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Ⅳ.お腹いっぱいで幸せ編
7.俺は、ルルドをもてなしたい③
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「なんだよ。お前ここまできて、別々に暮らすつもりかよ」
「ううんっ!そうじゃない!……そうじゃないけど……。
なんか、びっくりしちゃって………」
ルルドはぶんぶんと首を横に振り、もごもごと言いよどむ。
眦を赤く染める様子からは、肯定的は感情が伺えるのに。
びっくりってなんだ。びっくりって。
どういう反応だ……これ。
慌ててるっつーか、困惑してるっつーか……。
まるで思いもよらない提案だったような反応されたら、俺だって戸惑う。というか、普通に傷つく。
まぁ、この期に及んで別々に住むなんて、絶対にさせねぇけど。
何とも言えない憂いに、俺の胸がざわついていたところでルルドが、
「えへへ。なんだか、僕たちホントに新婚さんみたいだね?」
ぽわわわあぁぁ……っと頬を上気させて、照れながらそう言った。
で、もう色々吹っ飛んだ。
「はぁ……お前は……」
ぐらぐらと煮える頭を思わず抱える。
意味わかって言ってんのか、単に何もわかってねぇのか……。
新婚ってなんだよ。俺たちいつ夫夫になったんだ。
いやまぁ、俺からすれば願ったり叶ったりだがよ。
こいつ、ぼんやりしてる割に、突然とんでもねぇことをサラッと言いやがる。
………で、ルルドは何で玄関の前で、にまにまと緩んだ顔で笑っているんだ?
まぁ、きっと。ルルドを見てる俺も同じようにだらしねぇ顔してんだろうけど。
ルルドの視線の先には、玄関扉に備え付けた小さな扉があった。
膝上の高さほどある扉は、ドアノッカーを取っ手にしてあり、そこを引けば玄関とは独立して開閉できる作りになっている。
これは、獣用の出入り口だ。
うまり……平たく言えば、あいつが犬だと思ってた頃につけた、ルゥ専用の出入り口だった。ドアノッカーなら、賢いルゥであれば、簡単に口で開け閉めできると踏んだんだが……。
それに気づいたのか?こんな扉なくても僕出入りできるのに、ていう笑いか?
……………いや、ねぇな。
『田舎でのんびり白い犬でも飼って、手作りのものに囲まれて細々とでも長生きすること』
この言葉を口にしたときに俺が言った『白い犬』が、そもそもルルド自身のことだなんて、思いもしなかったようだし。
つーか、今もわかってねぇだろ、これ。こいつ、たまたま白い毛並みが自分も該当してラッキー、くらいにしか思ってねぇ。間違いなく。
ましてや、あの頃から、俺がルルドとここで暮らすことを考えて、それを支えにしてたなんて……。
こいつは、思ってもねぇんだろうな。
「中に入ってみてもいい?」
でもいいんだよ、俺は。
ルルドが何もわかって無くても、何も知らなくても。
こうしてルルドが今、俺の目の前にいるだけで。
黒い瞳を爛々と輝かせて、この家を前に楽しそうにしてるだけで。
「ああ、もちろん。
……つっても、急ごしらえだからな。まだ最低限のもんしか揃ってねぇぞ」
実際、ここ1年半ほどは体調やら忙しさやらルルドがいたこともあって、構想だけはふくらんだが、手をほとんどつけていない。
いずれはここに住めればと夢想していたものの、ちょっと前までは現実になるかも怪しい夢の話だった。
今回、ルルドがこの土地にいると分かったから、急遽、寝て食うくらいできるよう整えたものの、手入れが言い届いているとは言い難い。
ぎぎっと扉の蝶番が鈍い音を立てて、玄関が開く。
あー……ほらな。ここも油差さねぇと駄目だ。
「わあぁー……」
玄関を入ると、そこはすぐに居間だ。
と言っても、まだ何も置かれていない、まっさらな板張りの床しかねぇけど。
何もないだだっ広いだけの場所の何が楽しいのか、ルルドはくるくると身体ごと回りながら部屋の全体を見渡していく。
軽やかなステップに白い衣がひらひらと舞って、まるでダンスでもおどってるみたいだ。
真ん中まで踊り出たルルドは、ひっくり返るんじゃないかと思うくらいの勢いで天井を仰ぎ見た。
「外から見るより、ずっと天井が高いんだねー。大きな梁の木なんて、僕より年上かも。
照明がとってもステキ」
二人の家なんて言っておきながら、俺はまだわかってなかったらしい。
ルルドが実際ここにいるのを見て、やっと実感がわく。
俺の作った場所に、俺の夢だった現実に、ルルドがいる光景ってのは、何とも言えず感極まるものがある。
じん、と押し寄せてくる鮮烈な感情に、俺は自分の手を握って、開く。
頭の先からつま先までを意識して、自分をめぐる竜気を確かめて、ふぅ……と小さく息を吐いた。
ああ。俺。本当にルルドの眷属になったんだな。
俺は、黒き竜であるルルドと存在を共にする……わかりやすく言えば、命を分かち合う存在になった。
思ってたよりずっといい。ルルドとの繋がりを、以前よりもっと深く強く感じることができる。
正直、こんなにいいもんだとは思ってなかった。
俺が一人、感慨にふけってるのをよそに、ルルドはひたすらテンション高く、バタバタと動き回る。
埃っぽくこもった空気を入れ替えるため、居間の窓を開けた。
「おい、ルルド。そっちの窓も開けてくれ」
「はーい」
俺の指示でルルドが窓を開ける。
窓を開ける竜、か。
たったそれだけの行為が、きっと珍しい光景なんだろうな、なんて思ったりするわけで。
俺にとっては、この素直さっつーか、従順さっつーか……ルルドのこういうとこも全部、ホントたまんねぇんだよな。
さっと空気が流れて、森の清浄な空気が部屋に満ちた。
「ううーん……。風が吹き抜けて気持ちいいなぁ」
日当たりと風通しには、それなりに気を付けたつもりだ。
吹き抜けていく風にルルドの髪がさらさらと流れ、白い衣がはためく。目を眇めて窓の外を眺める、穏やかな表情のルルドは凛々しくも美しくて。
「綺麗だな」
と、思わずこぼれた言葉に、ルルドの視線が俺へと向いた。
大きく見開かれた瞳に、射し込んだ光がキラキラと反射して、あまりに眩い様に息を飲む。
「ホント、キレイな場所だね!」
お前はそうくるだろうな。うん。
まぁ……わかってたよ。
「ううんっ!そうじゃない!……そうじゃないけど……。
なんか、びっくりしちゃって………」
ルルドはぶんぶんと首を横に振り、もごもごと言いよどむ。
眦を赤く染める様子からは、肯定的は感情が伺えるのに。
びっくりってなんだ。びっくりって。
どういう反応だ……これ。
慌ててるっつーか、困惑してるっつーか……。
まるで思いもよらない提案だったような反応されたら、俺だって戸惑う。というか、普通に傷つく。
まぁ、この期に及んで別々に住むなんて、絶対にさせねぇけど。
何とも言えない憂いに、俺の胸がざわついていたところでルルドが、
「えへへ。なんだか、僕たちホントに新婚さんみたいだね?」
ぽわわわあぁぁ……っと頬を上気させて、照れながらそう言った。
で、もう色々吹っ飛んだ。
「はぁ……お前は……」
ぐらぐらと煮える頭を思わず抱える。
意味わかって言ってんのか、単に何もわかってねぇのか……。
新婚ってなんだよ。俺たちいつ夫夫になったんだ。
いやまぁ、俺からすれば願ったり叶ったりだがよ。
こいつ、ぼんやりしてる割に、突然とんでもねぇことをサラッと言いやがる。
………で、ルルドは何で玄関の前で、にまにまと緩んだ顔で笑っているんだ?
まぁ、きっと。ルルドを見てる俺も同じようにだらしねぇ顔してんだろうけど。
ルルドの視線の先には、玄関扉に備え付けた小さな扉があった。
膝上の高さほどある扉は、ドアノッカーを取っ手にしてあり、そこを引けば玄関とは独立して開閉できる作りになっている。
これは、獣用の出入り口だ。
うまり……平たく言えば、あいつが犬だと思ってた頃につけた、ルゥ専用の出入り口だった。ドアノッカーなら、賢いルゥであれば、簡単に口で開け閉めできると踏んだんだが……。
それに気づいたのか?こんな扉なくても僕出入りできるのに、ていう笑いか?
……………いや、ねぇな。
『田舎でのんびり白い犬でも飼って、手作りのものに囲まれて細々とでも長生きすること』
この言葉を口にしたときに俺が言った『白い犬』が、そもそもルルド自身のことだなんて、思いもしなかったようだし。
つーか、今もわかってねぇだろ、これ。こいつ、たまたま白い毛並みが自分も該当してラッキー、くらいにしか思ってねぇ。間違いなく。
ましてや、あの頃から、俺がルルドとここで暮らすことを考えて、それを支えにしてたなんて……。
こいつは、思ってもねぇんだろうな。
「中に入ってみてもいい?」
でもいいんだよ、俺は。
ルルドが何もわかって無くても、何も知らなくても。
こうしてルルドが今、俺の目の前にいるだけで。
黒い瞳を爛々と輝かせて、この家を前に楽しそうにしてるだけで。
「ああ、もちろん。
……つっても、急ごしらえだからな。まだ最低限のもんしか揃ってねぇぞ」
実際、ここ1年半ほどは体調やら忙しさやらルルドがいたこともあって、構想だけはふくらんだが、手をほとんどつけていない。
いずれはここに住めればと夢想していたものの、ちょっと前までは現実になるかも怪しい夢の話だった。
今回、ルルドがこの土地にいると分かったから、急遽、寝て食うくらいできるよう整えたものの、手入れが言い届いているとは言い難い。
ぎぎっと扉の蝶番が鈍い音を立てて、玄関が開く。
あー……ほらな。ここも油差さねぇと駄目だ。
「わあぁー……」
玄関を入ると、そこはすぐに居間だ。
と言っても、まだ何も置かれていない、まっさらな板張りの床しかねぇけど。
何もないだだっ広いだけの場所の何が楽しいのか、ルルドはくるくると身体ごと回りながら部屋の全体を見渡していく。
軽やかなステップに白い衣がひらひらと舞って、まるでダンスでもおどってるみたいだ。
真ん中まで踊り出たルルドは、ひっくり返るんじゃないかと思うくらいの勢いで天井を仰ぎ見た。
「外から見るより、ずっと天井が高いんだねー。大きな梁の木なんて、僕より年上かも。
照明がとってもステキ」
二人の家なんて言っておきながら、俺はまだわかってなかったらしい。
ルルドが実際ここにいるのを見て、やっと実感がわく。
俺の作った場所に、俺の夢だった現実に、ルルドがいる光景ってのは、何とも言えず感極まるものがある。
じん、と押し寄せてくる鮮烈な感情に、俺は自分の手を握って、開く。
頭の先からつま先までを意識して、自分をめぐる竜気を確かめて、ふぅ……と小さく息を吐いた。
ああ。俺。本当にルルドの眷属になったんだな。
俺は、黒き竜であるルルドと存在を共にする……わかりやすく言えば、命を分かち合う存在になった。
思ってたよりずっといい。ルルドとの繋がりを、以前よりもっと深く強く感じることができる。
正直、こんなにいいもんだとは思ってなかった。
俺が一人、感慨にふけってるのをよそに、ルルドはひたすらテンション高く、バタバタと動き回る。
埃っぽくこもった空気を入れ替えるため、居間の窓を開けた。
「おい、ルルド。そっちの窓も開けてくれ」
「はーい」
俺の指示でルルドが窓を開ける。
窓を開ける竜、か。
たったそれだけの行為が、きっと珍しい光景なんだろうな、なんて思ったりするわけで。
俺にとっては、この素直さっつーか、従順さっつーか……ルルドのこういうとこも全部、ホントたまんねぇんだよな。
さっと空気が流れて、森の清浄な空気が部屋に満ちた。
「ううーん……。風が吹き抜けて気持ちいいなぁ」
日当たりと風通しには、それなりに気を付けたつもりだ。
吹き抜けていく風にルルドの髪がさらさらと流れ、白い衣がはためく。目を眇めて窓の外を眺める、穏やかな表情のルルドは凛々しくも美しくて。
「綺麗だな」
と、思わずこぼれた言葉に、ルルドの視線が俺へと向いた。
大きく見開かれた瞳に、射し込んだ光がキラキラと反射して、あまりに眩い様に息を飲む。
「ホント、キレイな場所だね!」
お前はそうくるだろうな。うん。
まぁ……わかってたよ。
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