【完結】真実の愛の物語~転生先の女神の願いはおれと弟の子作りでした?~

べあふら

文字の大きさ
上 下
71 / 90

69.本当の気持ち②

しおりを挟む
「だから言ったじゃない。
 テオドールはシリルのことを、兄だなんて思っていないって。だけど大好きだって」

 ミアの言葉に、がっちりとおれの腰に回されたテオドールの腕にさらに力が籠る。ぴったりと隙間なく密着したテオを見上げると、その瞬間に甘い微笑を浮かべられた。

「それ、何の話?僕がシリル兄さんを、兄と思っていないことなんて、一瞬たりとも無いよ」
「え?」
「だって、シリル兄さんは、僕の唯一の兄で、唯一の家族で、唯一の愛する人でしょう?」 

 愛する人……どんな、パワーワードだ。

「一つだって、誰にも譲る気は無いから」
「テオ……」
「シリル兄さんは、そんなことを気にしていたんだね。兄弟だと何か問題があるの?」
「「え?」」

 おれとミアの声がハモる。

「別に、兄弟同士だって、よくあることでしょう?」
「え……そうなの?」

 おれがミアを見れば、ミアも分からないとばかりに首を横にぶんぶんと振った。

「むしろ、王族や4大領主はその血族を残すために、積極的に血族婚してるじゃない。先の国王陛下だって姉弟だったはずだけど」

 なるほど。
 これが、この世界の常識らしい。前世の感覚からすると、ちょっとびっくりだ。
 でも、そうか。

「おれも、これからは全部で、テオを大切にするよ」

 兄だからって、別に他の関係や感情を持っちゃいけないなんてこと、無いのか。

「はぁ……本当に、なんなの。
 私、何を聞かされて、見せられているの?馬鹿馬鹿しい」

 やってらんないわ、と嘆息し、神殿を観察し出すミアをダニエルが呼び止めた。

「“恵みの乙女”様は良いのかよ」
「良いわけないでしょう……こっちはこっちで、大変なのに。さっさと済ませて帰りたいわよ…」
「“恵みの乙女”とシリルはいつも二人でいるし、前から噂があったじゃねぇか。
 お忍びで個室に食事に来ているぐらいだから、好き合ってんのかと思ってたわ」
「はぁ?!」

 ミアの素っ頓狂な奇声に続き、

「好き合ってる、ね……」

 テオドールの冷然たる声がずっしりと沈む。

 別におれはミアと忍んでないし。忍ぶ理由も無いし、むしろ、堂々と目立つようにしてる。そうじゃないと、救済院の活動も目立たないから。

「おれがミアのこと大好きなのは、事実だけど」

 それよりも、前からあるミアとおれの噂って……?どんな噂なんだろう。おれは聞いたことが無いんだけど。

「へぇ……シリル兄さんは、やっぱり、ミアのこと大好きなんだね」
「うん。そうだよ」

 もちろん、テオドールへのそれとは違う気持ちだけど、想いの強さでいえば同じくらい大切な存在だ。

「シリル、あんたね!何言ってんのよっ?!?」
「それに、あれだろう。王太子殿下とギルバートの一件の後、“恵みの乙女”とテオドールには王家から婚姻の打診があったんじゃねぇのか?」
「え?そうなの?」

 婚姻の打診なんて、こちらも初耳なんだけども。
 ミアが、どうやって婚姻の申し込みを断ってるのか、て聞いていたのは、このことだったのかな。

 へえ、ミアとテオドールが婚姻。つまり、

「“恵みの乙女”と“裁きの御子”のカップルなんて、最強じゃねぇか」

 きっと、『ラブプラ』のテオドールルートでは二神に愛された者同士が、結ばれて、王国がさらに発展するのだろう。

 けど。……うーん、悪いけど、二人がどうにかなるとか、これっぽっちも想像がつかない。
 まあ、だとしても水臭いというか、なんというか……一言くらい、相談というか、教えてくれても良かったのに。

 そういう思いでテオドールとミアを見れば。
 テオドールは、これ以上ないほど無表情なのに、残虐で陰惨な空気を放出している。
 そして、ミアの方も、わなわなと小刻みに震えていた。

 と、二人に呼応するように稲妻が轟いて、地響きが唸る。

 比較的近くに、雷が二つ落ちたらしい。火事にならないと良いけど。

「いや、ないっ!シリルとだけは、絶対にあり得ないっ!!」
「無いな。シリル兄さん以外となんて、絶対にあり得ない」

 ほぼ同時に、ミアとテオドールが言う。
さらに、

「っていうか、ダニエル、あんたねぇ!噂の真偽を知ってて、わざと言ってるでしょ?!」
「そもそも。“恵みの乙女”との婚姻に関しては、4大領主すべてに打診があったはずだよ。ダニエルにだって同じだろう」

 なるほど。
 王家との婚姻の可能性がなくなった“恵みの乙女”の囲い込みと、安全保障や、生活環境の維持のために、4大領にお見合いの提案をしたわけか。

「その話のせいで、私は今、拗れに拗れて……とにかく、大変なことになってるんだから!」

 ミアは頭を抱えて、怒り心頭のご様子だ。やっぱりミアは頭痛持ちなんだと思う。

「君だって、シリル兄さんと二人きりでこんなところに来て……軽率だと思うよ」
「あ、それはおれがミアにお願いしたから……」

 ミアにゲートを開けてもらうためと、ご機嫌斜めなミアを王領から連れ出すためだ。

「そういうシリル兄さんの行動が、あらぬ噂を招いてる自覚無いよね?」
「だから噂って、どんな噂なんだよ」

 そもそもおれは、その噂を知らない。

 テオドールの鬼気迫る尋問におれはたじろぐ。美人の無表情は、どうしてこんなに怖いんだろうか。

 でも……そんなテオも格好いい。どうしたんだろう。おれ、急に視力が物凄く良くなったのかな。きっと、片目5.0、両目で10.0くらいになってると思う。

 だって、テオが鮮明にきらきらと輝いて見える。整った美麗な顔だとは思っていたけど、今はそう言うレベルじゃない。
 表情とか、動きとか全部を含めて、テオの存在自体が、煌めいて見える。

「シリル兄さんは、僕より“恵みの乙女”のことを信頼しているってこと?ああ、そう言えばいつも二人だけで分かり合っているものね」
「それは……」

 前世の“ニホン”の話で盛り上がったりしているからで……。

 これもまた、どう説明したものか、とミアの方を見れば、

「よそ見しないで。僕の方をだけを見て、答えて」
「あ、はい」

 テオドールの強制力に、おれは思わず居ずまいを正し、視線をテオドールに戻す。

 うん。テオのことならば、いつでもいつまでも見ていられる。どうやら非常に怒っているようだけど、そんな顔も——

「ああ、もう。面倒くさい!
 私だって、シリルに言われてゲートを開けただけで、メーティスト神殿がここにあることだって、闇の教団がいることだって、ましてやオルトロスを召喚しようとしてるなんて、全然これっぽっちも、知らなかったんだからっ!
 むしろ、私は純然たる被害者よっ!今の状況で、無断で外泊して破滅したら、この世界ごと呪って滅ぼしてやる!!
 何でもいいから、もうこれ以上私を巻き込まないでっ!!」

 と、神殿にミアの魂の悲嘆がこだました。

「えーっと……なんかごめんね、ミア」

 ミアの事情は知らないけれど、きっと知ったところで、おれには何もできない。
 おれがミアにできることは、謝罪しかない。

「………高くつくわよ」
「え、うん」
「現金一括払い」
「………了解」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しい少年ジゼの、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です(笑) 本編完結しました! 舞踏会編はじめましたー! 舞踏会編からお読みいただけるよう、本編のあらすじをご用意しました! おまけのお話の下、舞踏会編のうえに、登場人物一覧と一緒にあります。 ジゼの父ゲォルグ×家令長セバのお話を連載中です。もしよかったらどうぞです! 第12回BL大賞10位で奨励賞をいただきました。選んでくださった編集部の方、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです。 心から、ありがとうございます!

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

処理中です...