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Vol.43・最果ての
しおりを挟むそこは地の果てであった。
そそり立つような断崖絶壁の下に広がるのは、どこまでも続くオレンジ色の海。
その崖の先端に、一軒の小さな家。
「ええ? あの崖の家に住むのかい? 危ないよ、いつ崖が崩れるかわからないよ?」
手前の小さな集落で生活に必要なものを僅かに買い求めた時、店主や近所の住民には口々に心配されたものだが。
「大丈夫ですよ、少なくともあと数十年はもつと思います」
データを提示すると皆納得して渋々応援してくれた。数十年もあれば、お互いに朽ち果てると、そう思ったのだろう。確かに少しでも関わりを持った者が不慮の事故で消えるようなことがあれば、それが誰のせいでなくても寝覚めが悪いに違いない。
「みんな、やさしいんだね!」
そう言ったのは私ではない。
「あれ、バイクかと思ったらバイカロイドかい? 随分可愛い声だね」
いつの間にか集まってきた住民が相好を崩したので、私は彼女から降りる。すると、今まで自動二輪の形をしていたモノがキュルキュルと音を立て人の形になった。小型なので小柄な少女のように見える。
「ありがと。あたしはね、コーラル。このオジサンの相棒かな?」
「オジサンはないだろう…」
どっと笑う一同にコーラルはしれっと肩を竦める。形以外人らしい要素は殆どないのに可愛らしく見えるから不思議だ。彼女の設定は十四歳。ちょっと生意気な言動は思春期をインプットされているのか。
「まぁ、こんなご時世だから、空家に誰が住んだって誰も文句は言わないよ。何か困ったことがあったらいつでもおいで」
「ありがとうございます」
礼を言ってその場を離れると、そのままコーラルと歩いて崖に向かった。
「いいところ見つけたね、ゼット」
「……昔住んでいた場所に似ているんだ」
「それって…マスター? きょうしゅうってやつ?」
「意味わかって言ってないだろう」
わかんない、コーラルこどもだもん、と跳ねるように走って眼下の海に目をやる。
「この海にも珊瑚っていたのかなぁ……」
かつて海に生息していたと言われる動物の名を持つ彼女も、どこか感傷的に見える。
「いたとしても誰も見たことはないだろうから、何とも言えないね」
「写真は見たことあるよ。この海みたいな色してた」
「私はどちらかというと、大昔に飲んだオレンジジュースを思い出すな」
酸が入っていると知って慌てたものだが、内臓機械のコーティングのおかげで影響はなかった。
「ねぇ、ゼット。いつまでここにいる?」
「そうだな……朽ち果てるまで」
ヒトがいなくなった世界で、機械の我々が終わりを待つ、終の棲家を見つけたのだ。
Fin
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