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26.テオドールの一日④(テオドール視点)
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僕は成人と同時に、フォレスター家を継いで、領主になった。それもすべては、シリル兄さんを繋ぎ止めるためだ。
通常は、兄であり直系のシリル兄さんが継ぐ。だけど、あの人は全面的に、賛成してくれた。
多岐にわたる、シリル兄さんの行動と興味を把握して、かつ害悪から守るためにも、望むことを叶えるにも、不要なものを排除するにも、権力や地位は必須だ。
王太子の側近だって、その業務自体に、とりわけ興味があるわけじゃないけれど、むしろ全く関心は無いけれど、同様の理由で非常に意味のある職務だった。
さらに言えば、本人が認知していない、無謀で過剰な行動を制限し、抑制できるよう、また、あの人から奪える業務を他者へ委任、采配する権限を持つことが、僕にとって最も重要だと言える。
多くの物事に興味を持てば持つだけ、シリル兄さんはそこから離れられなくなる。
責任感も強いあの人は、絶対に見捨てたりできないから。
だから、好きなだけどんどん新たな楽しいことを、たくさんしてくれればいい。
イグレシアス王国だろうと、この世界自体だろうと、あの人を繋ぐものならば、僕は何だって利用する。
「ああ……もう。二人とも、何がしたいのか、理解できないわ!」
「君に理解は求めていないよ」
「見てるこっちが、モヤモヤするのよ!!」
「じゃあ、見なければいいだろう」
ミアの事情なんて、僕には関係ない。
「テオドールだって、きちんと好きだって、言えばいいじゃない!」
「何度も、言っているよ」
縁談を受けない、という話をしたときも「僕はシリル兄さんが好きだから」とそのままストレートに伝えたが、「おれもテオのこと好きだよ」と言って終了した。
「そうよね。そうだわ。シリルは、なんでわからないのかしら……」
シリル兄さんが、僕の気持ちをわからないはずがない。
そう、心の中だけで反論する。
「ああ、もう!あなた最後まで、ちゃんと責任持ちなさいよ!!」
「責任は当然持つけれど、それは君に対してじゃないよ?」
シリル兄さんは、周囲の感情や都合を察することの関して、天才的だ。
特に、僕が望んでいることは、言わなくても、叶えようと努める傾向がある。
さらに、それが自分の意向と合致していれば、望むと望まざるとに関わらず、全てを受け入れてくれる。
シリル兄さんが、何かにこだわっていることは、もう随分と以前から分かっている。
あの人は、僕の気持ちを、わかりたくないのだ。
いや、わかってはいけない、そういう執念とも言える強い思いが、シリル兄さんの中にある。
まるで、魂に刻まれた呪いのように。本人も気づかないほど自然に、無意識の中で当たり前のように、その思いに従って行動しているのだ。
だから、優しく包み込むように甘やかすと、するりと逃れていく。
あんなに隠しきれていない僕への想いを、頑なに蓋をするように、これ以上は満たされないように、溢れてしまわないように、避けていく。
そして、暴かれてはいけない感情を心の奥底にため込んでいる。
僕は、そのすべてを丸ごと欲しい。
「僕が求めれば……シリル兄さんは、間違いなく受け入れてくれるだろうけど。それじゃあ、今と何も変わらないから」
それじゃあ、意味がない。全然足りない。
だって、今のままでは、あの人は僕がどれだけ好きだと伝えても、決して自分の心を僕に明け渡さない。
「あの人が、自分で気づいて、自分で変わって、自分で望まなければ意味が無いんだよ」
ほんの僅かも余すことなく、心も体も。過去も、今も、これからの未来も。全部。
丸ごとでなければ気が済まない。
「そんなに心配しなくても、本当にシリル兄さんが望んでいないことは、無理強いするつもりはない。
あの人の幸せが、僕の幸せだからね。
だから、君も余計なことは言わないように、ね」
じっと視線で射抜けば、ぐっと彼女は息を飲んだ。
「うっ……はぁ、わかってるわよ。
テオドールが恋愛関係全般をシリルから遠ざけたから、あんなに鈍くなったんでしょ」
僕からすれば、わざわざ他人からの情報でシリル兄さんを汚す意味の方がわからないのだから。
初めては全部、僕があげたい。
初めてのことに戸惑う姿も、恥ずかしがる姿も、全部僕のものにしたい。
「ああして狼狽えてる姿も、かわいいよね」
「あんたねぇ……」
「ずっと僕のことで頭がいっぱいになってるのが堪らない」
聞かせるのも、見せるのも、触れるのも、全部僕だけでいい。
ああ。早く帰って、シリル兄さんに会いたい。
だけど、午後の業務には、シリル兄さんも関連する、視察と作業が入っている。
これは手を抜くわけにはいかない。
ああ、一刻も早く。
シリル兄さんが、僕のことで全部いっぱいになってしまえばいい。
そして、他の無駄なことすべてから、解放されればいいのに。
通常は、兄であり直系のシリル兄さんが継ぐ。だけど、あの人は全面的に、賛成してくれた。
多岐にわたる、シリル兄さんの行動と興味を把握して、かつ害悪から守るためにも、望むことを叶えるにも、不要なものを排除するにも、権力や地位は必須だ。
王太子の側近だって、その業務自体に、とりわけ興味があるわけじゃないけれど、むしろ全く関心は無いけれど、同様の理由で非常に意味のある職務だった。
さらに言えば、本人が認知していない、無謀で過剰な行動を制限し、抑制できるよう、また、あの人から奪える業務を他者へ委任、采配する権限を持つことが、僕にとって最も重要だと言える。
多くの物事に興味を持てば持つだけ、シリル兄さんはそこから離れられなくなる。
責任感も強いあの人は、絶対に見捨てたりできないから。
だから、好きなだけどんどん新たな楽しいことを、たくさんしてくれればいい。
イグレシアス王国だろうと、この世界自体だろうと、あの人を繋ぐものならば、僕は何だって利用する。
「ああ……もう。二人とも、何がしたいのか、理解できないわ!」
「君に理解は求めていないよ」
「見てるこっちが、モヤモヤするのよ!!」
「じゃあ、見なければいいだろう」
ミアの事情なんて、僕には関係ない。
「テオドールだって、きちんと好きだって、言えばいいじゃない!」
「何度も、言っているよ」
縁談を受けない、という話をしたときも「僕はシリル兄さんが好きだから」とそのままストレートに伝えたが、「おれもテオのこと好きだよ」と言って終了した。
「そうよね。そうだわ。シリルは、なんでわからないのかしら……」
シリル兄さんが、僕の気持ちをわからないはずがない。
そう、心の中だけで反論する。
「ああ、もう!あなた最後まで、ちゃんと責任持ちなさいよ!!」
「責任は当然持つけれど、それは君に対してじゃないよ?」
シリル兄さんは、周囲の感情や都合を察することの関して、天才的だ。
特に、僕が望んでいることは、言わなくても、叶えようと努める傾向がある。
さらに、それが自分の意向と合致していれば、望むと望まざるとに関わらず、全てを受け入れてくれる。
シリル兄さんが、何かにこだわっていることは、もう随分と以前から分かっている。
あの人は、僕の気持ちを、わかりたくないのだ。
いや、わかってはいけない、そういう執念とも言える強い思いが、シリル兄さんの中にある。
まるで、魂に刻まれた呪いのように。本人も気づかないほど自然に、無意識の中で当たり前のように、その思いに従って行動しているのだ。
だから、優しく包み込むように甘やかすと、するりと逃れていく。
あんなに隠しきれていない僕への想いを、頑なに蓋をするように、これ以上は満たされないように、溢れてしまわないように、避けていく。
そして、暴かれてはいけない感情を心の奥底にため込んでいる。
僕は、そのすべてを丸ごと欲しい。
「僕が求めれば……シリル兄さんは、間違いなく受け入れてくれるだろうけど。それじゃあ、今と何も変わらないから」
それじゃあ、意味がない。全然足りない。
だって、今のままでは、あの人は僕がどれだけ好きだと伝えても、決して自分の心を僕に明け渡さない。
「あの人が、自分で気づいて、自分で変わって、自分で望まなければ意味が無いんだよ」
ほんの僅かも余すことなく、心も体も。過去も、今も、これからの未来も。全部。
丸ごとでなければ気が済まない。
「そんなに心配しなくても、本当にシリル兄さんが望んでいないことは、無理強いするつもりはない。
あの人の幸せが、僕の幸せだからね。
だから、君も余計なことは言わないように、ね」
じっと視線で射抜けば、ぐっと彼女は息を飲んだ。
「うっ……はぁ、わかってるわよ。
テオドールが恋愛関係全般をシリルから遠ざけたから、あんなに鈍くなったんでしょ」
僕からすれば、わざわざ他人からの情報でシリル兄さんを汚す意味の方がわからないのだから。
初めては全部、僕があげたい。
初めてのことに戸惑う姿も、恥ずかしがる姿も、全部僕のものにしたい。
「ああして狼狽えてる姿も、かわいいよね」
「あんたねぇ……」
「ずっと僕のことで頭がいっぱいになってるのが堪らない」
聞かせるのも、見せるのも、触れるのも、全部僕だけでいい。
ああ。早く帰って、シリル兄さんに会いたい。
だけど、午後の業務には、シリル兄さんも関連する、視察と作業が入っている。
これは手を抜くわけにはいかない。
ああ、一刻も早く。
シリル兄さんが、僕のことで全部いっぱいになってしまえばいい。
そして、他の無駄なことすべてから、解放されればいいのに。
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