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Ⅲ.大好きな卵編

69.俺は、ルルドと道を歩みたい②

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 ルルドはユーリに対して、ただ事実を述べるように淡々と言って聞かせた。


「親が理事長をしてる学校で、周りの学生や先生からちやほやされて、人気があるんだと勘違いできるほど、流依はおめでたく無かったってこと」

「学校の用務員のおじさんは、昔祖父の秘書をしていた人だったって知ってる?
 冷遇されても、流依を守るためにずっと学校に残ってくれてたんだ。
 屋上の鍵を開けてくれたのも、その人だよ。流依が落ち着ける場所があればって。
 色んなとこに防犯カメラがあって、いつも流依の安全には気を付けてくれてた」

「本家の屋敷の庭の管理費や庭師の手配を叔父さんがしてくれてたでしょ?
 本家を支えるために当然のことだって、あの人たちは何かを勘違いして、疑いもしなかったみたいだけど。
 庭師のおじさんは、流依が困ってるといつも助けてくれたんだ」

「両親が流依を手元に置きたかったのは、世間体と……祖父が流依にいくらかの資産を残したからだよ。
 生前贈与として教育資金、あとは遺産として、それなりの額をね。
 孫が遺産を相続するには、遺留分だとか法定相続人だとかの問題がある。
 それが分かっていたおじいちゃんがあえて遺言で流依に遺産を残したのは、信頼できる弁護士の先生を、流依の特別代理人にするためさ。
 流依の財産を……ひいては流依を守るために。
 叔父さんも、色々と協力してくれて、流依は両親にも気づかれないように、資産を運用していたんだ。こっそりとね。
 高校を出たら、家を出て自立するつもりだったんだよ。
 国内だとしつこい両親から逃れられないだろうから、海外に行く予定だった。
 それがまぁ、死んで違う世界に来るなんてね。何が起こるかわからないものだね」

「ちなみに流依が死んだら、流依の資産は教育に携わる財団に寄付することになってる。
 寄付を大々的に発表するような手筈になってるから、両親も遺留分を放棄しないと教育者としての資質を問われるだろうね?
 そういう世間体、一番気にする人たちだから、放棄せざるをえないはずだ」

「もっとも、両親が流依にしてきたことや、してこなかったこと。適宜各方面に周知されるようになっているから。今の地位にはいられないだろうね」

「優利は何も知らなかったでしょ?いつも流依の陰に隠れていたからね」

「その顔の傷も、動かない右腕も、この世で負った怪我は、あっちでは治せないよ。
 あと、本来あるべき場所と異なる世界にいたことで身体と心のみならず、魂までもが蝕まれてるから。
 これからは、あっちの世界では大変かもしれない。
 でも、僕には優利を帰してあげる以外、どうしてあげることもできないから。ごめんね」

「最後に良いことを教えてあげる。
 悪いことをしたら、ごめんなさい。好きな子には、優しくする。あとは、何かしてもらったら、ありがとう。だよ。
 僕もまだまだだから……お互い頑張ろうね」

「じゃあね。あの人たちによろしくね」

 最後、白んだ輝きの中で、ユーリがルルドへと手を伸ばしたように見えた。

「優利。今度こそ、本当にバイバイだよ」

 ルルドのその言葉と共に、光は霧散した。

 そこには、ルルドと3人の竜の長がいて。
 4者はしばし互いに顔を見合って、そしてすぐにルルドを残してふわりと景色の中に溶けるようにいなくなった。




 こうして、予言を体現した異界の者ユーリは、この世から姿を消した。

 予言が始まり、そして終わるこの降誕の地で。

 予言が成る、この地で。



 ――予言、ここに成就す――



 この日、世界中に竜の言葉がもたらされた。

 それはこの世が、真に救済されたことを意味した。

 どうやら俺たちは、予言の先へとたどり着いたらしい。



 *



 俺たちは、帰路に就くこととなった。

 はぁ……気色わりぃ。どいつもこいつも、完全に浮かれてんな。

 予言が成就する奇跡の瞬間に立ち会ったことで、巡礼御一行様は異常な高揚感に包まれていた。

 次々明らかとなった歴史と認識を覆す事実と、突如襲来した対応困難な不測の事態に、満身創痍だった連中が、今や怪我の痛みなど忘れたかのように浮足立っている。

 ついさっきまで、まさにこの世の終わりみたいな面構えだったくせに。

 どうせ、竜のご尊顔を拝んだ事実やら、あの眩しいばかりの奇跡の光景に、各々が勝手に竜に仕える神官としての本来の責務だとか、己の今後の身の振り方だとかに、発奮してんに決まってる。

 ったく、馬鹿だろ。マジで、うざいな。

 ただ、元々ここにいないはずだった奴が、元に帰った。それだけのことじゃねぇか。

「………………で、なんでお前が、この世の終わりみたいな顔してんだ。ルルド」

 散乱した荷物を整理し、帰還の準備を整える恍惚とした異常集団の中で、口をへの字に固く結んだ竜が、じっとりと俺をねめつけていた。
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