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バレンタイン・ア・ラ・カルト⑤おまけ
しおりを挟むチトセさんのお店で買い物をして、スタッフオンリーと書かれた部屋でお茶を飲む。
「あー、あったまる」
「雪が降り出したよ」
休憩に入ったのか、チトセさんが部屋に入ってきた。
「え、ほんと? 寒い筈だ」
ハルカがホットチョコをゆっくりすすりながら呟く。
ばたん、と新たにドアが開いて、その勢いで無意識に目線を向けた。
「お前ら、何やってんだよ」
そこには、ウサギの着ぐるみ――の、頭が取れて、ヒロトが顔を出していた。
「……お前、何やってんの」
「バイト。それ今俺が言った台詞じゃねーか」
「あらやだ、ヒロト似合うじゃなーい。可愛いよ!」
「可愛いとか言うなよ、子供じゃねーし」
相変わらずツンデレ全開だ。
「ん? ってことは、さっきあの女の子にチョコ渡してくれたのって、ヒロトだったわけ?」
「だから、遅ぇーって。何だったんだよ、あれ」
「正義の味方ってとこかな」
「何だそれ、相変わらずガキくせぇな、ヒカルは」
「ちょっとヒロト、お兄ちゃんって言いなよ」
ハルカが面白そうに笑いながら言うと、ヒロトは心底嫌そうな顔になった。
「無理」
「まぁ、俺はいいけどね」
元から弟みたいなもんだ、今更なのはお互い様。
「それより、さっきの何だったわけ?」
どうにも事情が気になるらしい。俺はかいつまんで説明しようとすると、ハルカが先に口を開いた。
「それがさー、さっきの男の子、スバルくんっていうんだけど、ヒロトにそっくりなんだよー」
言ってんじゃねーか!
俺はハルカが嬉々として話すその先に、ヒロトが真っ赤になって怒る姿を想像して、溜息をついた。
やっぱり、女は強い。
そしてハルカのお腹にちょっと目をやって、複雑な気持ちになる。
まあ、いいか。
女は強し、だからこそ、少なくともうちとハルカの家族は救われている。
それはとても、幸せなことだから。
狭いスタッフルームでぎゃあぎゃあ騒いでいるハルカ姉弟を横目で見ながら、俺も達観してきたよなぁ、とコーヒーを飲み干した。
おまけ・完
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