上 下
62 / 90

60.現実は、想像もゲームも超えていく②

しおりを挟む
 5歳のとき、生死の境を彷徨った。
 そして、おれが副作用を乗り越えた頃、母が死んだと聞かされた。ほぼ親子の関りも無かった人ではあったけれど、それでも悲しくて、一人で泣いた。

 父は母の死後、精霊力マナ増幅薬をおれに飲ませることが無くなった。
 一応の、投与可能な年齢、さらに極量について、結論を得たのだと思う。

 それ故に、母も同様に実験台にされていたのだと、おれは確信している。

 おれが前世を思い出したあの時。母も同じように薬を飲まされて副作用を起こし、亡くなったのだ。
 使用人たちの噂では、葬儀の際の母の遺体があまりにも血色がよく、まるで生きているかのようだった、と。生き埋めにしたのでは、と囁いていた。

 そして、それが精霊力マナ過剰症で死亡した時の特徴だと、後に知った。

 父の蛮行に不思議と僅かな驚きも無く、むしろひどく納得したものだ。

「精霊力増幅薬は、無理矢理に体内に多量の精霊力マナを定着させることで、強制的に容量を増やすという、ほぼ毒薬なんだ。
 人工的に精霊力マナ過剰症を引き起こすんだから、いつ死んでもおかしくない。
 おれが人より少し……本当に少しだけ小さいのだって、父が飲ませた精霊力増幅薬の副作用による成長障害であって……」

 おれは、少し……本当に少しだけ、一般的な成人男性より小さい。

 これは、明らかに身に余る精霊力マナによる影響だ。成長に回るはずの栄養が身体を守るために精霊力マナの拡張に回されたのではないか、と考察している。

 もう死んでしまった父に、今更、恨みつらみも意味はないと分かっているけれど、こればかりは恨まずにはいられない。

「もうっ!!!なんで、言わなかったのよ!!!」
「え?おれの身長が低い理由に、そんなに興味があったの?」
「違うっ!……なんで、そんな危険な目に合ってたって……言わなかったの」

 言ったら、どうだというんだろう。

「もう過ぎたことだから」

 父に何度も殺されかけてるなんて、きっと、ミアは嫌な気持ちになるだろうから。あえて、これまで言わなかった。

 そして、元凶である父は、発狂し、衰弱して死んでいる。

 俺の言葉に、ミアは納得できない表情ではあったけど、何度か口を開き、そして結局は黙り込んでしまった。

「ほら、ミアも知ってるよね?
『フォレスター領主、人道に悖る行いの数々!!』なんて、センセーショナルな見出しで、父の悪事が世間に晒されたこと。
 あれと、ちょうど同じ時、おれとテオはメーティスト神殿で父に殺されかけたんだよ」

 おれが、精霊力マナ欠乏と暴走の回復のために寝込んでいる間に、世間では大騒動となっていた。

 4大領主の一人が、禁忌精霊薬の開発や、人体実験、さらに密売などを行っていたことが、公になったのだ。

「権威と名声の失墜によって、プライドの高かった前当主は心神喪失状態となって……その地位を剥奪の上、そのままフォレスターの屋敷で監禁生活になったのよね。
 ………つまり、本当は」
「ああ。本当は、オルトロス召喚のときの影響で、告発される以前に、父はすでに廃人になってしまっていた。
 まあ、告発や裁判のことで、追い打ちをかけられたとは思うけどね」

 本当に、プライドの高い……むしろ、それだけの人だったから。

「テオが召喚を防いでくれて、おれに『エリクサー』を飲ませてくれた。
 そして、父とおれを屋敷に連れ帰ってくれたんだ。
 だから、むしろテオはおれの命の恩人なんだよ」

 精霊力マナが枯渇し、かつ暴走をおこしかけていたおれはテオドールでなければ、救えなかっただろう。

 だって、おれは精霊薬を飲むと、精霊力マナの暴走を起こしてしまうから。きっとテオがいなかったら……飲ませてくれたのが、テオドールじゃなかったら、おれの精霊力マナを整えてくれなければ、死んでいたと思う。

 結果、このメーティスト神殿での一件は、おれとテオだけの秘密になった。

「これまで、聞かれないから黙っていたけど……シリル・フォレスターが死ぬのもメーティスト神殿なのよ」

「これまで、聞かれないから黙っていたけど……シリル・フォレスターが死ぬのもメーティスト神殿なのよ」

 ミアは沈痛な面持ちで告げる。

「シリル・フォレスターは、精霊力マナの量でも、他の分野でも優秀なテオドールに嫉妬と憎悪を募らせていくの。
 そんな折、父が執着していた理と叡智の弟神メーティストの神殿を見つける。
 邪魔なテオドールを排除すると共に、父に認めてもらおうと、シリル・フォレスターは神殿にテオドールを連れ込んで。
 抵抗するテオドールの背を切りつけて、血を媒介にオルトロスの召喚を発動させる。
 テオドールはいよいよこの世界への期待が潰えて、冷徹に世界の法則に基づく精霊力マナのコントロールを獲得するの。
 召喚されたオルトロスによって、シリル・フォレスターは死んでしまう。
 テオドールは生き残るものの、背中に大きな傷と、兄殺しという汚名を背負うことになる。
 これが、『ラブプラ』テオドールルートでのシリル・フォレスターの死因」

 まぁ、そんなことかと、思ってた。

 違うことと言えば、オルトロスが父を殺す前に、テオドールが完全に自身の精霊力マナをコントロールしたことで、召喚を防いだ、という点だろうか。
 だから、父は死ななかった。
 さらにおれもテオドールに守られて、『エリクサー』もあり死ぬことは無かった。

 それって、テオドールは完全な被害者だ。
 にもかかわらず、これ以降、彼はこの事件を理由にさらに迫害されていくのだ。現実では無いとしても、やるせない。

『シリル・フォレスター』は救いようのない、屑だけど……。

 もし、おれが前世の記憶を思い出していなかったら、同じことをしなかった自信は無い。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。

【完結】前世は魔王の妻でしたが転生したら人間の王子になったので元旦那と戦います

ほしふり
BL
ーーーーー魔王の妻、常闇の魔女リアーネは死んだ。 それから五百年の時を経てリアーネの魂は転生したものの、生まれた場所は人間の王国であり、第三王子リグレットは忌み子として恐れられていた。 王族とは思えない隠遁生活を送る中、前世の夫である魔王ベルグラに関して不穏な噂を耳にする。 いったいこの五百年の間、元夫に何があったのだろうか…?

非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします

muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。 非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。 両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。 そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。 非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。 ※全年齢向け作品です。

厄介払いで結婚させられた異世界転生王子、辺境伯に溺愛される

楠ノ木雫
BL
旧題:BLの世界で結婚させられ厄介払いされた異世界転生王子、旦那になった辺境伯に溺愛される〜過酷な冬の地で俺は生き抜いてみせる!〜  よくあるトラックにはねられ転生した俺は、男しかいないBLの世界にいた。その世界では二種類の男がいて、俺は子供を産める《アメロ》という人種であった。  俺には兄弟が19人いて、15番目の王子。しかも王族の証である容姿で生まれてきてしまったため王位継承戦争なるものに巻き込まれるところではあったが、離宮に追いやられて平凡で平和な生活を過ごしていた。  だが、いきなり国王陛下に呼ばれ、結婚してこいと厄介払いされる。まぁ別にいいかと余裕ぶっていたが……その相手の領地は極寒の地であった。  俺、ここで生活するのかと覚悟を決めていた時に相手から離婚届を突き付けられる。さっさと帰れ、という事だったのだが厄介払いされてしまったためもう帰る場所などどこにもない。あいにく、寒さや雪には慣れているため何とかここで生活できそうだ。  まぁ、もちろん旦那となった辺境伯様は完全無視されたがそれでも別にいい。そう思っていたのに、あれ? なんか雪だるま作るの手伝ってくれたんだけど……?  R-18部分にはタイトルに*マークを付けています。苦手な方は飛ばしても大丈夫です。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

【完結】召喚された勇者は贄として、魔王に美味しく頂かれました

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
美しき異形の魔王×勇者の名目で召喚された生贄、執着激しいヤンデレの愛の行方は? 最初から贄として召喚するなんて、ひどいんじゃないか? 人生に何の不満もなく生きてきた俺は、突然異世界に召喚された。 よくある話なのか? 正直帰りたい。勇者として呼ばれたのに、碌な装備もないまま魔王を鎮める贄として差し出され、美味しく頂かれてしまった。美しい異形の魔王はなぜか俺に執着し、閉じ込めて溺愛し始める。ひたすら優しい魔王に、徐々に俺も絆されていく。もういっか、帰れなくても……。 ハッピーエンド確定 ※は性的描写あり 【完結】2021/10/31 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、エブリスタ 2021/10/03  エブリスタ、BLカテゴリー 1位

処理中です...