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今冬
今冬 1
しおりを挟むそれから水希は毎日のように来るようになった。否、毎日のように、ではない。文字通り毎日だ。
トク子さんは基本家にいるし、たまに買い物に行くことはあっても、車の運転が得意ではないので近場のスーパーぐらいだ。町までは三キロ程度だが山の上なので歩いていくのは大変だから車を使う。田舎は車がないと不便極まりないからと、ペーパードライバーだったトク子さんに慶さんが軽自動車を買ってくれた。
そして水希は、そんな日には帰った頃にタイミングよく現れたりするので、初めは驚いた。そしておやつを食べたりするのだが、一緒にいてとても居心地がいいので、全然嫌じゃない、むしろ嬉しくて楽しい。
少人数であっても団体行動が大層苦手で、一人が大好きなトク子さんには物凄く珍しいことだ。それが神様だからなのかはわからないけれど。
そんな感じで二週間ほど過ぎて、トク子さんたちは結婚して初めて、というより出逢って初めてのクリスマス、の数日前。
「ねぇねぇ、トク子さん、クリスマスはどうするの?」
水希がうきうきと聞いてきてトク子さんはガクッとこけそうになった。
「……慶さんは普通に仕事ですし、特に予定はありませんけど」
そう言うとあからさまにがっかりする。
「ええええー。クリスマスパーティーしようよー」
「……一応聞きますけど、日本の神様なのにクリスマス、大丈夫なんですね?」
なんですか、じゃなくてもはや確認するだけだ。何かしらの制約があるならパーティーをしようなどと言う筈がないだろうから。
「もちろん!」
「……まあ、一応チキンとケーキは買おうと思ってますけど」
ぱあっと笑顔になる水希。可愛いがすぎる……。トク子さんは子どもにねだられてクリスマスパーティーを渋々受け入れる母親のような心境になった。
「やったー! クリスマスパーティーやってみたかったんだよね!」
とても喜んでいる水希の姿を、ふと疑問に思い問うてみる。
「慶さんが子どもの頃とか、一緒にしたことないんですか?」
「あ、それはね、まだ慶くんの家族がみんなこの家にいたから、家族水いらずを邪魔しちゃ悪いなぁと思ってさ」
「そうか、そうですね……」
「やりたいって言ったらたぶん、みんなは気を遣って誘ってくれたかもしれないけどね、僕もその頃はそんなに興味なかったし」
「そうなんだ」
それは少し意外だった。
その話の流れでふと思い立って聞いてみる。
「そういえば、みーくんのことは誰でも見えるんですか?」
トク子さんは子どもにしか見えないのかと思っていたが、自分にも見えるし大人になった慶さんにも見えている。
「うーん、いろいろだね。子どもの頃は見えたけど思春期ぐらいから見えなくなったり大人になったら見えなくなったり。小さい子は間違いなくみんな見えるんだけど」
「へえ……何か法則みたいなのがあるわけじゃないんですか?」
「うーん、たぶんだけど、すごーく心が荒んでる人とかは見えづらいかも。気分的に昨日は見えたけど今日は見えないとか。あとは、僕たちみたいな存在を絶対的に信じてないとかね」
「ははあ、何となくわかる気がします」
そう言ってから、じゃあ自分はどうなんだろう、と考える。そんなに心が綺麗だとは思わない。ということは。
「私も慶さんも……」
大人になりきれていないからかな、と言いかけて卑屈な表現だな、と思い直す。慶さんにも失礼だ。
「私も慶さんも、子ども心を忘れてないってことですかね?」
悪戯っぽく笑うと水希もにっこり笑った。
「うん、そうだね!」
ケーキはカットされた小さいケーキを一つずつ買うつもりだったけれど、ホールケーキを買ってこよう、とトク子さんは決めた。
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