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Vol.21・風に抱かれて
しおりを挟む遠くから砂の音がする。
「風が来るよ」
僕は短く言ってコートのフードについた防塵マスクを口元に当てる。
電子馬の重心を地面につけて、ちょっと肩に力を入れる。
一瞬の後、ざざざざざ、と巨大な風が砂嵐を連れて僕らの横を盛大に通り過ぎる。
「大丈夫?」
ソラが砂の下から声を上げたけれど、いつもぐらいのことでもう慣れっこだ。
「大丈夫。ちょっと動いたけど、進んだからラッキー」
淡々と言うとソラも、ナミも笑った。
世界は混沌としている。
巨大な災害と、それに乗じた異民族間、諸国間の抗争、内乱に巻き込まれて世界はほぼ、崩壊の一途を辿った。
表向き栄華を誇った文明社会は消え去って、生き残った僅かな人類が細々と生きている。
ある者は瓦礫の中で。
ある者は放射能に汚染された大地で。
ある者は、そう、僕らのように乾いた砂の上で。
けれど、電脳社会は未だつながっていて、一部の頭脳明晰な類の人間たちは上手いこと逃げて、どこからか世界を見物しているらしい、という事実もある。
僕らは、その場所を目指している。
ちょっと頭がいいムカつく奴らに一矢報いるためと。
―――――大切な人を取り戻すため。
ナギサは、僕の最愛の恋人だ。
僕らは混乱の時代の最中に生まれ落ちたから、その環境がどうこう思ったことはそうなかった。それはそれで平和で、より良くしようという意欲に満ちていた。
なのに、電脳社会を牛耳る何者かが、自分たちの利益のために優秀な頭脳と特殊な能力を持つナギサを――――ある日、攫った。
僕らの社会でも確かにナギサはみんなから頼りにされていたけれど、僕は情けなかった。
愛する人を守れなかった自分が、悔しくて。
初め一人で彼女を探しに行くつもりだったけれど、賛同してくれて、というより心配して幼馴染のソラとナミがついてきてくれることになった。二人は夫婦で、ナギサも含めた僕らは幼い頃からずっと一緒だった。
道は遠く、険しいかもしれないけれど、諦めてなんかやらないんだ。
ナギサの、あの笑顔を取り戻すまで。
この、砂を振りまく風にでも、心だけは爽やかに吹かれて、風に抱かれていこう。
(――――――まぁ、熱風だけどね)
それでも砂嵐が吹くたびに、僕の決意は新たになるんだ。
Fin
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