【完結】真実の愛の物語~転生先の女神の願いはおれと弟の子作りでした?~

べあふら

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84.恵みの乙女よ、お前もか

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 この度、王太子殿下と騎士ギルバートのご懐妊の兆しが発表された。

 本日は、そのお披露目のセレモニーが開催される。 

 白亜の王城。そのバルコニーに、二人がそろって姿を見せることになっている。

 普段は一般には開かれていない、王宮で催されるとあって、中央の庭園に集まった民衆の興奮は否応なしに高まるというものだ。

 おれとテオドールも、このセレモニーに出席するため、4大領主やその関係者に用意された特別観覧席に足を運んだ。

 ご懐妊の兆し、とはいうものの、公式な発表は当然安定期に入ってから、行われる。
 この世界での妊娠期間は受胎したときを0日として、約8ヶ月だ。そして、3か月ごろには安定期に入る。

 おかしい。

 だって、今は、収穫祭からまだ1ヶ月半しか経っていない。
 つまり、収穫祭で婚約の発表があった時点で、既に妊娠1ヶ月をとうに過ぎていたことになる。

 いや、別にイグレシアス王国では、婚姻と妊娠出産の前後にこだわるような、そんな風潮は一切ない。

 真実の愛。それが、全てだから。

 だから、おれもそんなことは、何とも思っていない。おめでとうございます。ただ、それのみだ。

 でも、思い出して欲しい。
 
 おれが『女神の願い』を飲んだのは、王族に何かあったらいけないから安全性の確認が必要だ、て話だったはずだ。
 
 けど。その時には、既にばっちり妊娠は成立していたのだ。

 さすがに、びっくりなんだけど。

 この事態に、秘薬『女神の願い』を保管していたテオドールが関与していることは間違いない。

 さらに、このおれが、妊娠に気づかないほどに、精霊力マナの隠蔽がされていたということは、精霊医学薬学研究所の所長であるソフィーエル・ウォルターも知っていたということだ。

 だって、そんなことができるのは、今現在、おれかソフィしかいない。

 きっと、ダニエル・ヴァンだって裏のルートで知っていたに違いない。
 だからこそ、この妊娠が発表される時期に……安心して、ご出産を迎えられるように、なんて理由もあって、闇の教団を焚きつけ彼らを処理することにしたのだろう。

 つまり、皆知っていたということだ。

「シリル兄さん、顔が可愛いくなっているよ」
「いやっ!おれは、怒ってるから!!」
「ごめんね、言えなかったんだ」

 いつかも聞いたような台詞に、ぐっと言葉をつめる。

 そんなこと、わかってるよ。王族の妊娠なんて、極秘も極秘だろう。

 でも、なんだ、これ。

 おれ、『女神の願い』の開発者なのに。

「うっ……あんまりじゃない?」

 疎外感が、半端ないんだけど。

「寂しい思いさせて、ごめんね」

 寂しそうな顔をして、おれの肩を抱いて慰めてくれるテオドール本人が、この件の首謀者に違いない。

「秘薬の試験も何も、ないじゃないか」
「それは、そうだね」

 と、あっさり認められる。

 いや、おれだってさ。危険性うんぬん、安全性うんぬんの理由が、テオドールがおれに『女神の願い』を飲ませるための、詭弁だった、ことは分かってるけど。

 でも、もう少し、取り繕うくらいは、筋の通った理由にすれば良かったのに。

「僕からすれば、王族よりも、シリル兄さんの方がずっと大切だから、ね」

 悪びれることも無く、そんなことを言う。

 それって、まるで、おれに秘薬を飲ませるために、王族で先に試験した、みたいな言い方じゃないか。

「ちゃんと、王太子殿下とギルバートの同意は書面でとっているよ」
「サインがあれば、問題ないなんてことは無い」

 何か起これば、そんなの無効だ。じっとりと睨みつけるおれに、テオドールはやはり涼しい顔で、

「あの二人に、先に投与した理由は、シリル兄さんの作った精霊薬に、間違いは無いと確信があったからだよ。
 それは、あの二人だって同じことさ。
 秘薬が完成していて、“恵みの乙女”のお墨付きがあって、それを望む真実の愛で結ばれた二人がいる。
 僕が止める理由がない」

 なんてことを言って、

「秘薬を渡したのは僕だけど。
 あの二人は、それ以前から、恋人同士であったからどのタイミングで使うかまで、完全に制御するのは不可能だ。
 なるべくして、なったんだよ」

 さらりと付け加える。

 ミアが「恋人同士が普通にすることをしてれば、妊娠できる身体になる」と言っていたことを思い出し、はぁ……と大きく溜息をついた。

 まあ、別におれだって、他所のカップルの家族計画について、どうこう言うつもりはない。

 むしろ、どうでもいい。

「もう、隠し事……無いよな?」

 こうも、度々、隠し事をされると、傷つく。
 いくらおれが、テオのことを信頼しているとしても。

「僕自身には、ないよ」

 なんだよ。その言い方。含みがあるな。

「あ、シリル、テオドール!久しぶりね~!!」

 と、そこで馴染みのある元気な声がして、おれは声の方を振り向いた。

「あの神殿の一件以来じゃない?元気だった?」
「……………………ミア?………え?」

 おれは、自分の目を……感覚を、疑った。

「は?他に誰がいるのよ。何、ちょっと会わない間に、目が悪くなったわけ?」
「いやっ……そうじゃ、なくてっ!!」

 おれは、ミアとテオドールを交互に何度も見て、そして、またミアをじっと見る。

 さらに、テオドールへと向き直ると、軽く肩をすくめられた。

 ミアのお腹の下の方。
 あまり、他人の下腹部をまじまじと見るものでは無いけれど、そこには確かに、ミアのものでは無い別の精霊力マナが、くっきりと感じられて。

「その……ミア、おめでとう……」
「へ?……ああ、シリルにはわかっちゃうのね」

 ミアは、少し頬を赤くして、気恥ずかしそうに、後ろめたそうに、頬を掻いた。

 それはつまり、おれの感じたものはあっている、という肯定であって。

 体内に分離した状態で、全く別の精霊力マナが存在する事実が意味することは、妊娠だけだ。

 つまり、今日は王太子殿下とギルバートの懐妊の発表の場であったのだけど。

 ミアもまた、新たな命を身ごもっている。

 しかも、その感じる精霊力マナは、おれの知っている人と、とても似た精霊力マナだった。

「ええー……。ミアとソフィ……いつから、そんなことに?」
「そこまで分かると……キモ…いや、ちょっと微妙にプライバシーの侵害な能力よね」

 キモいとか、言うな。“恵みの乙女”に言われたくない。ミアだって、テオだって、これくらいわかるはずだ。

 ミアの中に宿った、今はまだ弱々しい精霊力マナは、おれのよく知るソフィ…ソフィーエル・ウォルターのものと、よく似ていた。

 ソフィは、おれの友人で、同僚で、上司だ。
 おれの知らぬ間に、おれの近しい二人は、親密な関係になっていたらしい。

 フォレスターの前当主である父が当主の座を追われた後、ソフィの父であるウォルター家当主がおれとテオドールの後見人となって、様々な面倒を見てくれた。

 つまり、おれとテオドールからすれば、4大領主の中でも最も近しく、ソフィは幼馴染のような存在だ。

 ソフィとおれは、共に精霊医薬師を目指していたこともあり、話も合って、互いに認め合っている仲だと思っていたのに。

「ここにきて、さらなる……」

 おればっかり、仲間はずれじゃん。
 ひどくないっ?!ねぇ、あんまりじゃないっ!!

 ミアをメーティスト神殿から治療院のソフィの元に送った時、テオドールが「今頃万事解決している」と言っていたのは、そういうことか。

 テオがよしよしと頭を撫でるけれど、そんなことでは慰められない。

 ……でも、テオの手は、気持ちいいから、撫でられるのは、やぶさかじゃない。むしろ、もっと撫でて欲しい。
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