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Vol.30・嵐の果てに
しおりを挟む世の中は異常気象だとかでちょっとした異変に過剰に反応してメディアも騒ぎ立てるけれど、長い歴史を考えれば変わっていくことは当たり前じゃないか、とあたしは思う。
もちろん、明らかに人間が原因の地球温暖化に関してはまったく無責任に仕方ないとは言えないのかもしれないけれど、でももっともっと大きな宇宙の感覚なら、是非はともかく、改善策や反省はあったほうがいいとしても、すべて‘いまあるもの’として受け止めることは必要なのかもしれない。
何故突然こんなことを、と自分でも思うけれど、要するに、うん、要するにこれは現実逃避というやつよ。
そんな立派そうな御託を並べてみても、感情というものは簡単にコントロールできないので、あたしはあたしで、今、十六年生きてきて最大のピンチを迎えている。
心の中も現実の目の前も、盛大な大嵐に見舞われているからだ。
高校に入ってやっと解禁になったアルバイトをいそいそと始めたのは五月の連休前。行楽地の売店の売り子を転々として、楽しそうに連休を過ごす家族連れやカップルを横目に見ながら、あら意外、人が遊んでる時に働くのって楽しいじゃない。サービス業向いてるかも、将来は某有名テーマパークとかで働くなんてのもアリだなぁ、と未来の展望まで見えてきて、尚且つがっつり稼いで通帳を見るのが嬉しくなったし、うん、正直あたしは調子に乗ってたんだと思う。
なのに。
海開きに伴って海岸の海の家のバイトに行くことになり、帰りにゲリラ豪雨に遭遇してしまった。天気アプリは夜更けからの大雨を予報してたからまったく心構えがなかったわけじゃない。折りたたみ傘も持ってるし今日は寄り道しないでまっすぐ帰ろうと思ってた。なのに予報は微妙に外れ昼過ぎには空は真っ黒に染まっていった。
店長の指示で急いでお店を片付けて駅に走ったのに、大雨のため運転を見合わせております、と無情なアナウンス。海の家近くの駅は待合室もなく、電車に乗りたい人で溢れ、気後れして一歩外へ出ると、あっという間にずぶ濡れになった。
そこで、今まで海で遊んでたらしい若者たちの中に、去年まで家庭教師をしてくれてた大学生を見つけてしまった。
思春期の娘らしく歳上の大学生が大人に見えて憧れてしまったあたしを、こっぴどく振った、最低な男に。
彼はわざとらしく気さくな感じで話しかけてきたけど何も聞こえてこない。雨の音のせいだ、とあたしはぼんやり適当に相槌を打つ。
高校デビューもそこそこにバイトに勤しんだのはそのせいもあった。裕福ではないのに私立に行かせてもらった両親のためという大義名分を掲げて、本当は悔しかったから。見る目がなかった自分を鍛えるため、社会を学ぼうと思ったのもある。だけど本心はきっと、忙しくしていれば考えなくて済む、と思ったんだろう。
いつの間にか電車が動き出し人々の群れが消えていった後も、あたしは立ち尽くしていた。そこへふわりと、タオルがかけられた。我に返って振り向くとバイト仲間の同級生。
彼は何か言いながら海の向こうを指差す。
そこには、嵐が過ぎ去ったあとの清々しい風と、黒雲を裂いて夕陽の赤い光が漏れて。
あたしの中の澱んだ膿を、洗い流してくれるようだった。
Fin
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