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初夏

初夏 4

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 知り合ってから、こんなに逢わなかったのは初めてで、来ないとなると気になってしょうがない。

 一人が大好き、できるだけ人に逢いたくない、人がいると気心知れた人でも長時間はしんどい、と思っていたトク子さんには異常事態に近い。水希は人ではないけれど。

 おかしいなぁ、何かあったんでしょうか。それとも、慶さんの感想がやはり買い被りで、みーくんも私に飽きてもう来たくなくなったのでは? と悶々と過ごしていたトク子さんは、慶さんを送り出してソファでゴロゴロしている。

 人から見ると、ただ怠けてるとか呑気とか優雅な身分だと思われるかもしれないが、トク子さんは気にかかることがあると他のことが手に付かなくなるのである。

 それでも最低限の家事をしてゴロゴロ悶々としているのだから、私偉い、進化してる、と変に感心したりもしている。でも気になる、の繰り返しだ。

 毎日用意していたおやつのお茶菓子も、水希が来ないものだから減らないし、日持ちしないものは慶さんと食べたりした。それでも明日は来るかな、明日は来るかな、と毎日待っている自分に気づく。

「もしかして私、みーくんに依存しているのでは……?」

 それはよろしくない、全くもってよろしいことではない。人と深く関わりたくないのは、依存しがちな自分を知っているがゆえの防衛反応でもあるのだ。トク子さんは他人との距離感がよくわからない。

「神様だから、尚更、甘えてしまってたかな……」

 水希に何かをしてもらおうとか、そんなことは考えたことはないのだけれど。

 やれやれ、と気持ちを切り替えて立ち上がる。たまには一人で優雅にティータイムでもいいではないですか、と自分に言い聞かせる。

 暑くなってきたのでアイスコーヒーにしようかな、と思いながらキッチンに向かうと、玄関のチャイムがなった。

「トク子さーん、開けてー」

 インターホンを覗くと水希が変わらない笑顔で立っていたので、トク子さんはすごく安心してしまった。

「はーい」

 いかんいかん、これでは本当に依存しているみたいだ。それとも、静かで自由でいい、と思っていた田舎暮らしも、少しさみしいと感じていたのだろうか。




「ど、どうしたんですか、その荷物」

 玄関を開けると、水希と狸夫妻、そして何やら大量の荷物が足許に置かれていた。

「お土産ー」

 お土産。

 言葉の意味と、目の前の物体が結び付かなくて考えてしまう。

 そこにあったのは。

 どう見ても米俵。所謂、米農家さんが玄米を入れる米袋ではない、本物の俵である。それから巨大な西瓜に南瓜、トマトに茄子に胡瓜などの夏野菜が山程、大きなざるに入っている。そして一升瓶のお酒。

「……一体、どこのお土産なんですか?」

 量はさておき、特別な産地がわかるものではない。俵は運動会の出し物で見たことはあるが本物は初めてだけれど、この辺りもまあまあ米どころだし。

「えっとねぇ、神様の集まりがあって出掛けてたの」

「……他の神様からのお土産なんですか?」

 それはだいぶ恐れ多い。どこの世界に神様からお土産をもらう主婦がいるというのか。

「トク子さんの話で持ちきりだったからさ、みんなが持っていけ持っていけって」

 いろいろ突っ込みたい気持ちは山々だったが、とりあえず玄関に置かれても困る、というか有り体に言うと邪魔なので、言葉を飲み込んでトク子さんは水希たちを促した。

「まあ、お疲れでしょうから、中へどうぞ」

「うん。お邪魔しまーす」

「久々ですなぁ」

 荷物は玄関ホールに置いててもらおうかと思ったのだが、水希たちは軽々と持って家の中に入っていく。

「お米はキッチンに置いたら邪魔だろうから、ここに置いておくね」

「……そうしてもらえると助かります」

 重くて玄関先に並べていたわけではなかったようだ。神様は力持ち、とトク子さんは脳内メモに追加した。




「一週間も来なかったから、ちょっと心配しちゃいました」

 控えめに言ってはみたが、果たして人間の一週間が神様にとってどんなものか、想像もつかないな、とは思っていた。

「あー、そうだねぇ。ごめんね、急に呼び出されたもんだからトク子さんに挨拶も出来てなくて」

「いや、それは全然いいんですけど」

 そもそも毎日来ると約束したわけでもない。何となく暗黙の了解になっているだけで。

「何か伝令を飛ばしてもよかったんだけど、トク子さんがびっくりするといけないからやめたの。っていうか、たぬ吉さんたちに止められたというか」

 てへへ、という感じで何故か照れ笑いする水希に、トク子さんはぴんときて狸夫妻に目をやる。

「伝令って、例えばどういうのですかね?」

「ええ、式神とか、我々のような使いの動物とかですね」

「……つまり、紙人形みたいなのが飛んできたり、野生動物が喋ったりするということですね」

「はい」

「止めてくれてありがとうございます、たぬ吉さん、たぬ子さん」

「どういたしまして」

「当然です」

 狸夫妻は神妙に頷くのに、水希だけきょとんとして、なんでー? と首を傾げている。

 狸夫妻だって水希に伴って来ていたから受け入れられたのだが、紙人形が飛んできて窓に貼り付いたり、動物がいきなり喋り始めたら、トク子さんは今度こそ気絶するかもしれない。漫画や映画でよく見るシーンでも、リアルで体験したくはない。

 ともあれ、水希が来てほっとしたのも事実なので、トク子さんは自然と笑顔になった。

「ちょうどお茶しようと思ってたところなんです。たくさんのお土産もありがたいですが、お土産話も聞かせてくださいよ」

 一体どんな神様の集まりなのか、話を聞くだけならわくわくする。

 そう言うと水希も笑顔になって、

「うん!」

 と元気な返事をしてくれた。
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