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Ⅳ.お腹いっぱいで幸せ編
10.俺は、どこまでも飛んでいける②
しおりを挟む突然、好きな奴が、目の前でベッドの上でストリップ始めるって、何だ一体。
俺の身にもなれ。馬鹿が。
はぁ……ったく、恥ずかしがんのと、そうでないとこの感覚が狂ってんだよな。こいつ。
俺にも色々予定があるんだよ。
じゃなきゃ、玄関入った時点で押し倒してるわ。
お前だって撫でられただけで気持ち良くなんだろ。あんなとろけた顔されたら、俺だって我慢できねぇんだよ。だから撫でるのだって我慢して、抱きしめたいのもこらえてんのに。
頼むからこれ以上、煽ってくんな。
「………そういえば、ルルド。俺がやった服はどうしたんだ?」
「えーっと………」
「なんだ?捨てたのか?」
これまで微妙に気になってたことを、尋ねてみる。思いの外、勇気がいった。
まぁ、竜だもんな。別に人の服なんて要らねぇか。だとしても、結構ショックだ。
「捨ててないよ!捨てるわけないじゃない!」
と、押し倒さんばかりに前のめりに訴えられて、俺の方が仰け反る。
「むしろ、逆っていうか……」
「逆?」
「だから、その……大切にしないと、すぐにヴァルの匂いが……あ、いや、ほらっ!ボロボロになっちゃうでしょっ!
だから、ヴァルからもらったこの鞄に全部まとめて大事にいれてるんだよ」
ルルドは肩から下げた鞄をぽんぽんと叩く。
何をそんな必死に弁明してんのかわからねぇけど……。
ルルドが俺自身や、俺の物の匂いを嗅いだり、それに執着してまるで巣でも作るみたいに丸まってんのなんて、今更だけどな。
まさか、気づかれてないとでも思ってんのか?こいつ。
「ふーん……なるほどね」
なるほど。服もその鞄の中ね。
ルルドを見つけた時も、枕みたいに顔のせて丸まってたしな。
ああ、鞄はずっと持っててくれたんだなって嬉しかったよ。
確かに、前ルルド本人が言ってたように、この白い服にその鞄はあってねぇけど。
でも、問題はそこじゃねぇ。
問題は、限界までぱんぱんに膨らんだこの鞄の中身だよ。
服を入れてるにしても、膨らみ方からして入ってんのは服だけじゃない。
絶対ない。
気になる。
気になるが………でも、なんでだろうな。
何が入ってんのか、検めたら駄目な気がするんだよな。
で、遅かれ早かれ知ることになんだろうな。
そんな確信がある。
だから、俺はその時を待つことにした。なんせ、時間はいくらでもあるんだから。
「ヴァル……あのね」
「あ?」
「さっきのベッドの話だけどね。
僕、別に……ヴァルと一緒に寝るのがイヤとかじゃないんだ。ホントにホントだよ?
……その、改めて一つのベッドで寝るってなったら、ちょっと恥ずかしかっただけで……」
ああー……だ か ら。
「分かったから、もう気にす――」
「あと、僕、あの狭いベッドでヴァルとぴったりくっついてる感じも好きだったなぁ、なんて」
「ぐっ……」
防御不能の不意打ちに、ズドンと胸を撃ち抜かれて、俺はそのままうずくまった。
これ、どう考えても、殺されんのは俺の方だろ。毎秒毎分、命の危機が訪れてるわ。
「ど……どうしたの、ヴァル?
さっき、体も精神も異常がないか、ちゃんとチェックしたつもりだったけど……。
もしかして、どこかに違和感あるの!?」
「違うわっ!ベタベタ触んなっ!乗っかってくるんじゃねぇよ!この馬鹿!」
俺の胸元をまさぐりながら、圧し掛かってきたルルドを、慌てて押し返したものの、
「ホントにホント?大丈夫?」
心配そうにゆらゆらと揺れる黒い瞳に、はっとして言葉を飲む。
ルルドの表情には、複雑な不安と憂いが入り混じっていて。
「はぁ……別に、眷属になったからって何ともねーよ。
それに関しては、むしろ逆っつーか……。
意外とこんなもんかって思ってたとこだ」
俺の姿形は全く変わっていない。
角が生えるわけでも鱗ができるわけでも、毛が生えるわけでもなかった。
ただ、俺の身体を一定の規律をもって流れる竜気は、確実に人ならざる者の証であって。
「……なら、良かったけど」
「竜の眷属になるなんて……不安が無かったっつったらウソになるからな」
「……そう、だよね……」
「お前の食いしん坊属性まで同じになったらどうしようかと」
「…………へ?ちょっと、ヴァルそれって――」
「あと、うじうじ属性も」
「っ!……ううっ……」
俺の体が心配なのと同じくらい、俺が後悔してるんじゃないか、ルルドは心配なんだもんな?
お前が考えてる不安くらい、お見通しだっつーの。
ルルドは“澱み”に堕ちんのと同じようなもんだと言っていたが。
同じ人外になるにしても、大違いだっつーの。
自分でもわかるくらい、今の俺はルルドの気配と似通っている。
それは、俺が竜に準じた、ルルドに近しい存在に変化したことを意味している。
それが嫌なはずねぇのにな。心配いらねぇっつーの。
「残りの家具や必要なものは、まだまだたくさんあんだからよ。
一緒に作るなり、選ぶなり……ぼちぼち考えようぜ」
「………僕も一緒に考えて良いの?」
「だから。俺たちの家だっつってんだろ。俺一人にやらす気か」
「っ!……ううん。一緒にする!僕にも色々させて!」
「ああ。時間はいくらでもあるから、焦る必要もねぇ。
好きなだけうじうじ悩めるし、好きなだけ凝れる。最高じゃねぇか。
楽しみだな、ルルド」
「うんっ!ヴァル、僕頑張るから!」
ほどほどに、な。まぁ、これだけ人里離れてるんだ。さすがに、大した影響はねぇだろう。
「ああ。こっちこそ、よろしくな」
「僕、もう絶対にヒモにはならないからね!期待しててね!」
ひも……てなんだ。紐?いつ紐になったんだろうな、こいつ。
まぁ、どうでもいいか。ルルドが意味わかんねぇこと言うのなんて、いつものことだ。
ぐきゅるるうるううう~……
と、ここでいつもの腹の虫が雄叫びをあげた。
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