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Ⅲ.大好きな卵編

77.僕、迷子のお知らせ希望してませんけど……?③

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「俺、一応院長の養子なんだよな」
『え?』
「あの家の人たち、揃いも揃って土地の管理や運営に全然興味ないからな。たまに俺が来て、わずかばかりの整備をしてたんだよ。一応」

 え?ええ?

『ええぇぇぇーーっ!!??』

 今なんかすごいことさらっと言わなかった? 

『じゃあ、ヴァルと院長って、実は親子なの!?』

 初耳なんだけど!

「親子っつーか……神官になるときに家名がないと駄目だとかなんとかで、手続き上必要だっただけだ。
 後継ぎはちゃんと別にいるし……まぁ、皆あんな感じだけど」
『へぇ……なるほど……?』

 ええー……そんなもん?ヴァル、あっさりし過ぎでは?

 ていうか、院長って結婚してたの?子供いたの?
 ……まぁ、正直に言えば、院長の家のこととか、それほど全然興味ないけど。
 ヴァルが、「息子になら、何回か孤児院で会ってるはずだぞ」とか言ってる。

 そんなの覚えてるはずないでしょ。キリッ。

 ああ、でも……そっか。
 だから、ヴァルはここに来たんだね?

 なーんだ。そうか……だからか。ふーん。
 別に僕を探しに来たわけじゃ無いのか……。

 ……はぁ、僕ってば、すごくガッカリしてるじゃない。わかりやすく、しっぽがくったり元気なくなっちゃったじゃない。

 うーん……でも待てよ。

 これってつまり、実は地元が同じでした、みたいな?

 いや…………。

 実家に帰ったら、実は実家が同じだった、みたいな?

 何それ。もはや運命的じゃん。

 ……………はっ。いやいやいやっ!喜んでる場合じゃないから!!
 僕はヴァルから離れるために、ここに来たのに!

 ふさっとしっぽが揺れる気配に、僕は身体をぶるぶると震わして、気を引き締める。

「神官辞めたから、別にさらに家名なんて必要もねぇし」
『え?ヴァル、神官辞めれたの……?』
「ああ。辞めるときは、大変だったがな」
『だろうね……』

 だってヴァルは、優秀だから。
 ヴァル一人がいれば、大抵のことはどうにかなるレベルでヴァルはすごいもんね。

 僕と違って。

「竜石が無なくなった混乱の中で、竜気術が唯一使えるっぽい俺を引き留めるのに神官どもが必死過ぎて、纏わりつかれてひどい目にあったぞ」
『………ユーリをあっちの世界に戻すのに、膨大な竜気が必要だったから……』

 でもさ、ヴァルが引き留められたのは、竜気術が使えるってだけじゃないと思うよ?
 ヴァルが、ちゃんと周りの人を見てるからだよ。周りの人と生きてるから。

 うん。やっぱりヴァルは人の中で、ちゃんと幸せに生きていける人だよ。

「まぁ、結局竜気術を唯一使えるおかげで、問答無用で全部返り討ちにしてやったけどな」
『おおー……』

 うんうん。ヴァルは僕の竜騎士だから、竜石が無くても黒い竜気を使えるからね。

 でもそれも……ね。
 ヴァルが僕の竜騎士じゃなくても、ヴァルは簡単に返り討ちにできたと思う。

『ヴァルに敵う人なんて、もはやいないから。ヴァルは安心して好きなことしたらいいと思うよ』
「なるほどな。それも狙いか。ルルド」
『ふえっ?!』
「竜石なんて消費しなくても、竜は竜気をいくらでも使えんじゃねぇのか」
『………そ……それは……』
「それを、わざわざ竜石から竜気を使って……わざと、竜石消して。竜気術を使えねぇようにしたんだろ?」

 じっとりとねめつけるヴァルの紫色の瞳は、すべてお見通しだと物語っていて。

『え……えーっと……なんのことかなぁ……』
「とぼけんな。全部、俺のため……つーか、お前がいなくなっても、俺が脅かされないように、か?」
『そんなつもりじゃ……』

 そんなカッコイイものじゃないよ。

 せめてもの償いっていうか。
 ………償いにもなってない。

 だってこれまで、ヴァルは……ヴァルだけがたくさんのことを一人で背負ってきたんだから。

 ちょっとくらいヴァルだけが得することがあってもいいって、そう思っただけだよ。

 そうすることで、ヴァルがちょっとだけでもいい思いして、安全で、誰にも邪魔されずに、好きなことができたらって、そう思っただけ。

「ワームを黄金竜の長に委ねて、終活のつもりか?」

 うっ……。

「ヒクイドリの羽毛が、あったかいだと?
 んなのは、お前の毛並みの足元にも及ばねぇよ」

 そ……そう?えへへ。そっか。ヴァル、そんなに僕の毛並みが好きなんだね。

 ………って、そうじゃない。そうじゃないよ。

「ヒクイドリに、水牛、さらに畑のワームで……竜の長揃い踏みでもって、俺を……俺の大事なもんを守ったつもりか?」

 だってテティもグノもリッキーもヴァルにご迷惑おかけしたでしょ?ちょっとくらい、償ってもらわないとね。

「一体俺は何に襲われんだよ」
『…………それは……』

 だって、どんなにヴァルが強くても、大丈夫だって思っても、不安だったから。
 どれだけヴァルの周りに固い守りを敷いても、またヴァルが脅かされるんじゃないかって。

 僕は怖かったから。

 僕の首を拘束していたヴァルの腕がほどけて、僕の顔をヴァルの両手がもふっと包む。

「ルルド。俺の一番大事なもんをお前わかってねぇじゃねーか。
 お前がいなきゃ、全部意味ないんだよ。駄竜」

 正面からじっと真剣な眼差しに射抜かれて、僕は気まずくて、いたたまれなくて、きょろきょろと目を彷徨わせた。
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