16 / 55
Vol.16・ハイサイド
しおりを挟む引っ越してきて新しく借りた古い一軒家は、築年数の割にモダンな造りになっていて、広めのリビングの上にハイサイドの明かり取りの窓がある。
片づけもまだ終わらない休日の午後、新調したソファに座って、俺はその窓から見える切り取られた空を、ずっと見ていた。
(今日も青いな)
何日も続く晴天とは裏腹に俺の心はずっと曇天だった。
急に決まった転勤で、俺は一つの決心で彼女を訪ねた。
「ついてきてほしい」
その言葉に彼女は一瞬目を見張り、それから戸惑うように目を泳がせた。
それが答えだと思った。
それ以上何も言えず、そのまま帰り、以降まったく連絡を取らなかった。引っ越しの日も告げなかった。
怒ったわけじゃない。
本当は、わかっていた。
彼女が、自分の仕事に誇りと生きがいを持って働いていることを、知っていたから。
そして今は、仕事が楽しくて仕方なくて、充実した毎日を送っていることを、知っていたから。
だから、自分の願いが叶わないことに、勝手に傷ついたのは俺だ。
それでも。
知らない土地で新しい生活を始める時に、彼女にそばにいてほしいと思ったのも事実だった。
ぼうっと、ソファの高い背凭れに首を預けて、四角い青空を眺めている。
時折、形を変え現れたり消えたりする白い雲が、風の流れを教えてくれる。
こんな風に、時を重ねていけたらと、願っていたんだ。君と。
ハイサイドの窓は、部屋の中に光を入れる目的なのだろうけれど、小さな箱の中で小さな悩みにとらわれる小さな俺を覗き込んで、神様が小さく笑っているような気がした。
そう思って、不意に泣きそうになった。
モダンな造りの家はチャイムの音もどこかレトロで、やわらかくて、遠くで鳴っているような気がした。
何度目かのチャイムではっと気づき慌てて立ち上がる。
そうだ、こういうものも全部ひっくるめて、彼女が好きそうなものばかりを選んだんだ。
当然インターフォンなんてなくて、大家さんかも、とドアを開ける。
そこに彼女が立っていた。
「…どうして」
「調べたら、こっちにも支店があって…移動願いを出したよ」
にっこりと笑っているのに、彼女の目は真っ赤に濡れていて。
「…遅ぇよ」
ふてくされたように素直じゃない俺も、言葉とは裏腹に次の瞬間には彼女を抱きしめていた。
ハイサイドの窓から、神様がやさしく笑った、気がした。
Fin
1
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる