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Ⅲ.大好きな卵編
41.俺は、贖罪の聖地で迷子になる①
しおりを挟む「わぁ、真っ白だね!まぶしー!!」
「ああ、そうだな」
「はぁ……天たかーい!僕のジャンプでも届かないね!飛べば……ううん、飛ばないから安心してね!」
「ああ」
「柱ふとーい。見て見て、ヴァル。僕、すっぽり隠れちゃうよ。
ここで問題です!僕はどこでしょーか」
「3本目だろ」
「正解!さすがヴァルだね。まわりはじめじめしてるのに、苔も生えてないし、蔦も伸びてないね。変なの、壁もつるつるのピカピカだぁ」
ルルドの言うとおりだな。
竜が作った祠は、じめじめとした湿地帯にあって、異質な存在だった。
大きな柱は、継ぎ目もなく削られた跡もなく、滑らかな質感のままで空へとそびえ立っていた。天を覆うがごとく丸いドーム状の天井の高さは大神殿のそれの数倍はあり、
周囲に生い茂る木々のみならず湿った土壌ですら、その純白の聖域には触れることすら許されないとばかりに避けているようだった。
「ルルド、あんまりはしゃぐなよ」
「はーい」
一応、この世で最も清らかで尊い場所とされる、聖域中の聖域だ。
ルルド以外は……正確には、ルルドと俺以外の面々は、一様に言葉を失っている。ただただ圧倒され場を支配する神聖な雰囲気に飲まれていた。
かくいう俺も……。
なんというか、真っ白で汚れてなくて、……まるでルルドみたいな場所だな。
なんて感想が真っ先に思い浮かんだわけで。
はぁ……俺も、大概だ。ルルドのこと言えたもんじゃねぇな。
「あ!あの真ん中にある大きな石板が、例の石碑ってやつかな?」
先頭を小走りで進むルルドが、広々とした白い空間の真ん中に鎮座するこれまた真っ白な……壁、ともいえるそびえ立つ白い石板を指さして、駆け寄っていった。
ぴりぴりとした息苦しい緊張感が一同を包み、遅かった歩みがついに止まる。
それも、そうだろうな。伝承が本当ならば、あの石碑に名が刻まれていれていれば、あらゆる罪は許されるんだから。
これは逆に言えば、名が無ければ罪は許されねぇってことで。
今、審判の時なのだ。
「ふわぁ……なんか文字がキラキラ光ってるね。きれいな色だなぁ。虹みたい。
何これ?どういう仕組み?」
一向に近づいてくる気配のない連中を無視して、石板の表面を撫でまくってるルルドに寄って一緒に石板を覗き込んだ。
平滑で硬質な白い平面に、凹凸もなくただ浮き上がるような光が描かれていた。
「………なんだ、この……模様は」
「これ、ものすごい古い時代の文字だね」
「文字だと……」
俺には、ワームがうねった跡にしか見えねぇよ。
けど、ルルドが文字だというのならそうなんだろうな。
俺とルルドの様子をうかがっていた連中が、恐る恐る横に並ぶ。
列から一歩前に出たカインが、光る石碑とルルドと俺を順番に見て、
「………君は、これが読めるのか?」
と、尋ねた。
「僕、この世界の言語なら、全部わかるから」
淡々と当たり前みたいに言うルルドに、カインがごくり、と喉を鳴らした。
数回深呼吸をして、カインはメイナードとユーリ、そして審問官として同行している神官たちに視線をめぐらし、同意を得るがごとく一回頷いた。
そして、一同が俺を見る。
………俺、この数日の間で、ルルドの飼い主かなんかと、この場の全員に思われてんだろうな。
「ルルド、読んでくれるか?」
「うん。いいよー。
えーっとねぇ……。光ってるのは二つだね。カイン・バーモンテ、メイナード・エルマンって書いてあるよ。人の名前っぽいね。誰これ?」
お前が、黄色い人、赤い人って呼んでるやつのフルネームだよ。
言ってもどうせ覚えねぇんだろ。で、覚える必要もねぇよ。
「…………あの、他には……。
他には、書いてないのですか?」
と、今度は審問官が尋ねた。
「他?えーっと、その上は光ってないし、なんというか……うん。とっても古そうだねぇ。
えっとねぇ……アーロン・カーリーて書いてあるよ」
アーロン・カーリー。
知らぬ者はいない、けれど知っているからと言って何にもならねぇ、昔の神官の名前だ。
「ルルド、その上は?」
「シャロン・オリバだよー」
これまたさらに昔の名前だった。
審問官は我慢ならないとばかりに、ルルドに問う。
「その上は、何ですか?」
「カルロス・ソーサ」
「その上は……」
「ナダル・ペレス」
と、ここまで読んで、一同が静まり返った。
ルルドは、もはや石碑には興味を失ったのか、その台座に刻まれた凹凸に触れて、浅く掘られた溝の羅列をなぞるように指を滑らしている。
「どうした?」
「うっすらとだけど……人が使った淡い竜気の痕跡だね。これは、ここに来たアーロン・カーリーさんが刻んだ文字みたいだね」
「なんでわかるんだ?」
これまた古い文字だった。
けれど、さっきのワームがうねった文字ともわからない模様とは違う。
俺が古いと認識できるが読めない文字。知識としては、大昔に神殿で使われていたと知っている、聖竜文字と呼ばれる類の文字だ。
「だって、アーロンさんの名前がサインしてあるもん。真実をここに記すってさ」
真実をここに記す、だと?
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