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Vol.17・ノイズ
しおりを挟む音のない世界に佇んでいたい。
そう思ったのは、仕事で沿岸部の島へ向かう定期船に乗っている時だった。
地元のおばさんたちなのか、たまたま島を訪れる街からの客なのか、何とも賑やかしい。
否。うるさい、というのが正直なところ。
船のエンジン音が気になるのも確かにあるだろう。何せ声が大きい。そして中年独特の(?)甲高く抑揚のない出しっ放し、という感じの声。
本人はどうなのか謎だが、聞いているだけで疲れる気がする。
ただでさえ、やさぐれた気分の上に更に不快感が上乗せされる。
(何をやっているんだか)
何もかもうまくいかない時は空回りするもので、耳に入る全ての音すらももう、煩わしいと感じるだけなのかもしれない。
要領の悪い部下と基礎能力の低い上司に挟まれて、日々の仕事は数倍増し。尻拭いばかりしているような毎日。
唯一の希望だった、得意先の気になる女性社員も、異動があったのかめっきり顔を合わせることがなくなった。
(連絡先ぐらい、聞いておけばよかった)
仕事では、やり手と言われていても、恋愛には案外情けない自分を発見して、また落ち込んだりもした。
睡眠時間は削られるばかりで、体も悲鳴をあげている。
20分余りの乗船時間を過ぎると、小さな島の小さな港へと降り立つ。
時計代わりのスマホを見れば、客先との待ち合わせ時間にはまだ早い。定期船の運行は数える程だが、移動の都合もあって一本早い便に乗ってきたのだ。あまり早く着きすぎても先方に迷惑だろう。
そう思って少し海岸沿いをぶらぶらすることにした。
もう少し過去に遡れば、海岸に広がる美しい砂浜は海水浴客で賑わい、小さいながらも観光地として盛り上がっていただろうこの島も、年々訪れる人も減って、過疎化の一途を辿るばかりだ。
それを感傷的に見るほど、決してここだけの珍しい話でもない。
島を囲む細い路地のような道を、ぐるりと抜けると、自分にも子供の頃泳いだ記憶のある海が広がっている、筈。
そこには。
確かに海があった。けれど大抵の記憶がそうであるように、思っていたより小さくてショボくて、思い出は美化されるくらいの気持ちでいた海とは違っていた。
そこにあったのは、思いがけない美しい海と―――海ごと全身を包み込んでしまうような、濃青の空。
一切の、音が消えた。
その瞬間、煩わしく耳障りなノイズは、全部、自分の心が生み出していたんだと気づいた。
いつしか、静かに頬を涙が流れていた。
Fin
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