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69.本当の気持ち②
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「だから言ったじゃない。
テオドールはシリルのことを、兄だなんて思っていないって。だけど大好きだって」
ミアの言葉に、がっちりとおれの腰に回されたテオドールの腕にさらに力が籠る。ぴったりと隙間なく密着したテオを見上げると、その瞬間に甘い微笑を浮かべられた。
「それ、何の話?僕がシリル兄さんを、兄と思っていないことなんて、一瞬たりとも無いよ」
「え?」
「だって、シリル兄さんは、僕の唯一の兄で、唯一の家族で、唯一の愛する人でしょう?」
愛する人……どんな、パワーワードだ。
「一つだって、誰にも譲る気は無いから」
「テオ……」
「シリル兄さんは、そんなことを気にしていたんだね。兄弟だと何か問題があるの?」
「「え?」」
おれとミアの声がハモる。
「別に、兄弟同士だって、よくあることでしょう?」
「え……そうなの?」
おれがミアを見れば、ミアも分からないとばかりに首を横にぶんぶんと振った。
「むしろ、王族や4大領主はその血族を残すために、積極的に血族婚してるじゃない。先の国王陛下だって姉弟だったはずだけど」
なるほど。
これが、この世界の常識らしい。前世の感覚からすると、ちょっとびっくりだ。
でも、そうか。
「おれも、これからは全部で、テオを大切にするよ」
兄だからって、別に他の関係や感情を持っちゃいけないなんてこと、無いのか。
「はぁ……本当に、なんなの。
私、何を聞かされて、見せられているの?馬鹿馬鹿しい」
やってらんないわ、と嘆息し、神殿を観察し出すミアをダニエルが呼び止めた。
「“恵みの乙女”様は良いのかよ」
「良いわけないでしょう……こっちはこっちで、大変なのに。さっさと済ませて帰りたいわよ…」
「“恵みの乙女”とシリルはいつも二人でいるし、前から噂があったじゃねぇか。
お忍びで個室に食事に来ているぐらいだから、好き合ってんのかと思ってたわ」
「はぁ?!」
ミアの素っ頓狂な奇声に続き、
「好き合ってる、ね……」
テオドールの冷然たる声がずっしりと沈む。
別におれはミアと忍んでないし。忍ぶ理由も無いし、むしろ、堂々と目立つようにしてる。そうじゃないと、救済院の活動も目立たないから。
「おれがミアのこと大好きなのは、事実だけど」
それよりも、前からあるミアとおれの噂って……?どんな噂なんだろう。おれは聞いたことが無いんだけど。
「へぇ……シリル兄さんは、やっぱり、ミアのこと大好きなんだね」
「うん。そうだよ」
もちろん、テオドールへのそれとは違う気持ちだけど、想いの強さでいえば同じくらい大切な存在だ。
「シリル、あんたね!何言ってんのよっ?!?」
「それに、あれだろう。王太子殿下とギルバートの一件の後、“恵みの乙女”とテオドールには王家から婚姻の打診があったんじゃねぇのか?」
「え?そうなの?」
婚姻の打診なんて、こちらも初耳なんだけども。
ミアが、どうやって婚姻の申し込みを断ってるのか、て聞いていたのは、このことだったのかな。
へえ、ミアとテオドールが婚姻。つまり、
「“恵みの乙女”と“裁きの御子”のカップルなんて、最強じゃねぇか」
きっと、『ラブプラ』のテオドールルートでは二神に愛された者同士が、結ばれて、王国がさらに発展するのだろう。
けど。……うーん、悪いけど、二人がどうにかなるとか、これっぽっちも想像がつかない。
まあ、だとしても水臭いというか、なんというか……一言くらい、相談というか、教えてくれても良かったのに。
そういう思いでテオドールとミアを見れば。
テオドールは、これ以上ないほど無表情なのに、残虐で陰惨な空気を放出している。
そして、ミアの方も、わなわなと小刻みに震えていた。
と、二人に呼応するように稲妻が轟いて、地響きが唸る。
比較的近くに、雷が二つ落ちたらしい。火事にならないと良いけど。
「いや、ないっ!シリルとだけは、絶対にあり得ないっ!!」
「無いな。シリル兄さん以外となんて、絶対にあり得ない」
ほぼ同時に、ミアとテオドールが言う。
さらに、
「っていうか、ダニエル、あんたねぇ!噂の真偽を知ってて、わざと言ってるでしょ?!」
「そもそも。“恵みの乙女”との婚姻に関しては、4大領主すべてに打診があったはずだよ。ダニエルにだって同じだろう」
なるほど。
王家との婚姻の可能性がなくなった“恵みの乙女”の囲い込みと、安全保障や、生活環境の維持のために、4大領にお見合いの提案をしたわけか。
「その話のせいで、私は今、拗れに拗れて……とにかく、大変なことになってるんだから!」
ミアは頭を抱えて、怒り心頭のご様子だ。やっぱりミアは頭痛持ちなんだと思う。
「君だって、シリル兄さんと二人きりでこんなところに来て……軽率だと思うよ」
「あ、それはおれがミアにお願いしたから……」
ミアにゲートを開けてもらうためと、ご機嫌斜めなミアを王領から連れ出すためだ。
「そういうシリル兄さんの行動が、あらぬ噂を招いてる自覚無いよね?」
「だから噂って、どんな噂なんだよ」
そもそもおれは、その噂を知らない。
テオドールの鬼気迫る尋問におれはたじろぐ。美人の無表情は、どうしてこんなに怖いんだろうか。
でも……そんなテオも格好いい。どうしたんだろう。おれ、急に視力が物凄く良くなったのかな。きっと、片目5.0、両目で10.0くらいになってると思う。
だって、テオが鮮明にきらきらと輝いて見える。整った美麗な顔だとは思っていたけど、今はそう言うレベルじゃない。
表情とか、動きとか全部を含めて、テオの存在自体が、煌めいて見える。
「シリル兄さんは、僕より“恵みの乙女”のことを信頼しているってこと?ああ、そう言えばいつも二人だけで分かり合っているものね」
「それは……」
前世の“ニホン”の話で盛り上がったりしているからで……。
これもまた、どう説明したものか、とミアの方を見れば、
「よそ見しないで。僕の方をだけを見て、答えて」
「あ、はい」
テオドールの強制力に、おれは思わず居ずまいを正し、視線をテオドールに戻す。
うん。テオのことならば、いつでもいつまでも見ていられる。どうやら非常に怒っているようだけど、そんな顔も——
「ああ、もう。面倒くさい!
私だって、シリルに言われてゲートを開けただけで、メーティスト神殿がここにあることだって、闇の教団がいることだって、ましてやオルトロスを召喚しようとしてるなんて、全然これっぽっちも、知らなかったんだからっ!
むしろ、私は純然たる被害者よっ!今の状況で、無断で外泊して破滅したら、この世界ごと呪って滅ぼしてやる!!
何でもいいから、もうこれ以上私を巻き込まないでっ!!」
と、神殿にミアの魂の悲嘆がこだました。
「えーっと……なんかごめんね、ミア」
ミアの事情は知らないけれど、きっと知ったところで、おれには何もできない。
おれがミアにできることは、謝罪しかない。
「………高くつくわよ」
「え、うん」
「現金一括払い」
「………了解」
テオドールはシリルのことを、兄だなんて思っていないって。だけど大好きだって」
ミアの言葉に、がっちりとおれの腰に回されたテオドールの腕にさらに力が籠る。ぴったりと隙間なく密着したテオを見上げると、その瞬間に甘い微笑を浮かべられた。
「それ、何の話?僕がシリル兄さんを、兄と思っていないことなんて、一瞬たりとも無いよ」
「え?」
「だって、シリル兄さんは、僕の唯一の兄で、唯一の家族で、唯一の愛する人でしょう?」
愛する人……どんな、パワーワードだ。
「一つだって、誰にも譲る気は無いから」
「テオ……」
「シリル兄さんは、そんなことを気にしていたんだね。兄弟だと何か問題があるの?」
「「え?」」
おれとミアの声がハモる。
「別に、兄弟同士だって、よくあることでしょう?」
「え……そうなの?」
おれがミアを見れば、ミアも分からないとばかりに首を横にぶんぶんと振った。
「むしろ、王族や4大領主はその血族を残すために、積極的に血族婚してるじゃない。先の国王陛下だって姉弟だったはずだけど」
なるほど。
これが、この世界の常識らしい。前世の感覚からすると、ちょっとびっくりだ。
でも、そうか。
「おれも、これからは全部で、テオを大切にするよ」
兄だからって、別に他の関係や感情を持っちゃいけないなんてこと、無いのか。
「はぁ……本当に、なんなの。
私、何を聞かされて、見せられているの?馬鹿馬鹿しい」
やってらんないわ、と嘆息し、神殿を観察し出すミアをダニエルが呼び止めた。
「“恵みの乙女”様は良いのかよ」
「良いわけないでしょう……こっちはこっちで、大変なのに。さっさと済ませて帰りたいわよ…」
「“恵みの乙女”とシリルはいつも二人でいるし、前から噂があったじゃねぇか。
お忍びで個室に食事に来ているぐらいだから、好き合ってんのかと思ってたわ」
「はぁ?!」
ミアの素っ頓狂な奇声に続き、
「好き合ってる、ね……」
テオドールの冷然たる声がずっしりと沈む。
別におれはミアと忍んでないし。忍ぶ理由も無いし、むしろ、堂々と目立つようにしてる。そうじゃないと、救済院の活動も目立たないから。
「おれがミアのこと大好きなのは、事実だけど」
それよりも、前からあるミアとおれの噂って……?どんな噂なんだろう。おれは聞いたことが無いんだけど。
「へぇ……シリル兄さんは、やっぱり、ミアのこと大好きなんだね」
「うん。そうだよ」
もちろん、テオドールへのそれとは違う気持ちだけど、想いの強さでいえば同じくらい大切な存在だ。
「シリル、あんたね!何言ってんのよっ?!?」
「それに、あれだろう。王太子殿下とギルバートの一件の後、“恵みの乙女”とテオドールには王家から婚姻の打診があったんじゃねぇのか?」
「え?そうなの?」
婚姻の打診なんて、こちらも初耳なんだけども。
ミアが、どうやって婚姻の申し込みを断ってるのか、て聞いていたのは、このことだったのかな。
へえ、ミアとテオドールが婚姻。つまり、
「“恵みの乙女”と“裁きの御子”のカップルなんて、最強じゃねぇか」
きっと、『ラブプラ』のテオドールルートでは二神に愛された者同士が、結ばれて、王国がさらに発展するのだろう。
けど。……うーん、悪いけど、二人がどうにかなるとか、これっぽっちも想像がつかない。
まあ、だとしても水臭いというか、なんというか……一言くらい、相談というか、教えてくれても良かったのに。
そういう思いでテオドールとミアを見れば。
テオドールは、これ以上ないほど無表情なのに、残虐で陰惨な空気を放出している。
そして、ミアの方も、わなわなと小刻みに震えていた。
と、二人に呼応するように稲妻が轟いて、地響きが唸る。
比較的近くに、雷が二つ落ちたらしい。火事にならないと良いけど。
「いや、ないっ!シリルとだけは、絶対にあり得ないっ!!」
「無いな。シリル兄さん以外となんて、絶対にあり得ない」
ほぼ同時に、ミアとテオドールが言う。
さらに、
「っていうか、ダニエル、あんたねぇ!噂の真偽を知ってて、わざと言ってるでしょ?!」
「そもそも。“恵みの乙女”との婚姻に関しては、4大領主すべてに打診があったはずだよ。ダニエルにだって同じだろう」
なるほど。
王家との婚姻の可能性がなくなった“恵みの乙女”の囲い込みと、安全保障や、生活環境の維持のために、4大領にお見合いの提案をしたわけか。
「その話のせいで、私は今、拗れに拗れて……とにかく、大変なことになってるんだから!」
ミアは頭を抱えて、怒り心頭のご様子だ。やっぱりミアは頭痛持ちなんだと思う。
「君だって、シリル兄さんと二人きりでこんなところに来て……軽率だと思うよ」
「あ、それはおれがミアにお願いしたから……」
ミアにゲートを開けてもらうためと、ご機嫌斜めなミアを王領から連れ出すためだ。
「そういうシリル兄さんの行動が、あらぬ噂を招いてる自覚無いよね?」
「だから噂って、どんな噂なんだよ」
そもそもおれは、その噂を知らない。
テオドールの鬼気迫る尋問におれはたじろぐ。美人の無表情は、どうしてこんなに怖いんだろうか。
でも……そんなテオも格好いい。どうしたんだろう。おれ、急に視力が物凄く良くなったのかな。きっと、片目5.0、両目で10.0くらいになってると思う。
だって、テオが鮮明にきらきらと輝いて見える。整った美麗な顔だとは思っていたけど、今はそう言うレベルじゃない。
表情とか、動きとか全部を含めて、テオの存在自体が、煌めいて見える。
「シリル兄さんは、僕より“恵みの乙女”のことを信頼しているってこと?ああ、そう言えばいつも二人だけで分かり合っているものね」
「それは……」
前世の“ニホン”の話で盛り上がったりしているからで……。
これもまた、どう説明したものか、とミアの方を見れば、
「よそ見しないで。僕の方をだけを見て、答えて」
「あ、はい」
テオドールの強制力に、おれは思わず居ずまいを正し、視線をテオドールに戻す。
うん。テオのことならば、いつでもいつまでも見ていられる。どうやら非常に怒っているようだけど、そんな顔も——
「ああ、もう。面倒くさい!
私だって、シリルに言われてゲートを開けただけで、メーティスト神殿がここにあることだって、闇の教団がいることだって、ましてやオルトロスを召喚しようとしてるなんて、全然これっぽっちも、知らなかったんだからっ!
むしろ、私は純然たる被害者よっ!今の状況で、無断で外泊して破滅したら、この世界ごと呪って滅ぼしてやる!!
何でもいいから、もうこれ以上私を巻き込まないでっ!!」
と、神殿にミアの魂の悲嘆がこだました。
「えーっと……なんかごめんね、ミア」
ミアの事情は知らないけれど、きっと知ったところで、おれには何もできない。
おれがミアにできることは、謝罪しかない。
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