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Ⅲ.大好きな卵編

47.俺は、結局ルルドより弱い④

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「優利がご飯食べないって、わがまま言ったときだってそうだよ。
 あのままヴァルが作ったものを、さらに悪く言われるのも、粗末にされるのも、僕は嫌だった。
 ヴァルは何も言わないで、あっさり罵倒を受け入れちゃうじゃない。いつも言われてました、今更気になりません、みたいに。
 あれ見てたら、無性にイライラして……あの時の、僕の気持ちわかる?」

 そりゃあ、わかるさ。
 一方的に不条理な不満ぶつけられて、何の反論もせず情けねぇことこの上ない様子見ればな。イライラもすんだろうよ。

「あの時、僕の知らないが確かにヴァルと優利の間にはあったから。
 僕の知らない二人の時間が、ひしひしと伝わってきたから。
 僕は、それがどうしても我慢できなかった!」

 あー……俺、わかってなかったっぽいな。これ。で、今もわかんねぇ。
 駄目だ。思ってたのと違い過ぎて、ルルドの言ってることが理解できねぇ。

「つまり……どういうことだ?」
「だからね。僕の知らないヴァルを……ヴァルとあの人たちのこれまでを見せつけられてるみたいで……。
 僕よりも、昔っから知り合いですって、突きつけられた気持ちになっちゃって……。そわそわ?イライラ?もやもや?して、どうしようもなくなっちゃったってこと!」
「はぁ……なるほど……?」

 見てたらイライラするって……そういう意味かよ。

「好き勝手言われっぱなしが気に入らなかったんじゃねぇのか?なんで、あいつらに言い返さねぇんだよ、てイライラしたってことじゃなくって?」
「え?なんで言い返さなきゃいけないの?
 言い返したら、もっとあの人たちとお話しなきゃいけなくなるじゃない。面倒くさい。ムダにお腹すいちゃうでしょ」

 同感だ。まったくもって、同感だ。いや、そうなんだが……。

「それに優利がご飯食べなかったときに、僕が果物をあげてなかったら、あの黄色い人はどうしたと思う?
 今度はヴァルに頼んだに決まってるよ。そしてヴァルは、なんやかんや言いつつ、自分の持ってたやつを分けてあげたはずだよ。違う?」
「それは……」

 そうかも……しれねぇけど。
 だって、途中で体の方が先に弱って、巡礼を途中棄権されるようなことになったら。ユーリには最後まできっちりやってもらって、最後には……。

 だから、そこまでは一応生きてもらってねぇと困る。

「僕がヴァルにあげた果物は、僕がヴァルのためにあげたものだよ。
 それを他の人にあげるなんて、絶対にイヤだからね!」

 さらにルルドは「それに僕、あの青い果物、きらいだったし」なんてぶつぶつとぼやいている。

「僕……イヤだったんだもん。仕方ないじゃない。どうしても、どうしてもイヤだったの。
 ヴァルが、僕以外の誰かにご飯作るのも、僕以外の誰かのお世話するのも……イヤでイヤで仕方なかったんだから」 

 つまりなんだ。

「お前が……カインやメイナードになんやかんや言って、竜気術使わせて色々やらせてたのも、俺があいつらの世話をしなくていいようするため……ってことか?」
「そうだよ。他に何があるの?」
「………お前。俺が情けなくて、見てらんなかったんじゃないんだな?」 
「ええ?情けないヴァルが?ええー??どの辺が?
 ………あ、情け深い?」
「違う」
「うーん……僕はただ、ヴァルはすごいなって。
 すごくて、強くて、やっぱり何でもできちゃうんだって、再確認して……出来過ぎるからこそ、いろいろしてあげたくなっちゃうんだろうなーって、困ったなーって思ってたけど?」
「………いや、わかんねぇならいいんだけど……」 

 情けねぇ俺のこと見たくなくて、失望して、だから俺を避けてたんじゃねぇのかよ。触られたくもねぇってなってたんじゃねぇのかよ。

「じゃあ、何だってお前……あいつらに、俺はこうしてただの、ああしてただの、俺ならこれくらいできるだの……わざわざ言ってたんだよ」

 俺の不甲斐なさに腹が立ったからじゃねぇのかよ。

 俺にあいつらの世話をさせねぇだけなら、何も俺を引き合いに出さなくても、「自分のことは自分でしろ」って言えばよかっただけの話だろうが。

 俺が自分でこれまでやってきたことを主張しなかったり、待遇への不満を訴えなかったから……。

 とっくに諦めて、受け流してた俺の代わりに、お前があいつらにわからせようしてんだと、そう思ってた。

 そう解釈したからこそ、超絶情けねぇ思いに打ちひしがれてたってぇのに。

「え?……だって、それは……。
 だから、くやしかったんだって、言ってるでしょ」
「くやしい?」

 何がだ?

「だからさ……。
 あの人たちの方がヴァルと昔から知り合いでしょ?僕と知り合うよりもずっと前から。
 こうしてお出かけするのも、一緒に行ってるんだよね?僕よりたくさん」
「あー……まぁ、そりゃあ仕事だからな」

 どれも俺が望んだことじゃねぇけど。

「それが滲み出てたの!ずっとずっとずっと!!
 あの、いつもやってもらってますっていうあの人たちの当然の待ちの姿勢と、当たり前にやってあげちゃってるヴァルの慣れた手つき!
 何?何なの?つーかーなの!?阿吽なの!?何見せつけてくれちゃってんの!?
 僕が……僕が、どんな気持ちで、ヴァルとあの人たちのやり取りを見てたかわかる?
 もう、見てるだけで、もやもや、もやもや……もやもや~っっっっと!!
 だから……だから……。
 僕の方が、ずっとずっとヴァルのこと見てるし、いっぱいいっぱい知ってるし、誰よりも一番わかってるって、あの人たちにわからせたかったんだもん!!!」

 なんだそれ。マジでどんな理由なんだよ。世界一、どうでもいいマウントじゃねぇか。

「あーっ!またヴァル笑ってる!!
 なんで僕が怒ってると、いつもそうやって笑うの!」
「そりゃあ、笑わずにはいられねぇからだろ」

 だって………要は……。

 俺が他の奴等の飯作ったり、世話してんのが嫌だって話なんだろ。
 で、ルルドの飯だけ作って、ルルドの世話だけしてればいいって思っちまう。

 他の奴が、ルルドの知らねぇ俺を知ってたり、ルルドの知らねぇ関係があんのが嫌で。
 ルルドが俺のことを一番知ってんだと、そう周りにわからせたい。

 こんなの単なる独占欲と、嫉妬じゃねぇか。

「ううー……もうっ!もう!!
 ヴァルが強くて、お料理が上手で、手先が器用で、美味しくて、イイ匂いで、力が強くて、頭がよくて、察しがよくて、気が利いて、ご飯で、おかずで、デザートで、美味しくて、誰にでも優し過ぎるのが悪いんだよ!」 
「は?ちょっと、待て」

 なんか色々おかしかったぞ、今。

「待たないよ!」

 その後もルルドは似たようなことをずっと喚き続けて、何度も美味しいだの、ご飯だの、優し過ぎるだのと繰り返した。

 ………おかずとデザートっつーのは、一体なんだ?

 わかんねぇが、お前の中の俺がおかしいのはわかった。
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