1000文字の小宇宙

有栖川 款

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Vol.41・春雷

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 そらが鳴る。

 ごうごうと地を這うように、天が鳴る。表現としてはおかしいようだけれど、実際雷鳴が轟くのは空であろうに、何故か地面が揺れるような響き。猫が驚いて廊下に飛び出していき、それからすぐに戻ってきて未だ片付けられない炬燵に潜り込んだ。
 
 わたしはというと。
 
 突然大きな音が鳴るとびくりとはするものの、何故か心が浮き立つようで不思議な感覚があった。
 
 こういうのを、春雷っていうのかな。春の訪れを告げる、雨と雷。些か乱暴な気はするけれど、嫌いじゃない。被害がない程度に派手にやってきてくれていいよ、春。
 
 実を言うとニート真っ盛りで、人生にやる気も希望も少ないんだけど、こうやって春が近づくと、ああ、ちょっと冬季鬱気味だったんだなぁと毎年思う。学習能力がなさすぎる。冬はネガティブ思考が加速する。
 
 春になったからといって社会不適合が過ぎて戻れる気がしない。でも、お金がないと心も貧しくなってしまう。文句を言いながら甘えさせてもらってる家族には感謝だけど、どこへゆけばいいのか、呑気なわたしでも時々は不安になる。
 
 やりたいことはいろいろあるけど、何をやっても中途半端。どこか心の奥で、ちゃんと働かないと駄目だとか、ちゃんと働けないわたしは駄目な人間だとか、自分を許してないのだろうと思う。世間でもまだまだそういう風潮はあるけれど、動画配信で稼ぐ若者が出てきたり、好きなことをSNSに上げてたらそこから成功したとか、そんな話もたくさん聞くのに、他人事のように思ってるのかな。わたしにはできない、無理だって、思ってる。そういうことがしたいわけではないけど、ものの例えとして、一般的に就労しなくても収入を得ることはできる、という意味で。
 
 窓から外を覗くと稲光が見えた。どきっとするけど何故か胸がすくような清々しさもある。わたしが炬燵から出たのを察して猫がついてきて足許に擦り寄った。可愛いやつめ。
 
 そう言えば、このこは雷の日に拾ったのだった。ちょうど今ぐらいの季節、春先だったから「蕾」と名付けた。ツンデレのおんなのこ。君の名前にも雷があるね。
 
 雨の中鳴いていた子猫が、まさに雷のようにわたしの心を打ち抜いて、あれからずっと一緒にいる。
 
 ただ毎日ご飯をあげてトイレを掃除して、ちょっと遊んであげるだけなのに、こんなに懐いてくれて嬉しいな。いつか自分にそんな日が来るかはわからないけど、子どもをもつというのもこんな感じなんだろうか。無条件に愛しい。出来の悪いわたしでも慕ってくれる、win-Winな関係?
 
 何ができるかはわからないけれど、可能性は信じていよう。
 
 今までだって、きっとわたしなりに頑張ってきたこともたくさんある。
 
 誰かと比べる必要なんてない。
 
 いつか、何かと、或いは誰かと雷に打たれるような衝撃の出逢いを果たすかもしれないし。そうでなくても。
 
 わたしのいのちが輝くことを、私は知っている。だから。
 
 今、春雷に胸を躍らせている。 
 
 
 
 
 
 
 
Fin
 

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