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14.テオの好み
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テオドールの縁談に関していえば。
「テオ自身は、乗り気では無くてさ」
全く全然その気がない。
周囲がようやくテオドールの明晰さと魅力に気づいたか、と大量に積まれた釣書を前にテンションをあげるおれを尻目に、本気で嫌そうな顔をしていた。
そして、最終的には釣書を全部燃やしてしまった。
「なのに、おれにきた縁談には興味津々で、全部チェックしてくれてるんだ」
もっとも、おれは誰とも考えられないから、釣書を見ることもなく断るのだけど。
チェックしてくれているテオドールには申し訳ない。でもおれの我が儘をいつも認めてくれる。
なんて、いい弟なんだろう。
「それに……」
「それに、何よ?」
「テオには好きな人がいるらしいんだよ」
「は?……え?…はあぁぁぁぁっ?!?!」
いや、ミアそんなに驚くところ?テオだってお年頃だから。
「本人が言ってたから、間違いない。
その好きな人とじゃないと一緒にいたくないから、絶対に縁談は受けないって」
「あ……はぁ…ああ、そういうことね。はいはい。驚かせないでよ」
何だよ。
勝手に驚いて勝手に納得したのはミアだろ。
…………もしかして、ミアはテオの想い人について、何かを知っているのか?おれも知らないのに??
そうだとしても、おれにはこの場で聞く勇気は無い。
「テオはその人じゃないと絶対にダメなんだって」
「まあ、そうでしょうね」
「だから縁談に関しては、お互いに、テオとおれの連名で毎回丁重に断ってるんだ」
毎回フォレスター領主と、フォレスターの直系として、二人で連名でお断りをしている。
「………あー……なるほど。外堀ね」
「そとぼり?何だそれ?」
「ああ、前途多難!!」
ミアってば、さっきから叫んでばっかりだな。
情緒不安定なの?
おれがいるときだけでも、こうして良く頭を抱えているけど、実は頭痛持ちとか?
「ミア、頭が痛いなら頭痛薬いる?」
「………………」
「だから、なんでジト目なの?」
おれ、何か悪いことした?
「まあ……女神シュリアーズも見守っていることだし、どうにかなるでしょ」
「真実の愛が導いてくれるって?」
「そうそう。
あれは、導かれるっていうか。引きずり込まれるっていうか。落っこちるというか」
何それ。怖い。女神様マジで怖い。
そんなことを考えていると、「何でわからないの?シリルと一緒にいたい、好きな人とじゃないと一緒にいたくない、その人じゃないとダメって、つまりそういうことじゃない。なんで……」とぶつぶつミアの呟きが聞こえて、目が合うと盛大に溜息をつかれた。
*
国の一大事と自分の一大事。どっちが大事かと言えば、身近な方が切実な問題に間違いない。
女神シュリアーズが見守っているって言ったってさ。
神頼みだって、ただ待ってればいいってもんじゃないじゃん?
やっぱり『人事を尽くして天命を待つ』っていう言葉があるように、努力無くしてただぼーっとしてるなんていうのは、ただの怠慢なわけだよ。
それでどうにかなるなんて、そんな甘いことは、前世にだって、この世界にだって存在しないとおれはよく理解している。
つまり。
おれは今、この苦境は怠慢によるものなのか、ということを繰り返し自問しているのである。
つまり、つまり。
なんだって現在おれは、『新妻が一人寝室で夫との情事を期待して待っているけど、何も着飾れてなくて申し訳ない』みたいな心情に陥っているんだろう、て話だ。
何をどう努力したら良かったのか。
いやまあね。
そりゃあ、おれはいつものおれの寝間着で、おれのベッドに腰かけてるよ。もう夜だから。大人も寝る時間だから。
特別な努力なんて、何もしてないよ。それが何か?
まあ、少しいつもより……本当に気持ち程度?しっかり目に身体を洗ったことは否定しないよ?
でも、これを努力という程おれはおこがましくない。
おれのどうしようもない今の状況はおれの怠慢なのか。怠慢だとしたら何が足らなかったのか、てことを、さっきから一人で悶々と考えているわけだ。
何も悪くないのに、何なのこのドキドキ感。
うーん……もしかして、おれもう少しテオドールの好みを知っておくべきだったのかな。
その、つまり……清楚系が好きなのか、セクシー系が好きなのか、とか、そういう好みについて、知る努力が必要だったのでは?
…………………。
いやいやいや。
冷静になろうか、おれ。
血迷い過ぎだろ。
普通に考えて弟の性的な嗜好に詳しい兄なんて、単なるキモイやつじゃんか。
そして、それを知っていたところで、おれがそれをどうするっていうんだ?
そんなチャレンジ、恋愛初心者……というか、未経験のおれにはムリムリ。
つまり、おれは何も悪くない。
だいたい、「できるだけ早く帰ってくる」なんて言っておいて、もう22時過ぎてますけど?
いつまで待ってたらいいの?
ただ待ってるのに耐えられなくて、いつもは飲まない寝酒とか飲んじゃったじゃんか。
…………そもそも待ってる必要あるのか?
そう言えば、「部屋にいて」って言ってなかったか?
そうだよ。
別に起きて待ってろなんて、テオドールは一言も言ってないじゃないか。
うん。寝よう。
それしかない。
これは現実逃避では無くて、睡眠という生物にとって生きていく上で必要な休息をとるだけだ。
「テオ自身は、乗り気では無くてさ」
全く全然その気がない。
周囲がようやくテオドールの明晰さと魅力に気づいたか、と大量に積まれた釣書を前にテンションをあげるおれを尻目に、本気で嫌そうな顔をしていた。
そして、最終的には釣書を全部燃やしてしまった。
「なのに、おれにきた縁談には興味津々で、全部チェックしてくれてるんだ」
もっとも、おれは誰とも考えられないから、釣書を見ることもなく断るのだけど。
チェックしてくれているテオドールには申し訳ない。でもおれの我が儘をいつも認めてくれる。
なんて、いい弟なんだろう。
「それに……」
「それに、何よ?」
「テオには好きな人がいるらしいんだよ」
「は?……え?…はあぁぁぁぁっ?!?!」
いや、ミアそんなに驚くところ?テオだってお年頃だから。
「本人が言ってたから、間違いない。
その好きな人とじゃないと一緒にいたくないから、絶対に縁談は受けないって」
「あ……はぁ…ああ、そういうことね。はいはい。驚かせないでよ」
何だよ。
勝手に驚いて勝手に納得したのはミアだろ。
…………もしかして、ミアはテオの想い人について、何かを知っているのか?おれも知らないのに??
そうだとしても、おれにはこの場で聞く勇気は無い。
「テオはその人じゃないと絶対にダメなんだって」
「まあ、そうでしょうね」
「だから縁談に関しては、お互いに、テオとおれの連名で毎回丁重に断ってるんだ」
毎回フォレスター領主と、フォレスターの直系として、二人で連名でお断りをしている。
「………あー……なるほど。外堀ね」
「そとぼり?何だそれ?」
「ああ、前途多難!!」
ミアってば、さっきから叫んでばっかりだな。
情緒不安定なの?
おれがいるときだけでも、こうして良く頭を抱えているけど、実は頭痛持ちとか?
「ミア、頭が痛いなら頭痛薬いる?」
「………………」
「だから、なんでジト目なの?」
おれ、何か悪いことした?
「まあ……女神シュリアーズも見守っていることだし、どうにかなるでしょ」
「真実の愛が導いてくれるって?」
「そうそう。
あれは、導かれるっていうか。引きずり込まれるっていうか。落っこちるというか」
何それ。怖い。女神様マジで怖い。
そんなことを考えていると、「何でわからないの?シリルと一緒にいたい、好きな人とじゃないと一緒にいたくない、その人じゃないとダメって、つまりそういうことじゃない。なんで……」とぶつぶつミアの呟きが聞こえて、目が合うと盛大に溜息をつかれた。
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国の一大事と自分の一大事。どっちが大事かと言えば、身近な方が切実な問題に間違いない。
女神シュリアーズが見守っているって言ったってさ。
神頼みだって、ただ待ってればいいってもんじゃないじゃん?
やっぱり『人事を尽くして天命を待つ』っていう言葉があるように、努力無くしてただぼーっとしてるなんていうのは、ただの怠慢なわけだよ。
それでどうにかなるなんて、そんな甘いことは、前世にだって、この世界にだって存在しないとおれはよく理解している。
つまり。
おれは今、この苦境は怠慢によるものなのか、ということを繰り返し自問しているのである。
つまり、つまり。
なんだって現在おれは、『新妻が一人寝室で夫との情事を期待して待っているけど、何も着飾れてなくて申し訳ない』みたいな心情に陥っているんだろう、て話だ。
何をどう努力したら良かったのか。
いやまあね。
そりゃあ、おれはいつものおれの寝間着で、おれのベッドに腰かけてるよ。もう夜だから。大人も寝る時間だから。
特別な努力なんて、何もしてないよ。それが何か?
まあ、少しいつもより……本当に気持ち程度?しっかり目に身体を洗ったことは否定しないよ?
でも、これを努力という程おれはおこがましくない。
おれのどうしようもない今の状況はおれの怠慢なのか。怠慢だとしたら何が足らなかったのか、てことを、さっきから一人で悶々と考えているわけだ。
何も悪くないのに、何なのこのドキドキ感。
うーん……もしかして、おれもう少しテオドールの好みを知っておくべきだったのかな。
その、つまり……清楚系が好きなのか、セクシー系が好きなのか、とか、そういう好みについて、知る努力が必要だったのでは?
…………………。
いやいやいや。
冷静になろうか、おれ。
血迷い過ぎだろ。
普通に考えて弟の性的な嗜好に詳しい兄なんて、単なるキモイやつじゃんか。
そして、それを知っていたところで、おれがそれをどうするっていうんだ?
そんなチャレンジ、恋愛初心者……というか、未経験のおれにはムリムリ。
つまり、おれは何も悪くない。
だいたい、「できるだけ早く帰ってくる」なんて言っておいて、もう22時過ぎてますけど?
いつまで待ってたらいいの?
ただ待ってるのに耐えられなくて、いつもは飲まない寝酒とか飲んじゃったじゃんか。
…………そもそも待ってる必要あるのか?
そう言えば、「部屋にいて」って言ってなかったか?
そうだよ。
別に起きて待ってろなんて、テオドールは一言も言ってないじゃないか。
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