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32.二人の長い夜⑥ ※

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「ん、……ふぅ…ん、んっ」 
「息を詰めたらダメだよ」
「あっ……そん、なの…わかってる……けど…っ」

 わかっていることと、できることは違うじゃんか。
 
 テオドールは、おれの様子に再び作業を中断し、しばし何かを考え込むと、

「少し潤滑油を使おうか」

 そう言って、ベッドサイドの小瓶を手に取った。

 小瓶の中の液体を、自分の掌にとろりと垂らし、おれの後ろに優しく塗る。

「うっ……ぬるっとする…」
「でも、滑りは良くなったよ」

 その台詞と共に、再び指がつぷりと侵入してくる。

 先ほどよりも、深くスムーズに入ってた指が、内側を探るように撫でて、また出ていく。
 あの少し節ばった長くて綺麗な指が、リズミカルに動き出す。

 うう、やっぱり気持ち……悪い。

 しかし、それでも、潤滑油が人肌に温めてあるテオドールの配慮に、おれも頑張らねば、と志を新たにする。

 ……というか、いつの間にこんなものを、準備したのかな。

「なんか、テオ……手慣れてない?」

 そして、どうにもずっと気になっていたことを、いよいよ聞いてしまう。

「シリル兄さんに関しては、手を抜かないだけだよ」

 指は、入れたり抜いたりしてるけどね。

 心の中で突っ込んで、いや突っ込まれてるのは自分だけど。
 なんて、また自分に突っ込んだ。

 くちくちと粘調な音が二人だけの寝室に響く。
 テオドールは宣言通りに、丁寧な手つきで、おれの中をゆっくりとひらいていく。

 指が出し入れされるたびに、ぞくり腰から悪寒のような排泄感が駆け上がって、お腹の奥が疼く。
 再び埋め込まれると圧迫感に、息がつまる。

「うっ…ん、ん……ぁ……は」

 指が二本に増えて中の質量がますと、押されている、というより、内側から撫でられているような感覚に変わり、さっきよりさらに奥に侵入してくる。

 より苦しさが増す。だけど、それだけじゃなくて。

 圧迫感と共に込み上げてくるぞくぞく感と、何かに触れそうで触れない…どこかを掠るたびに痺れるような灼熱感が襲って、腰がその度にひけて、心臓がぎゅっと縮こまる。

 テオはなんで、ずっと黙ってるんだよ。
 そんな真剣にそんなとこ見られたら、いたたまれないじゃないか。

「あっ……、あのさっ」

 沈黙と未知の感覚に、たまらずおれは声をあげた。

「痛いときは、左手を挙げるから。……だから、そのときは、やめてくれよ?」
「なに?その方法」
「いいから……お願いだから…」

 これは古から伝わる由緒正しい痛みを主張をするためのルールである。

「わかったよ」

 テオドールの同意に、おれはほっと胸を撫で下ろした。

「そのかわり、シリル兄さんは僕に何をされているか、しっかり見ていて」

 テオドールはそう言うと俺の窄まりに差し入れた指先を、ぐっと曲げた。

「ひっ…あっ!あぁっ!なにっ……そこ…っ」

 入口……いや、出口か?もう、どっちでもいいけど!!
 そこからテオの指の半分くらい、お腹側を撫でられたとき、おれの身体に電流が流れてびりりと跳ねた。

「ああ、やっと見つけた」
「あっ!や…やめてっ!…そこ、へん…あっ!!」

 おれは必死に左手を挙げて、右手でテオドールの肩を押しのける。

 全力で押しているのに、微動だにしない弟の力強さに驚くと共に、自分を襲う感覚が怖い。

 一方のテオドールは、おれの制止にちらりとこちらを一瞥したけど、艶のある笑みを浮かべるだけだ。

 「大丈夫、痛くはないはずだよ」

 あうぅぁぁぁっ!
 確かにこのルール、「手を挙げたけどいなされて意味が無い」てとこまでが様式美だけどさ?!?

 テオはそんなこと知ってるはずないよね??!!

 こんなところで、そんな優秀さを発揮してくれなくていいんだけど!!!

「シリル兄さんは、僕に嘘をつくんだね」

 さらにぐっと腰を押えつけおれを易々と固定する。

「ひぁっ…あっ!ん、…や、うそじゃ…んぁっ!」

 テオドールはそこを、ゆらゆらと左右に優しく撫でたかと思うと、とんとんと律動的に叩く。

 そして、ぐっと強く圧迫させれば、身体がひとりでにびくびくと痙攣した。

「はっあ!…いたく、ないけど…あぁぁっやぁっ!」

 お腹の奥が苦しいような、痺れるような、だけどそれだけでない強烈な熱から、ただただ逃れたくて仕方がない。

 それなのに、おれがどんなに必死にもがいても、オドールは逃がしてくれない。
 執拗にそこを責め立てる。

「ふぅっ…うっ……むり、むりぃっ…も、やめて、やだっ…っ」
「気持ちよさそうだよ……どんどん、溢れてくる。ほら」

 ぐちゅぐちゅとわざと音をたてて抽挿を繰り返されて、もう充分にこれ以上ないほど恥ずかしい。

「あっ!…や、おと…たてるな…っ」

 この音が自分から出ているのだと突き付けられて、羞恥に頭が沸騰しそうだ。

 繰り返し刺激されたそこが、だんだんと熱をもってきて、甘い痺れに変わっていく。

「へんっ……これ、あっ…なに…あぁっ」

 じんじんして、お腹の奥から腰にそして全身にその痺れが広がって、我慢できなくなる。

 これ、気持ちいいとか、そんなレベルじゃない。もっと、鮮烈で焼けるような。

「んんっ…あ、だめ、だめぇ…」

 それでいて、欲しくて欲しくて渇望してしまうような、溶けるような悦楽だ。
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