【完結】真実の愛の物語~転生先の女神の願いはおれと弟の子作りでした?~

べあふら

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9.おれと“恵みの乙女”

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「育め!Love and Plant~愛と豊穣の女神に愛されし乙女~」、通称『ラブプラ』は、愛と豊穣の女神シュリアーズを信仰しているイグレシアス王国を舞台に、女神に愛されし“恵みの乙女”である主人公が、王太子やその側近である4大領主の関係者を中心とした攻略対象者と共に、国の困難に立ち向かい乗り越えていく、その過程で愛を育む育成系乙女ゲームだ。

 ゲームは、普通の村人として暮らしていた主人公プレーヤーが愛と豊穣の女神シュリアーズの天啓を受け“恵みの乙女”として覚醒し、王都に招かれた所から始まる。

 “恵みの乙女”の能力を使って、国土を整え植物を育てたり収穫する育成パートと、魔物を退治して国土を守っていくバトルパート、その過程で攻略対象者たちの生い立ちや葛藤に触れ、互いに愛を育んでいく恋愛パートが、繰り返し展開される。

 そして、スキルを上げて国を繫栄へと導いていくのだ。

 自宅や術後のベッド上でも、野菜や果物などの作物を収穫したり、魚をとったり。ほのぼのとした育成要素が魅力で、さらに、テンポのいい爽快なバトルアクションがおれのお気に入りだった。

 そして今現在、おれはそれをリアルでやって体感しているわけだ。

 実に充実した毎日で、時間がいくらあっても全然足りない。



 木陰で休むおれの方へミアがやって来て、隣に腰を下ろすと、ふうと息を吐いた。

「ミア、お疲れさま」
「シリルもね。子供ってなんであんなに元気なのかしら」
「ミアも負けてないよ」

 ミアの体力もどこから来るのか……感心する。やっぱり、主人公補正か何かなのか?

「私は子供じゃないわよ」

 なんてことを言いながら、冷たいお茶を一気に飲み干して、「ぷはぁっ、うまい!」なんて19歳の乙女にあるまじきおじさんみたいな声を上げている彼女を子供だなんて全然思っていない。

「いくらこの国が豊かだと言っても、“ニホン”みたいに安全じゃないし、教育水準だって如実に貧富の差があるものね」

 そんなことをさらりと言う“恵みの乙女”ミアにもおれと同じように前世の記憶がある。

 おれがミアと初めて会ったのはおれが9歳の時だ。

 おれが万能薬の原料となる『月の雫』を採取にいったとき、同じく採りに来ていた6歳のミアに偶然出会ったのだ。

『月の雫』は『ラブプラ』で登場するレアアイテムだ。

 フォレスター領の聖なる森の奥深くにある泉の周りに、夏至の夜、月が出ている間だけ咲く白い花の蜜が『月の雫』だ。

 そんなものをピンポイントでとりに来る6歳児、どう考えても普通じゃない。
『ラブプラ』の知識がある以外考えられない。互いに怪訝な顔で見つめ合った後、理解しあったのは言うまでもない。

 会話に出てくる文化水準、生活様式から、同じ年代の人物だったのだろうと推測している。

「ピクニックとか、バーベキューとかいいわよね。いくらでも食べられるから、危険だわ」
「外でみんなで食事するのは格別だよな」

『おれ』は行動制限のせいで、遠足やら修学旅行やらに参加できないことも多かったのだけど。毎年家族でバーベキューをした記憶が特別な思い出として残っている。

 ミアに出会って以来、前世の記憶がある人間がこの世界にたくさんいるのかともしれない、と考えたけど。
 現在までに、結局ミア以外には出会ったことはない。
 おれ自身も前世の記憶や“ニホン”のことをミア以外の人には話したことはない。
 
 だって、頭のおかしなヤツ、と思われたらいやじゃんか。

「読み書き計算だけでなくて、畑仕事に畜産、林業と漁業、商家での研修と、さらに治療院での精霊医学や精霊薬学の修練……すごい充実ぶりじゃん」
「そんなの『ラブプラ』で主人公がやってたことを、そのまま救済院の子供たちにやらせてるだけじゃない」

 ミアは『ラブプラ』で、主人公たちが国を繁栄させていった活動を救済院を中心に行ってきたのだ。

「良くこの短期間で、ここまでやったよ」

 その活動は驚嘆に値する。

「シリルが治療院保有の土地の使用や、独占している薬草の栽培に関して、交渉してくれたからよ。
 読み書き計算だって、教えるの上手だし。シリルに頼んで良かったわ」
「教えるのは、楽しいからな」

 『おれ』は入院中、自分よりも低学年の子供たちの勉強をみるのが好きだった。

 それと同じ要領で、救済院の子供たちにも教えている。貪欲な彼らは熱心に学ぶため吸収も早く、あまり苦労も無い。

「まあ、“ニホン”の感覚だと、子供たちを働かせるのは、児童労働じゃん!て思うんだけど……。
 この国では子供も重要な労働力なのは事実だし。
 何より自分の行為が誰かのためになったり、収入を得たりすることって、直接的な“ここにいていい”肯定感に繋がると思うのよね~」

 その感覚は、おれにも良く分かる話だ。

 常に誰かのお世話になる自分を全面的に肯定するのは難しい。そこに存在することの意味をどうしても考えてしまう。
 けれど、お世話をしてくれる人のことを思えば、自分を否定することも憚られて……激しい自己矛盾に苛まれることだってある。

「各々が自分の得意なことや、好きなことを見つけて、頑張ってるからなぁ」

 誰かの役に立ててうれしいって感覚は、成長する過程でとても大切だと思う。

 もちろん、救済院もまだ数年の活動だから、本当の意味での結果はもっと先にならないと分からない。

 救済院を出た子供たちがどう活躍していくのか、長期的に見ればそれが一番重要なことだ。

 けれど、今こうやって薬草園の手伝いをしてくれて、笑顔でお肉を頬張り取り合っている子供たちの未来が、暗いものだとは思えない。

「救済院の主力商品、魔物よけの香り袋に、王太子殿下とギルバートをイメージした香りを作って販売しようっていう案が出てるんだけど……」
「ああ、効果はそのままで、香りを新しく調合すればいいんだよね?」
「そう!」
「香りに関しては、どういうものが良いのか指定してくれよ」
「あれ?でもテオドールにはシリルが作ってなかった?」
「それは、身内だから」

 テオの香りはイメージしやすい。なんたって、小さい頃から一緒にいるわけだし。それに、弟にあげる香水ならば何の責任も無い。

 けれど、王太子殿下とギルバートのイメージの香りなんて。
 抽象的過ぎておれには判断できない。

「身内、ねぇ……。
 ま、いいわ。さすが、持つべきものは精霊医薬師の友人よね。効果も完全保証されたものが安心安全に作れるなんて。
 なんだか、キャラクター商品作ってるみたいで、超楽しい!」

 ミアはおれの腕前を信頼してくれているんだな。嬉しい限りだ。

「しかも、タダで!!」

 前言撤回。上手いこと利用されている感が否めない。

 まあ、言われなくても、ミアの言うようにタダで作るけどさ。

 おれにとっては、趣味とも言えない息抜きの延長のような作業だから、それでお金をとろうなんて考えてはいない。

 それが、前途ある子供たちの未来の足しになるのなら、よろこんで協力する。
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