【完結】真実の愛の物語~転生先の女神の願いはおれと弟の子作りでした?~

べあふら

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74.認識の相違③

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「正直、テオドールがいなくなれば、あわよくば、なんて期待したんだがなぁ」
「は?ダニエル……それ、どういう意味?」

 テオドールがいなくなれば、て……まだ、何かするつもりなのか?そんなこと、おれが絶対にさせない。

「おお、怖っ……そんな、威圧すんなよ。もう、テオドールには何もしねぇよ。元々、おれがどうこうしたいのは、テオドールじゃねぇから」

 言って、ダニエルは何かを訴えるように、じっとおれを見る。

「え?どういうこと?」

 そのダニエルの視線は鋭いわけでは無いのに、これまでとは異質なものに感じて、射抜かれたように身動きが取れない。

 言葉の意味も視線の理由も理解できずにぽかんと呆けていると、ぐっと横からテオドールに肩を引き寄せられて、胸の中に抱き込まれる。

 おれの視界を遮るテオドールの胸元が近すぎて、触れたところから体温が伝わってきて、それだけで異常なほどに脈拍数が上がって、顔が熱くなる。

「ちょっ…テオ、いきなりなんだよ…っ!」

 テオドールの胸元に添えた自分の手は、押し返しているのか、縋っているのかわからない。だけど、テオドールの体温でふわりと香ってくる彼の匂いにくらりとする。

「世界の破滅をかけねぇと、落ちないような奴……俺の手には余るわ」

 世界の破滅?……話の筋は見えないけれど、テオドールが世界を壊す、と言っていたことについてだろうか。

「テオ」
「何?」
「世界を壊すなんて、ダメだからな?」
「しないよ。シリル兄さんが生きている限り」
「おれは、テオにそんなことしないでほしい。嫌だよ………テオが悪く思われるなんて」

 おれにとっては、世界の一大事よりもテオドールの安寧の方がずっと大切なことだ。

 別に、世界がどうでもいいということでは無いけれど。大切な人が嫌な気持ちになるのは、同じかそれ以上に耐えられない。

 例え、おれが望むときが来たとしても、おれがどうにかするから。

「もし、テオがそんなことするなら、その前におれが……」

 おれの傷ひとつで、こんなにも心を痛めてるのに。
 そんなことを、テオには背負って欲しくない。

 おれはぎゅっとテオドールの胸元を握りこんで、額を押し当てた。

「シリル兄さん……ありがとう」

 何に対するお礼かは分からなかったけれど、おれの心はその感謝の一言で満たされてしまう。

「ま、そもそも眼中にねぇもんなぁ……」
「だから言ったでしょう。
 シリルって、この世界の法則に則っているようで、全然はみ出てるのよ。しかも本人はそれに気づいていない」

 ちょっと待て。
 今の話から、なんでそんな結論に至るんだ。すごい言われようなんだけど。

「シリルをどうにかしようってことは、前と後ろ……いや、内と外……ううん、全方位に常時注意する、ていう半端ない難易度の攻略になるわけよ。超要注意人物なのよ」

 と、ミアがこれまで見たことのないドヤ顔でダニエルへと断言する。

 ふと見上げれば、頭上のテオドールも静かに頷いている。

「思いついたらじっとしていられなくて、何でもかんでも首を突っ込む上に、すぐ他人を巻き込んでその気にさせる天才だし。
 それなのに、自分のこととなるといつまでも同じところをぐるぐる回って、流されに流されて、奇妙な方向で決断力と行動力に優れているから。僕は本当に心配だよ」
「それ、褒めてる?貶してる?」
「シリル兄さんの、どんなところも愛してる、てこと」

 そう言うテオドールは、本当に幸せそうに優しく微笑むから。その笑顔に、おれはただ言葉を失ってしまう。
 見惚れるように、じっとテオドールを見つめるおれに、

「死んでからも、生まれ変わっても、ずっと一緒にいようね」

 と、当たり前のようにテオドールが言った。

「え?……そんなこと……」

 生まれ変わっても、とテオドールは言うけれど。この世界には、生まれ変わりという概念が無い。一般的には亡くなると、全てが精霊力マナの大きな流れに飲まれ、世界に還るとされているのだ。

「可能だよ。理と叡智の弟神メーティストがそう言っているんだから」

 え、マジで?

 ………それってつまり、今現在、その存在が明らかにされていない精霊力マナの法則が存在していて、かつ精霊術として行使することが可能だということか?
 精霊力マナ精霊力マナの結びつきを契約で可能にする、とか?……え、なにそれ。めちゃくちゃ面白そうなんだけど!

 ——と、そこで視界いっぱいにテオドールの顔が映って、目の前も頭の中もきらきらと瞬いた。

 すごく近くにテオドールがいて、唇に柔らかな感触を感じる。大きな満月のような輝きを放つ瞳が、じっとおれの瞳を覗き込んでいた。

 あ、テオの瞳がおれでいっぱいになってる……。

 ゆっくりと、名残惜しそうに唇の熱が離れて、

「シリル兄さん、また僕以外のこと考えていたでしょう?」

 吐息が、唇だか頬だか耳だを、擽っていく。

 テオドールの唇の柔らかな感触がいつまでも残って、なんだかたまらなくて、顔は熱くて、頭はふわふわして、胸の奥がじんじんと痺れて。

 もう、テオドール以外はどうでも良くなってくる。

「僕は、闇の教団を制圧し、神災ストロフの再来を阻止した。
 この地下空間の奥に、あなたの精霊力蓄積器は保管されている。あとは、それを回収し、気絶している教団員たちを拘束、担当機関に引き渡すだけだ。
 そのくらい、できるよね?ダニエル・ヴァン」

 と言う、テオドールの声が耳に入ってくる。

「ああ、むしろ任せてくれ。ありがとな、体裁だけでも整えさせてくれて。助かるわ」

 テオドールは、もう帰路に着くつもりらしい。
 それを察して、ミアが言う。

「テオドール……一つ、言っとくけど」
「何?」
「取り合えず、最悪でもシリルを幸せにしなさいよね」

 最悪でも、て……むしろ、最高なのではなく?

「そんなこと、君に言われるまでもない」
「散々泣かせといて、良く言うわ」
「だって、シリル兄さんの泣き顔は、最高に可愛いから」

 いや、テオドールってば何言ってるの?!!

「まあ、それは同意だけど」
「ええっ?!」

 ミアまで、同意しないでよね!!?

「シリル兄さんが一生懸命悩んでるところは、いつまでも、いくらでも見ていられる」
「わかってるじゃない。
 一言一言にいちいち反応してくるところとか、堪らないのよね。……って、そうじゃなくて!
 私が言いたいのは、次に泣かせたら、ただじゃ済ませないわよ、って話を——」
「ごめん、ミア。それは、おれが約束できない」

 おれ結構、涙脆いから。

「でも、大丈夫だよ」

 おれの勝手な罪悪感は、おれの大好きな人たちを悪者にしていたのだ。おれが如何に愚かな妄執に囚われていたかを、テオドールが教えてくれたから。

「今は、おれ……自分のこと、幸せにしてあげなきゃと思ってるから」

 自分の幸せが、おれの大切な人たちを幸せにするのだと、やっと理解したから。

「あげなきゃ、じゃないのよ。無理に笑うな、て言ってるでしょ」
「うん。色々……ありがとうな」
「もう、世話が焼けるのよ……このバカ」
「うん」
「私より、絶対に長生きしなさいよねっ!じゃなきゃ、許さないんだから」
「うん……うん。ごめんね」
「謝るなっ!バカ!あと、プリンをまた作ってよね」
「うん、ありがとう。………ずっと、……ずっと、大好きだよ」

 聞かないし言わなかった。言われなかったし聞かなかった。

 でも、君は名前までも一緒だったから。そうでなくても、口調や仕草、会話の中身……そんなことから、全部滲み出てしまうものじゃないか。
 
 一目見て、わかってしまったことを、おれは兄として少しは誇っていいのだろうか。
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