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56.流されている自覚はある② ※

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 何というか……おれは、たまらなくなってきている。

 木に縋りつき恥ずかしげもなくテオドールにお尻を突き出して、弄られて気持ち良くなって。
 おれは、兄としてはもう完全に何かを失っている。

 でも、どうしようもない。
 一度、テオドールに触れられる心地良さを知ってしまったおれには、もう我慢できない。テオドールに触れてほしいという欲求に抗うことができない。

 もっと、もっと触ってほしい。

 おれの理性はテオドールのやることなすこと全てに、とっくに白旗を挙げていた。

「んっ……は、ぁ……そこ…っ」
「ここだよね」
「んぁっ!……あっあぁ、んぅっ…」

 テオドールもおれの気持ちの良いところをしっかりと学習済みで、的確に快感を煽ってくる。

 お尻の中を探られて、イイところをぐっと繰り返し撫でられれば、おれの後孔はあっという間にぐちゅぐちゅと淫靡な音を立てだした。

「んっ……おと、やだ……あっ」
「でも、抜き差しされるの好きでしょう」

 好き。テオも、テオの指も、その指が与えてくれる刺激も、全部好き。

「引き抜くと指を離さないように、締め付けてくる」

 一度引き抜かれた指が増え、内側を丁寧に撫で拡げる。圧迫感が増すとさらに熱も増して、腰が溶けてしまいそうだ。

 テオドールの長い指がここまでは届くと、もう覚えてしまった。
 一番奥まで挿し入れられた指が、中を掻き回しながら引き抜かれると、堪らなく気持ちいい。

 太ももにあふれた、自分の露が伝って、足に力が入らずにがくがくと震える。必死に手に力を入れて木にしがみつくけれど、ほとんど意味を成さない。

 テオドールの指がぐっと曲がって蕾の襞を引き延ばされてると、一気に甘い痺れが増した。

「あっ!……はぁ、もう…あぁっ!ひろげ…たら、やぁっ」
「ん。気持ちいいね」
「あっ…あぁ、んっ……はぁっむり、…もう…」

 腰が砕けて崩れそうな体勢を、ぐっと後ろから引き寄せて支えられて、身体の安定感が増す。と同時に、姿勢の保持に使っていた分の神経に悦楽があっという間に侵蝕した。

 ああ、もう。気持ちがいいことしか、わからない。

「前も触ってあげる」

 腰を支えた腕はそのままで、手が器用に下着を下げて花芯に触れる。ぴくぴくと小刻みに震えるそこに、テオドールの指が絡んで上下に撫でた。

「ん、んあ、あっだめっ…だめ、…あ、きもちぃっ」

 後ろからも前からもたらたらと露があふれて、テオドールの綺麗な手を汚していることにすら興奮してしまう。
 ぐちぐちと湿った音が、いつもは静寂に包まれている薬草園に浸みて、まるで外でしているような背徳感と開放感で、快感の波が押し寄せてくる。

「とろとろだ」
「あっ……いく…、もう、いく…あ、あぁ、あっ」
「腰が振れてる……シリル兄さん…可愛い」

 テオドールが抜き差しする指に合わせて、快感を追って腰が揺れる。
 ぐっと奥まで入ってくると奥が気持ち良くて、入り口が指の根元で圧迫されて気持ちがいい。動きに合わせてテオドールが花芯を扱いて、先っぽから鈴口を強く刺激してくれて、そっちもすごく気持ちいい。

 後ろも、前もテオのくれるものが、おれの気持ちいいをいっぱいにしてくれる。

「はっ…あ、あぁっ…んんっ——…っ!!」

 噴き出した快感に身体が戦慄いた。
 きゅう、と後孔がテオドールの指を締め付けて、際立つ指の存在感にまたぞくぞくする。ぱたぱたと白濁が地面を濡らした。

「イくの、上手になったね」

 …………それって、早くなったってこと?

 だって、気持ちいいんだもん。テオドールが触れるところが全部気持ちいい。
 正直こんなに気持ちいいとか信じられない。『女神の願い』の効果なのか、おれに才能があったのか、テオドールがすごく上手いのか。

 でも、本当に疼いてるのは、もっと奥の……テオの長い指だって届かないところ、だ。

 足りなくて、もっと欲しくなっている。
 むずむずと、腹の奥が疼く。この疼いている腹の奥まで広げられて、内側から触れられたら、おれはどうなってしまうんだろう。

 冷めやらぬ熱を持て余して、恍惚とする頭でおれは疑問を口にした。

「なんで……最後までしないんだよ」

『女神の願い』の薬効には段階がある。
 もう、変態期は十分な期間が過ぎたと思う。おれのお尻も優秀で、濡れるようになったしもう3本の指を容易にいれることができるようになった。

 そして、完成期において最も重要なことは、相当量のパートナーの愛の精霊力ラブマナを体内に受け入れることだ。
 人の体液には、特に精液には男性型の愛の精霊力ラブマナを多量に含んでいる。
 体内で二人の愛の精霊力ラブマナが一緒に薬に作用することで、初めて完全な器官の変態と愛の精霊力ラブマナの性変換が可能になる。

「おれは……受け入れるのに」

 後には、後悔するかもしれない。けれど、その恐れは心の底に隠してしまおう。

 こんな風に触れられているときだけでも、おれは………。

 腰と胸に回された腕にぎゅっと力がこもり、苦しいほどに締め付けられて、おれの考えが遮られる。

「シリル兄さんは、いつだって僕を受け入れてくれる。でも………」

 背中にテオドールの息づかいを感じる。

「でも、僕にシリル兄さんをくれる気はないでしょう」

 一段低い声が、背中で響いた。

 いつも、おれに話すときのテオドールの声から、穏やかさとか、優しさの成分をすべて抜き取ったような冷えた声に、身体の熱が一気に冷める。

 顔が見えなくて、心が察せなくて、不安になる。喉がひりひりと乾いて声が出ない。

「………え?」
「知ってる?シリル兄さんは、これまで僕に何かを欲しがったことが、無いんだよ」
「ええ……?そんなこと——」
「あるよ」

 俺の否定は最後まで言うことも許されず、否定される。

「いつも僕にはたくさんのものをくれて、何でも受け入れてくれるけど……」

 おれはこれまでのことを思い出す。テオドールの言っていることの意味が理解できなくて、どんどん混乱してくる。

 おれの思考の後ろから、テオドールが重ねて訴えてくる。

「あなたは僕になにも望まない。
 僕にあなたのなにも委ねてはくれない」

 否定したいのに、指摘が本質を集約しているようにも思えて、言葉が出てこない。

「あなたは……僕を…本当の意味で、求めてはくれない」

 今、テオドールはどんな顔をしているのだろう。テオドールが後ろからおれに強く抱きついていて、確かめることもできない。

 結局おれはテオドールの顔を見ることは出来なかった。

 しばらくは忙しくなるのだと言って、一度もこちらを振り返ることなくテオドールが去って行ったから。

 呼び止めようと、引き留めようとして、無言の後ろ姿になんと言えばいいのか。おれには言葉が見つからなかった。



 ——そして、その日からイグレシアス王国に数年ぶりの大きな嵐が来た。
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