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73.認識の相違②
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おれは、てっきりテオドールもオルトロスの召喚を阻止しに来たのだとばかり、考えていたから。
「もしかして、シリル兄さん背中の傷が痛むの?」
「え?……ああいや、傷は別にどうもないよ」
おれの背中には、10年前にオルトロスが出現しかけたときにテオドールを庇ってできた傷がある。
『ラブプラ』では、おれがつけた傷がテオドールの背中にはあったらしいけど……まるで、その代わりのように。
万能薬『エリクサー』をもっても、あの傷だけは消えなかった。
「良かった……。ごめんね。もしかしたら、シリル兄さんに影響があるかもしれないと、考えはしたんだけど」
「だから、どうも無いって」
テオドールの体には傷はないけれど、心に残した傷は、現実も大して変わらなかったように思う。
「確かめずには、いられなくて」
テオドールはおれの服の上から、背中の傷を確かめるようになでる。
「もう、この世界には、シリル兄さんを脅かすものは、何も無いんだって。全部、僕がどうにでもできるんだって」
「テオ……」
テオは、おれのこの背中の傷を、自分のせいだと思ってるんだよな。
そんなこと、ないのに。
だから、おれはこの傷をテオドールに見せないよう、いつも細心の注意をはらってきた。
「まあ、後は……牽制だよね」
「牽制?」
「他の人たちはもちろん、女神シュリアーズだろうと、弟神メーティストだろうと、神災も何も、シリル兄さんの意志を揺るがすことは、無いんだと知って欲しかった」
すごいことを言う。
こんなの……神すらも畏れないのだと、堂々と、宣言しているようなものだ。
でも、現にテオドールはこうして神の眷属であるオルトロスを召喚し、さらに御している。
テオドールの言っていることが、父の妄言と同じようでいて、全く違うのだと、目の前の光景がどんな言葉よりも証明していた。
オルトロスは、当然、人の手には余る。けど、今は、おれの大好きなテオの精霊力の塊だ。頭は二つで、目付きは悪いけれど、毛並みはふさふさで大きな犬と思えなくもない。
………アリかもしれない。
「シリル兄さん」
と、ここでテオドールから呼びかけられた。
「ん?」
「オルトロスを、どうにかする気?」
「え。このまま、飼っちゃ、ダメかな?」
「飼ってどうするのさ」
「もふもふ?」
もちろん愛でる。
「絶対に、ダメ」
ぎっと眼光鋭くオルトロスを睨む。オルトロスがさらに一段小さくなった。
「ええー」
「飼うっていうけど。これが、何食べるか知ってるの?」
「え?知らないけど……たぶん精霊力とかだろ?おれが責任をもって世話するから」
「それ、シリル兄さんの精霊力をあげるって意味だよね?
そんなの、もっとダメだよ。
それでも飼うと言うのなら、今この場でオルトロスを消滅させる」
「ダメだよ。動物虐待だぞ」
「はぁ……これは、動物じゃないから。
魔物を捕まえるたびに、飼おうとするのはやめて欲しい、て前から言ってるよね」
それは、ちゃんと覚えている。テオは動物が嫌い?苦手?ってことだよな。
「魔物っていっても、ネコみたいなのとか、ニワトリみたいなのだろ」
おれだって、見境なく飼いたがってるわけじゃない。
「キャスパリーグはネコじゃないし、バジリスクもニワトリじゃないよ」
「あ、バジリスクはヘビかな?」
「いや、違う。絶対に違うよ。そして、そういう問題じゃない。
そもそも、オルトロスは神の眷属だから。飼えないと思う。というか、飼うという発想がそもそもおかしいよ」
そういうオルトロスは、地面をがりがりと掘っている。ほら、やっぱりどう見ても犬じゃないか。
「これ、帰りたいんじゃない?」
ミアが、言う。
そうか……そうだよな。いきなり呼び出されて、元居たところに帰りたいよな。
「じゃあ、仕方ないか」
おれは、精霊術を行使して、召喚門を開く。
と、同時にオルトロスの身体がふわりと滲んで、そして消えた。
周囲に散らばるテオドールの精霊力を堪能していると、
「おい……今、何したんだ……?」
ダニエルが、不思議そうに尋ねてくる。
「え?召喚門を逆転させて、帰還門に書き換えたんだよ。召喚する術式が分かっていれば、基本的に帰すことができるから」
そうでなければ、みすみす召喚を成功させたりしない。それが、テオドールであっても。
「前にオルトロスの召喚を見たときに、いつか必要になるかもしれないと思って研究したんだよ」
「いや、それお前……嘘だろ?ははっ…そりゃねーわ」
乾いた笑いと共に、ダニエルは酷く落胆した様子で、項垂れた。
「もしかして、シリル兄さん背中の傷が痛むの?」
「え?……ああいや、傷は別にどうもないよ」
おれの背中には、10年前にオルトロスが出現しかけたときにテオドールを庇ってできた傷がある。
『ラブプラ』では、おれがつけた傷がテオドールの背中にはあったらしいけど……まるで、その代わりのように。
万能薬『エリクサー』をもっても、あの傷だけは消えなかった。
「良かった……。ごめんね。もしかしたら、シリル兄さんに影響があるかもしれないと、考えはしたんだけど」
「だから、どうも無いって」
テオドールの体には傷はないけれど、心に残した傷は、現実も大して変わらなかったように思う。
「確かめずには、いられなくて」
テオドールはおれの服の上から、背中の傷を確かめるようになでる。
「もう、この世界には、シリル兄さんを脅かすものは、何も無いんだって。全部、僕がどうにでもできるんだって」
「テオ……」
テオは、おれのこの背中の傷を、自分のせいだと思ってるんだよな。
そんなこと、ないのに。
だから、おれはこの傷をテオドールに見せないよう、いつも細心の注意をはらってきた。
「まあ、後は……牽制だよね」
「牽制?」
「他の人たちはもちろん、女神シュリアーズだろうと、弟神メーティストだろうと、神災も何も、シリル兄さんの意志を揺るがすことは、無いんだと知って欲しかった」
すごいことを言う。
こんなの……神すらも畏れないのだと、堂々と、宣言しているようなものだ。
でも、現にテオドールはこうして神の眷属であるオルトロスを召喚し、さらに御している。
テオドールの言っていることが、父の妄言と同じようでいて、全く違うのだと、目の前の光景がどんな言葉よりも証明していた。
オルトロスは、当然、人の手には余る。けど、今は、おれの大好きなテオの精霊力の塊だ。頭は二つで、目付きは悪いけれど、毛並みはふさふさで大きな犬と思えなくもない。
………アリかもしれない。
「シリル兄さん」
と、ここでテオドールから呼びかけられた。
「ん?」
「オルトロスを、どうにかする気?」
「え。このまま、飼っちゃ、ダメかな?」
「飼ってどうするのさ」
「もふもふ?」
もちろん愛でる。
「絶対に、ダメ」
ぎっと眼光鋭くオルトロスを睨む。オルトロスがさらに一段小さくなった。
「ええー」
「飼うっていうけど。これが、何食べるか知ってるの?」
「え?知らないけど……たぶん精霊力とかだろ?おれが責任をもって世話するから」
「それ、シリル兄さんの精霊力をあげるって意味だよね?
そんなの、もっとダメだよ。
それでも飼うと言うのなら、今この場でオルトロスを消滅させる」
「ダメだよ。動物虐待だぞ」
「はぁ……これは、動物じゃないから。
魔物を捕まえるたびに、飼おうとするのはやめて欲しい、て前から言ってるよね」
それは、ちゃんと覚えている。テオは動物が嫌い?苦手?ってことだよな。
「魔物っていっても、ネコみたいなのとか、ニワトリみたいなのだろ」
おれだって、見境なく飼いたがってるわけじゃない。
「キャスパリーグはネコじゃないし、バジリスクもニワトリじゃないよ」
「あ、バジリスクはヘビかな?」
「いや、違う。絶対に違うよ。そして、そういう問題じゃない。
そもそも、オルトロスは神の眷属だから。飼えないと思う。というか、飼うという発想がそもそもおかしいよ」
そういうオルトロスは、地面をがりがりと掘っている。ほら、やっぱりどう見ても犬じゃないか。
「これ、帰りたいんじゃない?」
ミアが、言う。
そうか……そうだよな。いきなり呼び出されて、元居たところに帰りたいよな。
「じゃあ、仕方ないか」
おれは、精霊術を行使して、召喚門を開く。
と、同時にオルトロスの身体がふわりと滲んで、そして消えた。
周囲に散らばるテオドールの精霊力を堪能していると、
「おい……今、何したんだ……?」
ダニエルが、不思議そうに尋ねてくる。
「え?召喚門を逆転させて、帰還門に書き換えたんだよ。召喚する術式が分かっていれば、基本的に帰すことができるから」
そうでなければ、みすみす召喚を成功させたりしない。それが、テオドールであっても。
「前にオルトロスの召喚を見たときに、いつか必要になるかもしれないと思って研究したんだよ」
「いや、それお前……嘘だろ?ははっ…そりゃねーわ」
乾いた笑いと共に、ダニエルは酷く落胆した様子で、項垂れた。
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