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60.現実は、想像もゲームも超えていく②
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5歳のとき、生死の境を彷徨った。
そして、おれが副作用を乗り越えた頃、母が死んだと聞かされた。ほぼ親子の関りも無かった人ではあったけれど、それでも悲しくて、一人で泣いた。
父は母の死後、精霊力増幅薬をおれに飲ませることが無くなった。
一応の、投与可能な年齢、さらに極量について、結論を得たのだと思う。
それ故に、母も同様に実験台にされていたのだと、おれは確信している。
おれが前世を思い出したあの時。母も同じように薬を飲まされて副作用を起こし、亡くなったのだ。
使用人たちの噂では、葬儀の際の母の遺体があまりにも血色がよく、まるで生きているかのようだった、と。生き埋めにしたのでは、と囁いていた。
そして、それが精霊力過剰症で死亡した時の特徴だと、後に知った。
父の蛮行に不思議と僅かな驚きも無く、むしろひどく納得したものだ。
「精霊力増幅薬は、無理矢理に体内に多量の精霊力を定着させることで、強制的に容量を増やすという、ほぼ毒薬なんだ。
人工的に精霊力過剰症を引き起こすんだから、いつ死んでもおかしくない。
おれが人より少し……本当に少しだけ小さいのだって、父が飲ませた精霊力増幅薬の副作用による成長障害であって……」
おれは、少し……本当に少しだけ、一般的な成人男性より小さい。
これは、明らかに身に余る精霊力による影響だ。成長に回るはずの栄養が身体を守るために精霊力の拡張に回されたのではないか、と考察している。
もう死んでしまった父に、今更、恨みつらみも意味はないと分かっているけれど、こればかりは恨まずにはいられない。
「もうっ!!!なんで、言わなかったのよ!!!」
「え?おれの身長が低い理由に、そんなに興味があったの?」
「違うっ!……なんで、そんな危険な目に合ってたって……言わなかったの」
言ったら、どうだというんだろう。
「もう過ぎたことだから」
父に何度も殺されかけてるなんて、きっと、ミアは嫌な気持ちになるだろうから。あえて、これまで言わなかった。
そして、元凶である父は、発狂し、衰弱して死んでいる。
俺の言葉に、ミアは納得できない表情ではあったけど、何度か口を開き、そして結局は黙り込んでしまった。
「ほら、ミアも知ってるよね?
『フォレスター領主、人道に悖る行いの数々!!』なんて、センセーショナルな見出しで、父の悪事が世間に晒されたこと。
あれと、ちょうど同じ時、おれとテオはメーティスト神殿で父に殺されかけたんだよ」
おれが、精霊力欠乏と暴走の回復のために寝込んでいる間に、世間では大騒動となっていた。
4大領主の一人が、禁忌精霊薬の開発や、人体実験、さらに密売などを行っていたことが、公になったのだ。
「権威と名声の失墜によって、プライドの高かった前当主は心神喪失状態となって……その地位を剥奪の上、そのままフォレスターの屋敷で監禁生活になったのよね。
………つまり、本当は」
「ああ。本当は、オルトロス召喚のときの影響で、告発される以前に、父はすでに廃人になってしまっていた。
まあ、告発や裁判のことで、追い打ちをかけられたとは思うけどね」
本当に、プライドの高い……むしろ、それだけの人だったから。
「テオが召喚を防いでくれて、おれに『エリクサー』を飲ませてくれた。
そして、父とおれを屋敷に連れ帰ってくれたんだ。
だから、むしろテオはおれの命の恩人なんだよ」
精霊力が枯渇し、かつ暴走をおこしかけていたおれはテオドールでなければ、救えなかっただろう。
だって、おれは精霊薬を飲むと、精霊力の暴走を起こしてしまうから。きっとテオがいなかったら……飲ませてくれたのが、テオドールじゃなかったら、おれの精霊力を整えてくれなければ、死んでいたと思う。
結果、このメーティスト神殿での一件は、おれとテオだけの秘密になった。
「これまで、聞かれないから黙っていたけど……シリル・フォレスターが死ぬのもメーティスト神殿なのよ」
「これまで、聞かれないから黙っていたけど……シリル・フォレスターが死ぬのもメーティスト神殿なのよ」
ミアは沈痛な面持ちで告げる。
「シリル・フォレスターは、精霊力の量でも、他の分野でも優秀なテオドールに嫉妬と憎悪を募らせていくの。
そんな折、父が執着していた理と叡智の弟神メーティストの神殿を見つける。
邪魔なテオドールを排除すると共に、父に認めてもらおうと、シリル・フォレスターは神殿にテオドールを連れ込んで。
抵抗するテオドールの背を切りつけて、血を媒介にオルトロスの召喚を発動させる。
テオドールはいよいよこの世界への期待が潰えて、冷徹に世界の法則に基づく精霊力のコントロールを獲得するの。
召喚されたオルトロスによって、シリル・フォレスターは死んでしまう。
テオドールは生き残るものの、背中に大きな傷と、兄殺しという汚名を背負うことになる。
これが、『ラブプラ』テオドールルートでのシリル・フォレスターの死因」
まぁ、そんなことかと、思ってた。
違うことと言えば、オルトロスが父を殺す前に、テオドールが完全に自身の精霊力をコントロールしたことで、召喚を防いだ、という点だろうか。
だから、父は死ななかった。
さらにおれもテオドールに守られて、『エリクサー』もあり死ぬことは無かった。
それって、テオドールは完全な被害者だ。
にもかかわらず、これ以降、彼はこの事件を理由にさらに迫害されていくのだ。現実では無いとしても、やるせない。
『シリル・フォレスター』は救いようのない、屑だけど……。
もし、おれが前世の記憶を思い出していなかったら、同じことをしなかった自信は無い。
そして、おれが副作用を乗り越えた頃、母が死んだと聞かされた。ほぼ親子の関りも無かった人ではあったけれど、それでも悲しくて、一人で泣いた。
父は母の死後、精霊力増幅薬をおれに飲ませることが無くなった。
一応の、投与可能な年齢、さらに極量について、結論を得たのだと思う。
それ故に、母も同様に実験台にされていたのだと、おれは確信している。
おれが前世を思い出したあの時。母も同じように薬を飲まされて副作用を起こし、亡くなったのだ。
使用人たちの噂では、葬儀の際の母の遺体があまりにも血色がよく、まるで生きているかのようだった、と。生き埋めにしたのでは、と囁いていた。
そして、それが精霊力過剰症で死亡した時の特徴だと、後に知った。
父の蛮行に不思議と僅かな驚きも無く、むしろひどく納得したものだ。
「精霊力増幅薬は、無理矢理に体内に多量の精霊力を定着させることで、強制的に容量を増やすという、ほぼ毒薬なんだ。
人工的に精霊力過剰症を引き起こすんだから、いつ死んでもおかしくない。
おれが人より少し……本当に少しだけ小さいのだって、父が飲ませた精霊力増幅薬の副作用による成長障害であって……」
おれは、少し……本当に少しだけ、一般的な成人男性より小さい。
これは、明らかに身に余る精霊力による影響だ。成長に回るはずの栄養が身体を守るために精霊力の拡張に回されたのではないか、と考察している。
もう死んでしまった父に、今更、恨みつらみも意味はないと分かっているけれど、こればかりは恨まずにはいられない。
「もうっ!!!なんで、言わなかったのよ!!!」
「え?おれの身長が低い理由に、そんなに興味があったの?」
「違うっ!……なんで、そんな危険な目に合ってたって……言わなかったの」
言ったら、どうだというんだろう。
「もう過ぎたことだから」
父に何度も殺されかけてるなんて、きっと、ミアは嫌な気持ちになるだろうから。あえて、これまで言わなかった。
そして、元凶である父は、発狂し、衰弱して死んでいる。
俺の言葉に、ミアは納得できない表情ではあったけど、何度か口を開き、そして結局は黙り込んでしまった。
「ほら、ミアも知ってるよね?
『フォレスター領主、人道に悖る行いの数々!!』なんて、センセーショナルな見出しで、父の悪事が世間に晒されたこと。
あれと、ちょうど同じ時、おれとテオはメーティスト神殿で父に殺されかけたんだよ」
おれが、精霊力欠乏と暴走の回復のために寝込んでいる間に、世間では大騒動となっていた。
4大領主の一人が、禁忌精霊薬の開発や、人体実験、さらに密売などを行っていたことが、公になったのだ。
「権威と名声の失墜によって、プライドの高かった前当主は心神喪失状態となって……その地位を剥奪の上、そのままフォレスターの屋敷で監禁生活になったのよね。
………つまり、本当は」
「ああ。本当は、オルトロス召喚のときの影響で、告発される以前に、父はすでに廃人になってしまっていた。
まあ、告発や裁判のことで、追い打ちをかけられたとは思うけどね」
本当に、プライドの高い……むしろ、それだけの人だったから。
「テオが召喚を防いでくれて、おれに『エリクサー』を飲ませてくれた。
そして、父とおれを屋敷に連れ帰ってくれたんだ。
だから、むしろテオはおれの命の恩人なんだよ」
精霊力が枯渇し、かつ暴走をおこしかけていたおれはテオドールでなければ、救えなかっただろう。
だって、おれは精霊薬を飲むと、精霊力の暴走を起こしてしまうから。きっとテオがいなかったら……飲ませてくれたのが、テオドールじゃなかったら、おれの精霊力を整えてくれなければ、死んでいたと思う。
結果、このメーティスト神殿での一件は、おれとテオだけの秘密になった。
「これまで、聞かれないから黙っていたけど……シリル・フォレスターが死ぬのもメーティスト神殿なのよ」
「これまで、聞かれないから黙っていたけど……シリル・フォレスターが死ぬのもメーティスト神殿なのよ」
ミアは沈痛な面持ちで告げる。
「シリル・フォレスターは、精霊力の量でも、他の分野でも優秀なテオドールに嫉妬と憎悪を募らせていくの。
そんな折、父が執着していた理と叡智の弟神メーティストの神殿を見つける。
邪魔なテオドールを排除すると共に、父に認めてもらおうと、シリル・フォレスターは神殿にテオドールを連れ込んで。
抵抗するテオドールの背を切りつけて、血を媒介にオルトロスの召喚を発動させる。
テオドールはいよいよこの世界への期待が潰えて、冷徹に世界の法則に基づく精霊力のコントロールを獲得するの。
召喚されたオルトロスによって、シリル・フォレスターは死んでしまう。
テオドールは生き残るものの、背中に大きな傷と、兄殺しという汚名を背負うことになる。
これが、『ラブプラ』テオドールルートでのシリル・フォレスターの死因」
まぁ、そんなことかと、思ってた。
違うことと言えば、オルトロスが父を殺す前に、テオドールが完全に自身の精霊力をコントロールしたことで、召喚を防いだ、という点だろうか。
だから、父は死ななかった。
さらにおれもテオドールに守られて、『エリクサー』もあり死ぬことは無かった。
それって、テオドールは完全な被害者だ。
にもかかわらず、これ以降、彼はこの事件を理由にさらに迫害されていくのだ。現実では無いとしても、やるせない。
『シリル・フォレスター』は救いようのない、屑だけど……。
もし、おれが前世の記憶を思い出していなかったら、同じことをしなかった自信は無い。
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