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Ⅲ.大好きな卵編

68.俺は、ルルドと道を歩みたい①

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 あの日、あの朝、大神殿の朝礼で見た忘れもしねぇ光景。

 竜の長の彫像の囲まれて、その中心に異界の者が現れた時と同じ見覚えのある光。

 俺の中では、たくさんある苦い記憶の内の、一つだ。

 でも。

 もはや、忘れても問題ない、とるに足らない出来事になってしまった、この世の破滅への秒読みが始まっただったろう、あの日の出来事。

 いつの間に現れたのか、目が眩むほどに眩い光の中に、見覚えのある懐かしくもねぇ竜の長の面々がいた。

 この世のすべてが、ユーリを囲んで、輝いている。

 まるで宗教画のような……今後、きっと実際に絵画として後世に語り継がれるであろう、予言の成就に相応しい神秘的な眺望だった。

 でも俺には……。

 ようやく裁かれる罪人と、もはや逃がさないと追い詰めた断罪人にしか見えなかった。

 こりゃあ、荘厳な光景だな。随分と豪華なお見送りだ。良かったじゃねぇか。さすが竜の神子だよ。



 ルルド。俺もお前と同じこと、考えてたよ。

 俺はずっと思ってたんだよ。

 あいつ、元の世界に戻っちまえばいいのに、てな。
 さっさとてめぇの世界に帰りやがれ、てな。

 やっぱりルルド。お前最高だよ。

 お前、いつも俺の願いを叶えてくれる。

 だって、ルルド、言ってたもんな。
 自分の名前がない石碑を前に、優利がブチ切れそうなあの時。

『この人、異界の者で、竜の神子なんでしょう?こんなところで裁かれるなんて、ありえないじゃない?』

 ってな。

 俺はあの時……俺の行動を止められたのと、結果的にユーリを庇ったお前の言葉にムカついて……。
 てっきり、『降誕の地という聖地すら凌駕して、かつ竜に認められた奴だから、元から裁かれること自体が有り得ない』って言ってると……そう思ったけどよ。

 これってつまり、あっちの世界を知ってる“迷い星異界の魂”として、この世の竜として、お前が直接あいつを、裁く。いや……お前なら裁ける、って意味なんだろ?

 この世の理に通じる竜で、さらにユーリと同質の魂を持つお前なら、ユーリをあっちの世界に帰すことができる。

 竜でない俺には、どんな理屈かわからねぇけど。
 何にせよ、あいつがいなくなんなら、何でもいい。

 綺麗さっぱり、なんの残渣もなく、送り返してやってくれよ。




「****!***っ!!」

 光の中でも、ユーリはまだ喚き散らしているらしかったが、もはやその言葉は俺には聞き取れなかった。

 聞いたこともない音の羅列が、ユーリが口から吐き出されている。

 ルルドには理解できるのか?
 奇妙な表情で、ユーリの言葉をただ黙って聞いている。

「優利はいつもそうだね。
 自分の見たいようにしか見ない。
 欲しいものなら人の物でも平気で奪うし、都合が悪いことは人のせい。
 そうやって、ずっと『流依』に依存して生きてきたんだもんね?」

「***!******」
「だから優利にはわからないんだよ。なんで、この世界に来る前に、あの日の出来事を両親に責められたのか。
 どうして二人しかいなかった屋上での出来事が、両親にバレたのか。
 流依が、あの家の中でちゃんと生きてこれたのか」

「両親に、流依が、いつもされてたみたいに、押さえつけられたんでしょ?
 だから、あっちの世界がイヤになったんだ?
 ホントに単純で、短絡的だね」

「!***っ!……***!!」
「よく考えなよ。立ち入り禁止の屋上に、どうして流依が入れたと思う?」

「………***」
「まだ幼かった流依が、どうしてあんなに大きな柿の木の実が食べられたんだろうね?」

「………**」
「なんで、流依は違う学校に行きたかったと思う?」

「……………」

 ユーリの姿も、声も徐々に遠のき、俺には識別できなくなっていく。
 ただ、対峙するルルドの声と表情が、光に照らされて鮮明に見える。

 ルルドは無表情で、一見するとその精悍な顔からは、何の感情も読み取れない。

 けれど、白い光によって淡い陰影ができたルルドの顔は。
 怒っているようにも、悲しんでいるようにも、憤っているようにも見える。

 何だろうな。あの表情は。

「流依はね。ちゃんとわかってたんだよ。
 本当に信じていい味方になってくれる人と、そうでない人が。優利と違って」

 憐れんでる。

 それが、一番しっくりくる。俺にはそんな気がした。

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