1000文字の小宇宙

有栖川 款

文字の大きさ
上 下
33 / 60

Vol.33・星に願いを

しおりを挟む

 人は死んだら、お空の星になるの。
 
 
 絵本だったか漫画だったか、詳しくは覚えていないけれど、そういう決まり文句が日本にあるのは、ある意味ポピュラーなことだと思う。
 
 思春期過ぎてからは、そんな莫迦なと内心ツッコミを入れていたし、星になるってどういうことじゃ、とリアルにイメージできなかったけれど。
 
 どこかで目にしたスピリチュアル的な情報では、実際に来世では星に生まれ変わる場合もあるらしいから、満更でたらめでもないのかもしれないとは思うようになった。もちろん、だからと言ってリアルに想像できるわけはなく、且つ、そういうのは意識というか、魂にレベルがあるとすれば、とても高い人に限られるのだろうけれど。
 
 
 父が死んだ。
 
 八十代半ばになっていたし、一年ほど前から体調が悪く、入退院を繰り返したから覚悟はしていた。思いのほか早かったとは思うけれど、寿命なのなら仕方がないのだろう。
 
 若い頃から働くのが嫌いで、夢見がちで、少年のまま大人になったような人だった。母は苦労したし、私たちきょうだいも、どこか惨めな思いを抱えて生きてきた。
 
 終りよければすべてよし、というのは言葉の使い方として間違っている気はするけれど、いなくなると不思議にモヤモヤした憎しみに近いような恨み心が昇華されたようで、それはそれで幸せなことなのかもしれないと思う。どんなに手を尽くし思いを尽くしても悔いが残らないなんてことは、そうないだろうから。
 
 環境のせいにしてはいけないのだろうけれど、私自身も完全に社会不適応で未だ自立できないから、親孝行らしいこともできなかったけれど、それでも何とか花嫁姿を見せることができたことは、ほんの少しの救いだろうか。
 
 嫁ぎ先は山の中で満天の星空が降り注ぐ。
 
 だからそんなことを不意に思い出したのだ。
 
 人は、死んだら、おそら(宙)のお星様になるんだよ。
 
 悲しいことや辛いこと、何かある度に人は空を見る。亡くなった誰かを思う時、勝手に見守ってもらっているような気持ちになり自分を鼓舞する。
 
 それは自分の魂も宇宙からやってきて、いつかそこへ還ってゆくことを、どこかで知っているからなのかもしれない。
 
 みんな、ひとりじゃないんだよ。
 
 誰も、ひとりぼっちじゃないんだよと。
 
 いつか還るその日まで、魂が悦びで満たされますように、そんな生き方ができますように。新たな誓いをそっと呟いて、また明日を生きるのだ。
 
 お父さん。
 
 大好きだった、なんて綺麗事は絶対に言えないけれど、それでも何だかんだ仲のいい家族だったね。世俗的にはちっとも満たされなくて、ずっと貧乏だったけど、幸せだったのかな。お母さんを見守っててね。何かあったら助けてね。
 
 ひときわ明るい星を見上げて、好き勝手に願う。
 
 父はきっといつもの調子で、へらへらと笑っているだろう。
 
 
 
 
 
 
 
Fin

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

詩(夜/お前の声が~)

タニグチ・イジー
現代文学
以前に書いた作品です。最後の日付が作成年月日になります。最初の「○」は無題を意味しています。note(https://note.com/izzyapoet/)にも作品をアップしています。 仕方なく「男性向け」を選びましたが、男性でも女性でもそうでない方でもどんな人でもお読み頂ける作品です。

夢に繋がる架け橋(短編集)

木立 花音
現代文学
 某DMグループ上で提示された三つの題目に沿って、書いた短編を置いておきます。  短時間で適当に仕上げてますので、クオリティは保障しかねますが、胸がほっこりするようなヒューマンドラマ。ちょっと笑えるコミカルなタイトルを並べています。更新は極めて適当です。 ※表紙画像は、あさぎかな様に作っていただいた、本作の中の一話「夢に繋がる架け橋」のファンアートです。ありがとうございました!

処理中です...