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Ⅳ.お腹いっぱいで幸せ編

12.俺は、どこまでも飛んでいける④

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 久しぶりに感じる、ルルドの体の重みと、肌の感触。そして、ひどく懐かしい温かな体温にどくどくと鼓動が駆ける。

 そして、初めて感じる俺とルルドをまとめて覆う、熟した果物のような甘い芳香に、ぐらりと酒に酔ったような感覚に襲われた。

「あー……もう。お前はよ……。マジでいうこと聞かねぇな」

 これまで必死に押し込めていた熱に油を注ぐには十分で。

 一気に滾った。俺の我慢も理性も、キレイさっぱりサクッと吹き飛んで、俺は思いのままにルルドを強く抱きしめた。

「え?……――ふあっ!」

 ルルドと密着して体重が俺にかかる。首筋に顔をうずめて、ルルドの柔らかな髪を感じて。

「ルルド」

 愛しい奴の名を呼んだ。

「んっ……どうしたの?ヴァル」

 込み上げてくる想いが鮮烈すぎて、俺はただ、名前を呼ぶことしかできなくて。

「ルルド」
「なに……?」

 この重み、この体温、この感触。そして、これまでにない甘く俺を吸い寄せるルルドの匂い。

「ルルド」
「……うん」

 ルルドが、ここにいる。確かに今、俺の腕の中に。

「ルルド……ルルド」
「うん。……うん、ヴァル」

 何度読んでも呼び足りなくて、俺は繰り返しルルドの名前を読んだ。
 そのたびに俺の中にある、ルルドの真名に火が灯って、確かな繋がりを感じさせてくれた。

 頬に触れた冷たい感触に視線をやると、ルルドがはめている俺が作った首飾りが見えた。

 こんなもんでこいつを縛れるなんて思ってねぇけど。
 それでも、俺のありったけの独占欲がつまった、俺の願いがつまった……。

「大切にしてくれてんだな……」

 輝きを失っていない銀色に、きらりと光る紫色に、胸がいっぱいになった。

 もう、こんなのたまらねぇだろ。

「え?なに……んっ」

 俺はルルドの後頭に手を回し、ぐっと顔を寄せてうっすらと開いた唇を奪った。

 驚きにルルドが強張ったのは一瞬で、力の入っていた唇がふんわりと柔らかくなって、俺のと馴染む。

 俺がルルドを食めば、ルルドが俺を食む。薄い舌がぺろぺろと俺の唇をなめて、もっとを催促する。
 可愛くてたまらなくて、舌を差し出し絡めて、ぬるりと触れあえば、ぴくぴくとルルドの体が小刻みに震えた。

「あっ……ん、ヴァル……もっと」

 口の中を啜られて、くちゅくちゅと湿った音を響いて、ルルドの喉がこくりと上下する。

 貪り、貪られるような口づけが、俺とルルドの気持ちをそのまま物語っていて、触れあったところから広がる熱は、すぐに全身に行き渡った。

 ははっ……そうだよ。
 こいつはこういうヤツだった。
 
 わかってたじゃねぇか。だから、さっさとこうしとくべきだった。

「こっちの計画も、予定も、全部無視でめちゃくちゃにしやがる」
「ん……ぼく、そんなつもり……っ」
「いいんだよ、それで」

 そうだ。それでいいんだよ。

 だって俺は、こうしてルルドに振り回されんのが、悪くねぇって思ってるんだから。

 俺もいい加減ルルドに毒されてる。

 俺の進む先には、必ずルルドがいる。
 これって結局、俺はルルドが選んだ道しか進めねぇってことで。

 いや……。
 道……じゃねぇな。

 そうだ。あの空を飛んでる感覚と同じだよ。

 何もない青い澄んだ空間を、自由に飛んでる、あの感覚。

 自由でいて、風にあおられ、轍もなく方向も見失いやすい。
 いつ落ちるかわからない不安や恐怖と隣り合わせで。

 なのに、病みつきになる心地よさと、無視できない沸き立つ期待が、胸をいっぱいにする。

 俺はルルドと共に、広大な空を飛んでる。

 夢中で俺の口を貪るルルドの腰を引き寄せれば、互いの下半身がぐっと重なり合う。

「ひゃっ!」 

 びくっとルルドが跳ねて、唇が離れた。

「んんぅっ……あ、ヴァル」

 うっとりと目元を染めた悩まし気な表情に、艶めいた吐息で身悶えるルルドを見れば、もう自分の考えていた計画なんて、完全にどうでも良くなった。

 ああ、そうだよ。
 俺だって、ルルドが欲しい。

 今すぐに。

「ルルド……好きだ」 
「んっ……あ、……ヴァルぅ……あっ」

 真っ白な美しい髪を梳きながら、頬に、鼻先に、額に、こめかみに口づけを落とす。そのたびにルルドは小さな甘い声を漏らしながら、気持ちよさそうに喉を反らした。

「俺は、お前が好きだから……お前としたいことがあんだけど」

 俺は視線で、言葉で、触れて、触れたところすべてから、全身でルルドを求める。

 ルルドがふるふるっと身を震わし、真っ黒な瞳が濃密な蜜をたたえて俺をとらえた。
 
「んっ……僕も。僕も、したい。ヴァル、しよ。『好きな者同士ですること』」

 口元で、甘く囁くように誘われて。



 ああ。これだから。
 俺はルルドが可愛くて、愛しくて仕方ないんだ。
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