【完結】真実の愛の物語~転生先の女神の願いはおれと弟の子作りでした?~

べあふら

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63.現実は、想像もゲームも超えていく⑤

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『ラブプラ』において、闇の教団に“恵みの乙女”が誘拐された後は、初めて主人公以外のキャラクターを操作することになる。

 最も好感度の高い攻略対象者を操作して、主人公の救出に向かうのだ。

 その際、攻略対象者のこれまでの過去と、主人公に対する熱い想いが、本人視点でこれでもかと語られる。

 その情熱的な告白からの、闇の教団との対峙は、言わずもがな、ゲームのクライマックスとして盛り上がる演出が為されている。

 緊張感の漂う神殿と、洗脳状態に陥っている正気を失った教団員たち。祭壇の上で今まさにオルトロスを召喚しようとしている教祖。

 そして、囚われの“恵みの乙女”。

 そんな、息を飲む白熱の瞬間であるはずの、今。



 弟が、知らない男の顔面を容赦なく、足で踏みつけにするという光景を、目の当たりにしている。

 なんで、テオがここにいるの?
 そして、ダニエルと一緒なんて、どういう組み合わせ?

 おれの知っている限り、テオドールは4大領主の中でも……攻略対象者の中でも、ダニエルのことを最も毛嫌いしている。

 初めて見る組み合わせに、なんでどうして、と心がざわつく。テオドールの全てを知っているなんて、そんなことは思ってないけど。

「あの二人、いつの間に、あんなに仲良くなったんだ?」

 二人旅をするほど、仲が良いなんて。

「あれが、シリルには仲良く見えるのね」

 ミアが冷ややかに言う。

 そして。あのテオの足の下で踏みつけられている人は、一体どこのどなただろうか。身に纏う法衣はより上質で、位の高い者のようだ……教祖か何かだろうか。

 とりあえず、弟に代わって、深く謝罪申し上げます。

「ちょっと。ダニエル。
 なんで、あんたたちがここにいるの?これ、どういう状況なのよ!」

 と、おれに代わってミアがダニエルへと詰め寄った。

「はぁ?!どういう状況かなんて、そんなことおれが聞きてぇよ!!
 つーか、お前らこそ、なんでここにいるんだ?!昨日は、王領にいただろうが!」

 確かに、おれとミアが昨日どころか、今朝まで王領にいた。だけど、何故、ダニエルがおれたちの行動を把握しているのか。

 もしかして……。

「え?……ストーカー…?」

 おれは、思わずつぶやいた。

 ミアの行動を、つぶさに把握しているなんて。王都で予約が難しい人気店で、お願い一つで最もいい個室を提供したのも、つまりそういうこと?

 つきまとい、監視行為、ダメ絶対。

「ダニエル、あなた……そこまで、拗らせてるの?
 風の精霊力マナに物を言わせて、そんなことしてるなんて……。ちょっと、今後の付き合いを考えさせてもらうわ」

 だよね。おれも、同感だ。正直、気持ち悪い。

「んなっ!!そうじゃねぇ!!王領からここまでは、5日はかかるだろうがっ!」

 ダニエルの言う通りだ。
 どんなに早い交通手段を使っても、王領からこのフォレスター領の最南に辿り着くには、5日はかかる。

「それは“恵みの乙女”パワーというか」

 ミアの返答に、「意味がわからんっ!……要は、こいつらは何でもありってことかよ」と悔しそうに、吐き捨てている。

 こいつら、ておれも含まれてる?

 正確には、“恵みの乙女”パワーと、前世の知識によるものだ。
 実は、現在もこの世界では明らかにされていないが、イグレシアス王国にはゲート、という女神シュリアーズの奇跡の遺跡が点在している。

 これは、『ラブプラ』で4つの領でのイベントを一つずつクリアすると、新たに出現する移動手段の一つだ。

 多くのゲームで、ストーリーが進みプレーヤーの行動範囲が広がると、ワープゲートや飛空艇などの、時短可能な移動手段が用意されていることが多いと思うのだけど。
『ラブプラ』では、それがゲートにあたり、“恵みの乙女”の精霊力マナでのみ瞬間移動できる門が、各領地に存在するのだ。

 今回、おれとミアはそのゲートを使い、ここへとやってきたわけだけど……。

「それと、おれたちの行動を知っていたこととは、関係ないんじゃない?」
「ええいっ、そんなことは、今どうでもいい!テオドールを、今すぐ止めろ!!」

 全然どうでも良くないんだけど。

 これ、あれだよね。
 した側は、その重大性をされた側ほど認識してないっていう、そういう話の代表だよね。

 ちらり、とテオドールを見れば、やはり先ほどと変わらぬ様子で、おれの知らない人をげしげしと踏みつけている。

 たぶん、もうあの男の意識はない。

「でも、テオは意味なく人を踏んだりしないよ」

 いつも、ちゃんと礼節を重んじる、優しい子だよ?

「いや、踏むだろ!テオドールは、踏むだろ!!」

 以前から、おれが思うに………。

「………もしかして、テオの偽物がいる?」

 おれの知っているテオと、皆が言うテオドールに、あまりにも差があり過ぎる。

 可能性はある。テオは有名だし、名を語って悪事を働いている者がいても何ら不思議はないから。

「いや、ていうか、今まさに踏んでるだろ!!」
「うーん……何か、あの人が……そういう趣味の人?とか」

 そのお願いを、優しいテオが叶えてあげてる、とか?見ようによっては、踏まれたそうな顔をしてなくもない。

「はあぁぁぁぁぁ………ダニエル、いいからさっさと説明してっ!!」

 見かねたミアが、腹の底から溜息を吐いて、おれとダニエルの話に割って入った。

「俺も、独自にシリルの精霊力蓄積器の行方を追ってたんだが。
 そこで、伸びてる連中は、宗教団体を隠れ蓑に人身売買をしてるんじゃねぇか、てことで以前から監視してたんだよ。
 で、割とすんなりこの組織が蓄積器を利用し、精霊力マナを集めて、ここに潜伏していることを掴んだ。
 まあ、潜伏先が幻の古代神殿と聞いたときは、信じられなかったが……同時に、目的も自ずと絞られたわけだ」

 つまり、彼らの目的が、大量の精霊力マナを利用して、オルトロスを召喚することだ、と。

「それが、テオドールがここに着くや否や、有無を言わさず連中を殲滅しやがるもんだから、肝心の精霊力蓄積器も見つかんねぇわ、この神殿を知った情報源も分からねぇわ」

 相変わらず、教祖と思しき人物を踏みつけているテオドールに、

「なんだ、あいつは。ちっとも言うこと聞きやしねぇ。扱い辛くて、仕方ねぇよ」

 ダニエルが苦い顔をする。

「何を今更分かり切ったことを………」

 ミアが呆れた表情で、ダニエルに言う。

「そうだよ。テオは、自分で考えて、行動できる子だからね」

 それに、ちゃんと言うことだって、聞いてくれる。

「そういうことじゃないんだけど……まあ、いいわ。
 ダニエルは、なんでテオドールを連れてきたのよ」

 ミアが尋ねれば、ダニエルはニヤリと笑った。まるでその質問を待っていたかのように、

「テオドールほど、適任はいねぇだろうが。
 だって、奴は、理と叡智のメーティストの愛し子、“裁きの御子”だろう?」

 と、言った。
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