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46.NLもBLもツンデレも素晴らしいという話
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女神シュリアーズ信仰では、真実の愛の前にはなにものの障害も無い、と身分差や諸々をご都合主義に飛び越えることができる。
『ラブプラ』はあくまで乙女ゲームで、R指定すらない世界だった。ゲームには同性同士の恋愛は出てこないけれど、現実になれば無い方がおかしい。
「現実の恋愛なんて、常に生々しくて、どろどろしてるものよ」
ここは、NLもBLもどんとこいの世界なのだ。真実の愛とは、実に奥が深い。
でも、ミアは大きな勘違いしている。
「今のおれとテオは、別に恋愛関係じゃないよ」
「は?」
「『女神の願い』の被験者とその協力者だから」
そもそも恋愛関係に発展してるなら、こんなに悩んでない。
『女神の願い』の被験者とその協力者だからこそ、テオドールはおれにキスだってしないし、テオドール自身の欲求を満たすような行為はしない。おれに快感を与える以上のことをしない。
つまり、『女神の願い』の薬効を得るのに必要十分な行為しかしてこない、ということだ。
ミアは苦悶用の表情で額に手を当て、
「ここまでくると……なんだかテオドールが可哀想になってきた」
「やっぱり……?」
おれはここ最近のテオドールとの触れ合いで、醜態を晒しまくっているわけだけど、そんな兄であるおれの姿をみてテオドールが一体どう思っているのか……怖くて、聞くこともできない。
「あんたが思ってるのとは、絶対に違う」
違うらしい。
おれが今、密かに恐れていることは、テオドールがはたしておれと最後までできるのだろうか、ということだ。
おれはただ気持ち良くなっていればいいけれど、テオドールはそういうわけにはいかない。
いよいよ、という段になって、やっぱりムリ、なんていう事態も十分に想定できるわけで。
あ、想像したらなんだか悲しくなってきた。
「もう、腑抜けた顔してんじゃないわよ。
今日あんたを誘ったのだって、美味しいごはん食べるため、てわけじゃないんだからね」
「わかってるよ。『大きな神災が起こる』て噂の調査だよね」
おれも先日耳にしたけれど、どうやら神災が起こる、という噂は国中に広がっているようなのだ。
今日は、その実態を見るために二人で街を散策し昼食をとっているのだ。
「そうよ。……でも、噂のわりに街は落ち着いてるわよね。なんの兆しも無いし」
道行く人々は、まるで世間話のように「もうすぐ神災が起こるらしい」「どんな神災が起こるのかな?」などと話している。今日だけでも数回耳にした。
だけど、それだけだ。
近年、神災が少なく王国は安定した繁栄を保っているのだけど、そうすると弟神メーティストを信仰する団体の中でも過激派の人々が、自ら事件を起こし信者を増やそうとする迷惑極まりない行為にでることがある。
今回も、その手の事件かと思っていたのだけど。
精霊力の流れも特に予測から外れていないし、神災が起こるという根拠はない。
噂以外は特に異常の証拠はないのだ。
「おれも特に何の情報もないよ」
そう、何の情報も無い。噂の発端となった人も、物事も。なぜこうもうわさが広がっているのかも。ただ、噂が流れているという事実だけがそこにあった。
それがかえって気味が悪い。
「そう……」
「何かあったらミアにも教えるよ」
非日常で落ち着かないのは仕方ないとしても、私情で職務怠慢になるのは良くないことだ。
「ミアには迷惑かけないからさ」
「あんたがそんなんだと、気になって仕方いないのよ。既に迷惑。調子が狂う」
「そうか……そうだよね。ごめんな」
「だからって、ムリに明るく振る舞うとかはマジ無いからね。キモいから」
「………それ、おれはどうしたらいいのかな」
「そんなの、ずっと締まりない顔でへらへら能天気に笑ってればいいのよ」
ふんっと、ミアは鼻息荒く言うと、びしっとフォークでおれを指さして断言した。
行儀が悪い。
「えー……なんだよそれ」
でも、おれはミアの言葉に、思わず頬が緩む。
どうやらおれは、思っていた以上にミアを心配させてしまっていたらしい。
ミアって所謂、ツンデレ、というヤツだと思う。
口は悪くて、おれのことをボロクソに言うけれど、いちいち気にかけてくれる。良く気づいてくれて、その度にこうして飽きずに関わってくれる。
いつも決まって言うことは、「考えすぎ」だとか、「逆にバカ」とか、「ぼーっとしてるくらいでちょうどいい」だとか。
あれ。やっぱりおれ、すごい言われようだな。
でも、最後には決まって、「笑ってろ」というのだ。でもって、その笑ってろという要求には、さらに「心から」という言葉がついて、中々難易度の高い、厳しい要求だったりする。
だから、おれはこの言葉を聞くたびに本当におかしくて、本当に幸せな気持ちになってしまうのだ。“恵みの乙女”は伊達じゃない。
「何をニヤニヤしてるのよ。気持ち悪い」
うん。本当に口は悪いし、おれのことをボロクソに言うけれどね。
へらへらは良くて、ニヤニヤはダメらしい。何気に要求が細かくて難易度が高い。
でも、ミアはゆっくりとデザートを味わうおれのことを、なんやかんやと言いつつも、いつもこうして待ってくれる。
食後のドリンクが運ばれてくる。そして、給仕の初老男性から、支配人が挨拶したいと言っている、と申し出がある。
「え?ミアはここの支配人と知り合いなの?」
「いや、シリルも知り合いでしょ」
「流行に疎いのは相変わらずだな」
ミアの言葉に続いて、聞き覚えのある声の方を見れば、緑色の髪をオールバックに綺麗に整え、ニヒルに笑うダニエル・ヴァンが扉の前に立っていた。
『ラブプラ』はあくまで乙女ゲームで、R指定すらない世界だった。ゲームには同性同士の恋愛は出てこないけれど、現実になれば無い方がおかしい。
「現実の恋愛なんて、常に生々しくて、どろどろしてるものよ」
ここは、NLもBLもどんとこいの世界なのだ。真実の愛とは、実に奥が深い。
でも、ミアは大きな勘違いしている。
「今のおれとテオは、別に恋愛関係じゃないよ」
「は?」
「『女神の願い』の被験者とその協力者だから」
そもそも恋愛関係に発展してるなら、こんなに悩んでない。
『女神の願い』の被験者とその協力者だからこそ、テオドールはおれにキスだってしないし、テオドール自身の欲求を満たすような行為はしない。おれに快感を与える以上のことをしない。
つまり、『女神の願い』の薬効を得るのに必要十分な行為しかしてこない、ということだ。
ミアは苦悶用の表情で額に手を当て、
「ここまでくると……なんだかテオドールが可哀想になってきた」
「やっぱり……?」
おれはここ最近のテオドールとの触れ合いで、醜態を晒しまくっているわけだけど、そんな兄であるおれの姿をみてテオドールが一体どう思っているのか……怖くて、聞くこともできない。
「あんたが思ってるのとは、絶対に違う」
違うらしい。
おれが今、密かに恐れていることは、テオドールがはたしておれと最後までできるのだろうか、ということだ。
おれはただ気持ち良くなっていればいいけれど、テオドールはそういうわけにはいかない。
いよいよ、という段になって、やっぱりムリ、なんていう事態も十分に想定できるわけで。
あ、想像したらなんだか悲しくなってきた。
「もう、腑抜けた顔してんじゃないわよ。
今日あんたを誘ったのだって、美味しいごはん食べるため、てわけじゃないんだからね」
「わかってるよ。『大きな神災が起こる』て噂の調査だよね」
おれも先日耳にしたけれど、どうやら神災が起こる、という噂は国中に広がっているようなのだ。
今日は、その実態を見るために二人で街を散策し昼食をとっているのだ。
「そうよ。……でも、噂のわりに街は落ち着いてるわよね。なんの兆しも無いし」
道行く人々は、まるで世間話のように「もうすぐ神災が起こるらしい」「どんな神災が起こるのかな?」などと話している。今日だけでも数回耳にした。
だけど、それだけだ。
近年、神災が少なく王国は安定した繁栄を保っているのだけど、そうすると弟神メーティストを信仰する団体の中でも過激派の人々が、自ら事件を起こし信者を増やそうとする迷惑極まりない行為にでることがある。
今回も、その手の事件かと思っていたのだけど。
精霊力の流れも特に予測から外れていないし、神災が起こるという根拠はない。
噂以外は特に異常の証拠はないのだ。
「おれも特に何の情報もないよ」
そう、何の情報も無い。噂の発端となった人も、物事も。なぜこうもうわさが広がっているのかも。ただ、噂が流れているという事実だけがそこにあった。
それがかえって気味が悪い。
「そう……」
「何かあったらミアにも教えるよ」
非日常で落ち着かないのは仕方ないとしても、私情で職務怠慢になるのは良くないことだ。
「ミアには迷惑かけないからさ」
「あんたがそんなんだと、気になって仕方いないのよ。既に迷惑。調子が狂う」
「そうか……そうだよね。ごめんな」
「だからって、ムリに明るく振る舞うとかはマジ無いからね。キモいから」
「………それ、おれはどうしたらいいのかな」
「そんなの、ずっと締まりない顔でへらへら能天気に笑ってればいいのよ」
ふんっと、ミアは鼻息荒く言うと、びしっとフォークでおれを指さして断言した。
行儀が悪い。
「えー……なんだよそれ」
でも、おれはミアの言葉に、思わず頬が緩む。
どうやらおれは、思っていた以上にミアを心配させてしまっていたらしい。
ミアって所謂、ツンデレ、というヤツだと思う。
口は悪くて、おれのことをボロクソに言うけれど、いちいち気にかけてくれる。良く気づいてくれて、その度にこうして飽きずに関わってくれる。
いつも決まって言うことは、「考えすぎ」だとか、「逆にバカ」とか、「ぼーっとしてるくらいでちょうどいい」だとか。
あれ。やっぱりおれ、すごい言われようだな。
でも、最後には決まって、「笑ってろ」というのだ。でもって、その笑ってろという要求には、さらに「心から」という言葉がついて、中々難易度の高い、厳しい要求だったりする。
だから、おれはこの言葉を聞くたびに本当におかしくて、本当に幸せな気持ちになってしまうのだ。“恵みの乙女”は伊達じゃない。
「何をニヤニヤしてるのよ。気持ち悪い」
うん。本当に口は悪いし、おれのことをボロクソに言うけれどね。
へらへらは良くて、ニヤニヤはダメらしい。何気に要求が細かくて難易度が高い。
でも、ミアはゆっくりとデザートを味わうおれのことを、なんやかんやと言いつつも、いつもこうして待ってくれる。
食後のドリンクが運ばれてくる。そして、給仕の初老男性から、支配人が挨拶したいと言っている、と申し出がある。
「え?ミアはここの支配人と知り合いなの?」
「いや、シリルも知り合いでしょ」
「流行に疎いのは相変わらずだな」
ミアの言葉に続いて、聞き覚えのある声の方を見れば、緑色の髪をオールバックに綺麗に整え、ニヒルに笑うダニエル・ヴァンが扉の前に立っていた。
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