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80.両立する想い③※

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 うつ伏せに返されて、真っ白なシーツが視界に広がる。ずっしりと、テオドールの体重が背中にのしかかってきて、おれは身動きが取れなくなった。

「あ、これだと……」
「そうだね……この体勢だと、シリル兄さんからは見れないね。
 ごめんね。本当の僕は、そんなに優しくないんだ。ただ、シリル兄さんに嫌われたくないだけ」

 耳元に顔が寄ってきて、荒くなった吐息が、首筋を擽った。

「大丈夫、入るよ」

 むしろ「絶対に入らせてもらう」と言われているような。テオドールの気迫を感じる。

「怖くても、逃がしてあげられない。
 お願い。このまま、僕のものになってよ」

 勝手に震えだす身体を、テオドールが後ろからぎゅっと強く抱き締めてくれる。

「テオ…怖いよ……おれ…」

 見えなくて、何をされるのか分からなくて、自分がどうなるのか分からなくて、怖い。

 そのまま、わからないまま、もう二度と……おれは、そこから、いなくなってしまうかもしれないから。

 でも、テオとぴったり肌が触れ合う背中も、おれを包む腕も、かかる吐息も、全部、おれと同じように熱くて、ここにいるのだと伝えてくれる。

 ドキドキして、そして、求めている。

 怖いけど。怖いから、おれは、おれを、テオに委ねる。

「怖いから、テオが……おれを、テオのに、して」

 こんな、おれだけど。おれを丸ごと、もらってほしい。

「ああ、もう…っ、シリル兄さんは、どうしてそうなの…っ」

 お尻にぐっと熱くて、硬いものが押し当てられて。
 ぬるりとした感触に、そこが疼く。早くおれの中に全部入りたいと言われているようで、お腹の奥がきゅうっとなった。

「んっ……ふぅ…」
「ゆっくり、息を吐いて」

 言われたとおりに、息を吐く。力を抜いて、全てをテオに任せて、信じる。
 ぐうっと内側から押し拡げられ、圧迫感は増すけれど、それでもゆったりと、身を委ねた。

 怖い。怖いけど、大丈夫。一人じゃないから。

「はっ……あ、あぁ……っ」
「ああ、シリル兄さんの中……すごく、あったかい」

 腰を掴んでいたテオドールの力が緩む。お尻に、肌が触れてぴったりとくっつく。

「これで、全部、だよ。……シリル兄さん、僕……」
「あ…、……ほんとに?」

 おれは、確かめるように、心なしか膨らんだようにも感じる自分のお腹を撫でた。

「僕……はぁ……どうしよう」

 湿った声と共に、背中にぽたぽたと雫が落ちてきて、おれの肌を伝う。

 あ。テオが、泣いている。

「こんな、満ち足りた、気持ちになるなんて……」

 おれの手に重ねられたテオドールの手に、ぎゅっと力が籠り、握りしめられる。
 そこから、じわじわとテオドールの感動が伝わってきて、状況にただ翻弄されていたおれも、心が満ちて、胸が詰まった。

「僕……あなたが、…大好きなんだ」
「うん」
「本当に、愛してる」


 テオドールは繰り返し、おれの名前を呼んで、愛してると繰り返した。時折、「ごめんね」となぜか謝罪の言葉を、混ぜながら。

 きっと、これが、これまで、おれが言わせなかった、テオの蓄積されたおれへの想いなんだ。

 テオは、こんなにも、おれを求めてくれていたのか。

 そう思うと、テオのことが愛しくて、可愛くて、同時に、おれはなんてひどいことをしてきたんだろうと、痛感する。

 涙がじわりと湧いてきて、また泣きそうになってくる。

 と、不意に背中に柔らかな感触が落ちて、吐息がかかる。無防備に晒した背中に、口づけられたのだと分かる。

 あ、気持ちいい。背中、ぞくぞくする。

「ん、んぁっ……あ、あぁっ」

 這い上がって来る悪寒に似た感覚が、纏わりついて全身に広がった。

「この傷……」

 おれの背中に縦に走る大きな傷。あの日、オルトロスの召喚に際して、できた傷だ。

 これまで、テオには見せないようにしてきたのに。

「こんな傷、消してしまいたい」
「あ、傷は……ダメ…っ…あ、んっ」
「どうして?せっかく、綺麗な肌なのに」

 わかってる。テオドールにとっては、自分がつけたにも等しい、傷。嫌な気持ちがするに決まっている。

「だって……」

 何と説明していいのか、わからない。

 テオドールを庇ってできた傷だということだけではなく、そこにテオドールを縛り付けたい、という仄暗い願望があることも本当だけど。

 でも、これはテオドールとお揃いだから。
 いや、本当のテオドールとはお揃いじゃないのだけど……でも、同じものを一緒に背負えたような、そんな気持ちにさせてくれる。

「これは……テオの印、だから」

 もちろん、今のテオにこんな傷はないけれど。
 けれど、違う何かを、テオも確実に背負っている。その証が、おれについている。テオドールの印。
 だから、消したくない。

「そんな、可愛いこと言われたら、消せないじゃない」

 つーっとテオドールの指が、傷をなぞる。

 そして、

「じゃあ、上書きさせて」

 と言う言葉が、背中を擽った。

「んっ……あ、は……っ…」

 背中にぽわり、と温かな口づけが何度も降ってくる。

「あ、きもちぃ……テオ、んんっ……それ、すごく…いいっ」

 この傷を負った時の苦痛とは裏腹の、うっとりするような甘くて優しい感触に、おれはただただ酔いしれていく。気持ち良くて、全身が悦んで、もっとどんどん欲しくなる。

「シリル兄さん、背中も弱いんだね」
「あっ……ちがう…っ」
「何が、違うの?」

 肩甲骨の出っ張ったところを、ぺろりと舐めあげられて、ちくり、と繰り返し小さな痛みが走る。

「こっちも、好きでしょう?」

 前に回されたテオドールの手が、胸の突起を摘まんで、きゅっと引っ張った。強めにこねられて、先端を爪で引っ掻かれて、さらに反対の手で下腹部を撫でられる。

 後ろへの挿入ですっかり萎えていたおれのものは、いつの間にか、また元気を取り戻していて、テオドールの指先がなぞるように触れて、さらに芯をもつ。
 握りこまれて、上下に刺激されて、ぬちぬちと湿った音と共に、快感が込み上げてくる。

「あっ!…あぁ、…もう…ちがうって…んっ」

 こんな、どこもかしこも、感じすぎて。恥ずかしい声をあげて。物欲しそうに鈴口からは涎を垂らして。中からも、とめどなく愛液が溢れ、太ももを伝う。

 おれ、こんなんじゃ、なかった。

「おれが、よわいのも…好きなのも、テオ……だよっ」

 じんじんと痺れて、圧迫感しかなかった後ろが、ひどく疼く。

「テオが、おれを……こんな風に、した…っ」

 おれの心を表すように、きゅうきゅうとテオドールを締め付けて、内側から離さないように、強く抱きしめた。

「シリル兄さんは……ずるい」

 ゆっくりとテオドールが動き出すと、疼きが熱となって、快感が全身に駆け巡る。ゆりゆると、内側を撫でられ、感じたことのない強烈な感覚に、逃れたい気持ちになって身を捩った。

 けれど、そこで、左足を掴まれ横向きに体勢を変えられてしまう。

「あっ…テオ、これ……ふか、い…っ」
「でも、これで僕も、繋がったところも、全部、見えるでしょう」

 ぐっと腰を押し付けられて、さらに深くに押し入ってくる。

「僕に、めちゃくちゃにされたいんでしょう?しっかりと、見ていて」

 え、そんなこと思ってない。

 という思いは、もはや言葉には出来なかった。
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