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Ⅲ.大好きな卵編
61.僕、幸せな道を目指します①
しおりを挟むわあぁ………ホントにきれいな紫色だなぁ。
状況も忘れて僕はヴァルにしがみついたままで、きらきらと光る瞳に見入ってしまった。
「懐かしいな」
なんて、ヴァルが言う。
懐かしい?
僕の心臓がドキリっと跳ねた。
なんで、そんなこと言うの……?
まさか、ヴァルは……。
ヴァルも、覚えてるの……?
ぎゅうっとヴァルを掴む手に力がこもって、でも、続いた言葉は、僕の懸念とは異なるものだった。
「あんときも……森の中でユーリにやられて死にかけてたときも。こうやってお前に、引き戻されて、支えてもらったな」
と、本当に懐かしそうな声色で、僕の髪の毛の感触を確かめるように顔をすりすりと擦りつけてくる。
「あんときはお前、まだ白い毛玉だったけどよ」
うんうん。僕、竜体のとき、いつもそうやってヴァルにすりすりしてたね。
「ちょっと会わねぇうちに、ちゃんと一人前の竜になったんだな」
「…………うん」
「これ、黄金竜の長が使ってたのと同じ術だろ。すげーじゃねぇか」
今、僕はヴァルを覆った異質な“澱み”ごと、空間を遮断してる。
黄金竜の長グノがやってた、『ここだけ空間を閉じた』てやつだ。
“澱み”の拡散を防ぐためと、何よりもヴァルの安全のためだ。
今ここだけは、他の場所よりゆっくりと時間が流れてる。
少しだけ身を引いて、ヴァルの様子を窺えば、青い顔でじっとり冷や汗を額に滴らせながらも、とっても穏やかな表情をしていて。
そっか……ヴァルは、覚えてるわけじゃ無いんだ。
そうか。そうだよね。良かった……本当に良かった。
………いや、良くないし!全然よくないから!!
ヴァルってば、なに子供の成長を喜ぶみたいな、微笑ましい感じになってるの?
なんで、一人で和んでるの!?
ホントに状況わかってる!?
「帰ったら、なんかお前の好きな料理でも作って祝うか」
……………え?お祝い?ヴァル、お祝いしてくれるの??
へぇ……そっか。ふーん………うふふふふ。
まぁね。ヴァルは、僕の保護者的な存在だからね。
ヴァルが僕の成長を喜んでくれるのは、僕もとっても嬉しいな。
一緒に喜んでもらえるのって、こんなにあったかい気持ちになるんだね。
えへへ。ありがとー。
おかげさまで、僕、一人前の竜になりました!
ああ、ヴァルのごちそう楽しみだなぁ。
…………って!違うし!
危なっ………あやうく喜ばされて、ごまかされるとこだったじゃない。
まったく、ヴァルは油断も隙もないんだから。
「っ……は」
と、苦痛に荒い息を大きくついて、ヴァルの身体がぐらりと崩れる。
倒れないようにさっと腕を差し出して、ヴァルを支え、ゆっくりと地面へと下ろした。
ヴァルが再度、はぁ……と大きく息を吐いて、
「すまん。大丈夫だ」
なんて、言うから。
僕はもう我慢ができなかった。
「何がどう大丈夫なの!?何も大丈夫じゃないよ!!」
「うっ……つぅ……馬鹿ルルド。デカい声出すな。頭に響く」
「ううぅぅぅ……もうっ!……もう!……もう、もうっ!!」
僕は座り込んだヴァルの胸倉をつかんで、ぐりぐりと額を擦りつけた。
「あー……悪かったって。泣くなよ」
「泣いてないし!」
「いや、泣いてんだろ……鼻水がすげぇぞ。ほら」
「ぶふ……っ」
ヴァルが僕の鼻にハンカチを押し付けてくる。
ええ?どこから出てきたの、この真っ白なハンカチ!
「ほら。ちーん、しろって」
「もうっ!僕、怒ってんだからね!!」
「だから、悪かったって」
「うわ!……うわぁ!それ、全然悪いと思ってないときの謝り方じゃん!」
「んなこたねぇよ。お前に怪我させるつもりは無かった。許せねぇつーなら、なんか好きな──」
「そうじゃないでしょ!!」
僕のこんなかすり傷とか、どうでもいいの!
そもそも、許す許さないの問題じゃないし!
「大丈夫だっつってんのに。
………そういうお前こそ、大丈夫なのかよ」
「だから、僕は大丈夫だってば!」
「怪我じゃねーよ。いや、怪我もだけどよ。つーか、竜が怪我するってなんだよ。怪我させた俺が言うのもなんだけど。
お前、赤銅竜の長から竜気もらったんだろ?まだ、『その時』じゃねぇのに。
だから、どっかおかしいんじゃねーのか?」
「僕は、どこもおかしくないし!
この状況で、きれいなハンカチがさっと出てくるヴァルの方が、ずっとおかしいよ!」
「はぁ……じゃあ、おかしい俺なんかに簡単に傷つけられてんじゃねぇよ」
は?なんて?
ちょっと、待って。聞き捨てならない。
「え。ヴァル。今もしかして、俺なんかって、言った?え?なに、俺なんかって。しかもおかしいって?
ヴァルのこと悪く言うなんて……。
たとえ、ヴァルでも許さないからね!!」
「おかしいっつったのは、お前だろ。
あー……ルルド、ちょっと落ち着けって」
「落ち着けるはずないでしょ!
だって……だって、ヴァル……もう少しで“澱み”に飲まれて、堕ちるとこだったんだよ!!」
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