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Ⅲ.大好きな卵編
38.俺は、迷い竜に惑わされる②
しおりを挟むその後も、ルルドとメイナードは、何のかんのと言い合いながらも、仲良く?鍋の火を囲み、メイナードはルルドから火が強いだの弱いだの突っ込まれながら、黙々と竜気術を使い続けた。
メイナードが、夕食の準備の火をつけるなんて。何だこの光景。
もちろん、初めてのことだ。
つーか、こんな雑用を、由緒正しきお家の神官たる自分がするなんて。奴には発想すらなかっただろうよ。
己の神官としての矜持か。はたまた、ルルドの有無を言わさぬ崇高な気配を纏った圧のせいか。
見てるこっちが、ハラハラするっつーの。
最終的には、「ああ!焦げちゃってるよ!もーっ!!なんですぐに言わなかったの!?」なんてルルドが叫んで。
「失敗するのはいいよ。でも、できる振りしないで。
できないことを、できないっていうことの方が、ずっと大事なんだからね!かえって皆に迷惑かかるでしょ!!」
と、至極まっとうな説教をされて、メイナードは追い払われた。
「はぁ……もう、信じられない。貴重なヴァルのご飯を無駄にするなんて。万死に値するよね。これ、サクッと案件でしょ」
なんて平然と言ってのける、ルルドの顔は至って真剣だ。
あ、こいつマジで殺りかねねーな。
「それは……やめとけ」
今はもみ消せねぇから。
これは贖罪の巡礼で、俺のほかにも審問官の神官がいる。罪を重ねる場じゃない。
「わかってるよー。僕が何かしたら保護者のせいになっちゃうもんね。
とりあえず、あの人のご飯を焦げ焦げのところにしとくので我慢するから」
「…………まぁ、お前も食えよ」
「うん!いただきまーす!」
こいつホントにちょろいな。
俺の飯を食わせとけば、あっという間に機嫌が直るんじゃねぇか。
………でもなんだ。この距離感。
座る場所が遠すぎる。人一人分どころか、俺の手がまったく届かない距離を測ってやがる。
前は鬱陶しいくらいに突然抱き着いて、すり寄って勝手に匂いを嗅いできてたくせに……。
合流した翌朝に暖を取るためくっついて寝れば、いきなり吹っ飛ばされるしよ。
あの状況で防御しつつ受け身を取った俺は、結構いけてんじゃねーかと、自分でも感心した。
あんなあからさまに思いっきり拒否されるとは……俺、かなりショック受けてる。正直自分で意味わかんねぇくらい、ぽっかり胸に穴でも開いたんじゃねぇのってくらい、スース―してる。
俺、そんな拒絶されるようなこと、何かしたか?
………いや、したかもしんねぇけどよ。
でもあんなの、こいつにだってそれなりに責任があるだろーが。つーか、イヤならお前も足絡めてくんじゃねぇよ。
で、その直後に人の服は脱がそうとするし、相変わらず俺の後ろをキラキラした眼で付いてきては、役に立とうと一生懸命だし。見えねぇはずの尻尾、ぶんぶん振ってんのが見える。
でも……………絶対に撫でさせねぇんだよな。
はっとしたように、ものすごい速度で遠ざかりやがる。
一体何なんだよ。俺は、色々と欲求不満だよ。
「外で毎食こんなに豪華な食事できるなんて、贅沢だね!」
「………………まあ」
で、相変わらず俺の飯をこの世の最高の御馳走みたいに毎回美味そうに食いやがるし……。
今回はこれまでの旅の中でも日程が長いから、むしろ特に貧相な食事内容なんだがな。
これを豪華だなんて……。
「俺が普段、お前にものすごく質素な食事させてるみたいじゃねぇか」
「ええー?なんで??
だって、こんなじめじめした場所でちゃんとした美味しいあったかいスープが飲めるだけでも、すごく贅沢なことじゃない!」
なんて、前のめりに大声で主張する。
「きれいな水と、乾燥した薪と火が起こせる地面をヴァルが整えて、この環境でも日持ちする食材だって、ヴァルがちゃんと準備してきたんでしょ。
だから、今こうしてその集大成ともいえる美味しいご飯が食べられるんだから!
これがごちそうじゃないなら、何がごちそうなの!!」
「あー……わかったから、落ち着け。こぼすぞ」
一つ一つ言われると、恥ずかしさが半端ねぇ。こいつ、俺を殺す気かよ。
「こぼさないよ!」
ずずずーー……っとルルドは勢いよくスープを一滴残らず飲み干した。
「うーんっ!美味しかったぁ。ごちそうさまでした♡
お片づけは僕がするからね。ヴァルはゆっくり食べてね!」
なんて言って、俺が食い終わるより先に、さっさと食事を終えたみんなの食器を回収し、どういう理屈かわからない術で、その汚れを浄化していく。
もはや、俺は異常だとか突っ込まねぇからな。全部、異常だから。
一瞬でピカピカになったそれらを、せっせとカバンに詰め込んだ。
さらに、慣れた手つきで鍋などの調理器具もしまっていく。手作業で。
ここは手作業かよ。お前ならできんだろ。ぱぱぱのぱとやらでさっさとよ。
ちまちま手作業してんのが、なんでこんなに可愛く見えんだろうな。
はぁ……やっぱりこいつ、とんでもなく可愛い奴だな。
「彼は見事な竜気術を使うな」
「………まぁな」
カインに突然話しかけられて、俺は適当に気のない相槌を打った。
あれがカインには竜気術に見えんのかよ。相変わらずドがつくほど真面目な奴だな。
と、その瞬間。
俺と話すカインを、ルルドの視線が射抜く。
ルルドはすっと目を細めて、笑っているような、ちょっと傲慢な顔でこちらを一瞥して、ふいっと顔を背ける。
あいつ、あんな顔もできんのか。
嘲笑を孕んだ、高圧的な見たことのないルルドの表情にぞくりと背筋が寒くなる。
「……俺は……彼に、嫌われているな。
まあ、……当然だろうが」
カインがルルドに好かれる要素は……そりゃあ、微塵もないだろうな。
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