る。
今は夜。暗闇を切り裂くように鮮やかな街の照明が眩い。ただ空が黒いだけで時間など関係がないみたいだ。
「セン、今日は何をする?」
いつの間にか隣を走って来たランが声をかけてきた。
「そうだなあ、昨日声をかけそびれたクラブの美女にリベンジするのはどう?」
「いいね!」
僕らは笑いながらエアボードを方向転換して、お気に入りのクラブへ繰り出す。
ここは電脳空間、REAL。五感も体感もリアルに感じられるヴァーチャルリアリティーの世界だ。僕らは夜毎日毎ここに繋がっては遊興にふける。
遊ぶだけじゃない、勉強だってスポーツだって何でも出来る。飲食も普通に出来るし気に入った相手とメイクラブすることも可能だ。
例え現実世界の僕が、長い間病院のベッドで、幾つもの管が身体と機械を繋いでいて、僕が生まれてこのかた、自分の口で食べ物を食べたことがなくても。
かつてはヴァーチャルリアリティーの端末は、実体にも大きく影響を与えるとして、健康な者にしか使えないという矛盾があった。改良に改良を重ねて出来上がったREALは、心臓にもまったく影響を与えないと、特に僕のような病床にある者に爆発的に広まった。ランもその一人だ。
それを批判する者も当然出てきたが、知ったこっちゃない。大体そういうことを言う人間に限って健康体だったりするものだ。
お陰で僕らは自分の肉体で経験できないことの殆どを体験することが出来ている。
美女と体を絡ませながら楽しく飲んでいると、ふ、っと、身体が軽くなった感覚があった。
直後、遠くからサイレンが鳴り響き、どんどん近づいてくる。
静かにクラブのドアが開くと、ポリスが僕に近寄ってきて何かを手渡した。ランが慌てたように走ってくる。
「……セン、これからどうするの?」
「そうだな、田舎にでも行って畑でもやろうかな」
何でもありのこの世界、もっと美しく清らかな場所だってある。
僕は、永住許可証という名の、死亡証明書を見せながら笑った。
「もう、帰らなくていいんだ」
fin
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