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Ⅲ.大好きな卵編
37.俺は、迷い竜に惑わされる①
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読んでいただいてる皆様、ありがとうございます。またもや予約ミスで更新が滞ってしまいました。申し訳ありません。
本日は、きちんと3話更新予定です。(11:30、18:30に更新します)
今後もよろしくお願いします。
**********
巡礼の旅に出て、何度あいつらの立てた杜撰な計画を罵ったか知れない。
鬱蒼とした草木の生える、岩の多い未開の湿地というだけでも、歩くのには気を遣う。野生の凶暴な生物や、奇怪な植物が次々と襲ってくる状況は常に気を張る必要があった。
辺りを常に警戒しつつ、想定内とは言え予測不能な襲撃に備えるってのは、そこそこに神経をすり減らしていくもんだ。
けど、これって俺の日常とさして変わらないんだよな。
ルルドと合流して以降、いろんな意味で巡礼は様相を変えた。
つまり……目的を見失うほど穏やかな道程となった。
まず、生物が襲ってこねぇ。
そりゃあ、そうだ。なんたってこの辺りの生物は竜気で育った分、竜の力には敏感なはずだ。
以前の……クラーケンに襲われた頃の腹ぺこで死にかけのルルドにならいざ知らず、以前よりずっと竜として成長したらしいほぼ竜のルルドに食って掛かる奴なんていねぇ。
で、俺とルルドが共にいることで、ユーリの存在で一層乱れたこの辺りの竜気が安定し、知覚として感じると感じざると、心身を震わしていた不穏な威圧感が、いたって普通の凪いだ空気に変わった。
当の本人は、自覚してねぇようだが。
むしろ、竜気が濃いせいで、いつもより“匂い”が判りづらいらしい。
ルルドが合流した直後は、その容姿と、さらに降誕の地まで一人で俺について来た(わけじゃねぇんだけど……)事実に、他の連中は様子を伺っていたものの。
3日も経つと、ルルドがいる現状が不思議と馴染んでいた。
「ちょっと、そこの赤い人。暇なんでしょ。だったらこのお鍋の火、消えないようにしといてくれる?」
今日の夕食のスープが入った大鍋の前にしゃがみこんだルルドが、テントの脇に腰を下ろして休んでいたメイナードへと声をかけている。
なんで、また。そんな面倒くせぇ奴に頼むんだよ。
「なんだと……?なぜ、私がそのようなことを……」
ほらな。メイナードは、神官としてのプライドが高い。自分より高位の者の指示しか、基本的に受け入れない。
「えー?働かざる者、食うべからずって言うでしょ?僕が見てる限り、あなた何も働いて無くない?あ。ご飯いらないのか」
「私は自分の務めは果たしている」
「え?いつ……?あなた、ずっと歩いてるだけでしょ?」
「だから、それが巡礼の務めだと言っている」
「えー?どういうこと?僕にもわかるように説明してくれる?
…………え。まさか、歩いてるだけであなたの務めが果たされてるって意味なの?皆してることなのに?えー??まさかねぇ。冗談だよね?」
なんてルルドが言う。さらに、「面白くなーい」なんて言いながら楽しそうにきゃはきゃは笑ってる。
で、メイナードは絶句してる。
「そもそも、そのようなことに竜気術を使うなど――」
「え?黄色い人はテント立てるとこを固めて平べったくしてくれてるよ?」
「な……っ」
ルルドが指さす方を見れば、カインが竜気術を使い湿地を平坦にならしているところだった。
あっちでさっき、二人で何を話してんのかと思ったら……。
「ていうか、ヴァルがいつもやってることだし」
「なに……?」
「こんな湿地帯で、みんながちゃんとまっ直ぐ道を進めてるのは、ヴァルが地面を歩きやすいように、適宜ならしたり、固めたりしてくれてるからだよって言ったら、すっごく驚いてたなぁ。
あなたたち、何度もヴァルと旅してるんだよね?知らなかったの?鈍感さんだね。節穴にもほどがあるでしょ」
あいつら俺の粗探しばっかで、何してるかなんて興味も関心もなかったんだよ。
わざわざ言うほどのことでもねぇし、言う意味もなかったろうしな。
俺がちまちまと竜気術を使ってんのを知ってたのは、デュランくらいのもんで……。
あー……よりにもよって、ルルドに鈍感だの節穴だの言われるなんてな。お前、人のこと言えねぇだろ。
ホントに竜の……いや、ルルドの感覚は、一体どうなってんだろうな。
「竜気術なんて、結局は便利な力ってだけなんだからさ。
何をもったいぶって…………。
あー……そっか……そうなのか」
と、ここでルルドがしゅんとうなだれた。
「ごめんね。あなた、無能なんだもんね……」
「は……?」
「僕、無神経に……またやっちゃった。ヴァルにも注意されてんのに。うっかりして……。
そっか、そっか……できないって言えなかったんだね。
いつも赤い竜石を持ってるから、てっきりできると思いこんでて……僕の勘違いだったんだね。自分でも無能だって言ってたのに。できないことを、お願いしちゃって……。
ホントにごめんなさい」
「っ!!誰が、無能だ!いつ私ができないと言った!?」
「ムリしないでいいんだよー。
僕には簡単なことだから、大した負担じゃないし。ヴァルにも良く、お前は普通じゃないから気をつけろって言われてるんだけど。
ごめんね。気にしないで。ほら、僕には全然、ホントに大したことじゃないからさ」
「火をつければいいんだろ!」
「え?違うよー」
「はぁ?」
「えーっと、煮立つまでは強めの中火……この量だと、大体15分くらいかな。
その後は、弱火でじっくりコトコトと30分くらい煮込んで――」
「………まさか、その間ずっと竜気術で調整しろということではないだろうな……?」
「あ。……ほら、だからムリしなくていいって――」
「できないとは言っていない!……できないとは………」
「やっぱり、難しいことなんだよね、これって。ヴァルはちゃちゃっとやっちゃってるからさ。
もう、ヴァルってば、いつも僕のことおかしいだの普通じゃないだの言うけど、自分だって人のこと言えないじゃんねぇ」
お前と比べんなよ。
俺のはあくまで、人の常識の中での優だよ。
お前のは種類が違うだろーが。そもそもの種類がよ。
もう……止める気にもならねぇよ。好きにしてくれ。
だってお前……どうせ、俺の言うことなんて聞かねぇんだから。
本日は、きちんと3話更新予定です。(11:30、18:30に更新します)
今後もよろしくお願いします。
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巡礼の旅に出て、何度あいつらの立てた杜撰な計画を罵ったか知れない。
鬱蒼とした草木の生える、岩の多い未開の湿地というだけでも、歩くのには気を遣う。野生の凶暴な生物や、奇怪な植物が次々と襲ってくる状況は常に気を張る必要があった。
辺りを常に警戒しつつ、想定内とは言え予測不能な襲撃に備えるってのは、そこそこに神経をすり減らしていくもんだ。
けど、これって俺の日常とさして変わらないんだよな。
ルルドと合流して以降、いろんな意味で巡礼は様相を変えた。
つまり……目的を見失うほど穏やかな道程となった。
まず、生物が襲ってこねぇ。
そりゃあ、そうだ。なんたってこの辺りの生物は竜気で育った分、竜の力には敏感なはずだ。
以前の……クラーケンに襲われた頃の腹ぺこで死にかけのルルドにならいざ知らず、以前よりずっと竜として成長したらしいほぼ竜のルルドに食って掛かる奴なんていねぇ。
で、俺とルルドが共にいることで、ユーリの存在で一層乱れたこの辺りの竜気が安定し、知覚として感じると感じざると、心身を震わしていた不穏な威圧感が、いたって普通の凪いだ空気に変わった。
当の本人は、自覚してねぇようだが。
むしろ、竜気が濃いせいで、いつもより“匂い”が判りづらいらしい。
ルルドが合流した直後は、その容姿と、さらに降誕の地まで一人で俺について来た(わけじゃねぇんだけど……)事実に、他の連中は様子を伺っていたものの。
3日も経つと、ルルドがいる現状が不思議と馴染んでいた。
「ちょっと、そこの赤い人。暇なんでしょ。だったらこのお鍋の火、消えないようにしといてくれる?」
今日の夕食のスープが入った大鍋の前にしゃがみこんだルルドが、テントの脇に腰を下ろして休んでいたメイナードへと声をかけている。
なんで、また。そんな面倒くせぇ奴に頼むんだよ。
「なんだと……?なぜ、私がそのようなことを……」
ほらな。メイナードは、神官としてのプライドが高い。自分より高位の者の指示しか、基本的に受け入れない。
「えー?働かざる者、食うべからずって言うでしょ?僕が見てる限り、あなた何も働いて無くない?あ。ご飯いらないのか」
「私は自分の務めは果たしている」
「え?いつ……?あなた、ずっと歩いてるだけでしょ?」
「だから、それが巡礼の務めだと言っている」
「えー?どういうこと?僕にもわかるように説明してくれる?
…………え。まさか、歩いてるだけであなたの務めが果たされてるって意味なの?皆してることなのに?えー??まさかねぇ。冗談だよね?」
なんてルルドが言う。さらに、「面白くなーい」なんて言いながら楽しそうにきゃはきゃは笑ってる。
で、メイナードは絶句してる。
「そもそも、そのようなことに竜気術を使うなど――」
「え?黄色い人はテント立てるとこを固めて平べったくしてくれてるよ?」
「な……っ」
ルルドが指さす方を見れば、カインが竜気術を使い湿地を平坦にならしているところだった。
あっちでさっき、二人で何を話してんのかと思ったら……。
「ていうか、ヴァルがいつもやってることだし」
「なに……?」
「こんな湿地帯で、みんながちゃんとまっ直ぐ道を進めてるのは、ヴァルが地面を歩きやすいように、適宜ならしたり、固めたりしてくれてるからだよって言ったら、すっごく驚いてたなぁ。
あなたたち、何度もヴァルと旅してるんだよね?知らなかったの?鈍感さんだね。節穴にもほどがあるでしょ」
あいつら俺の粗探しばっかで、何してるかなんて興味も関心もなかったんだよ。
わざわざ言うほどのことでもねぇし、言う意味もなかったろうしな。
俺がちまちまと竜気術を使ってんのを知ってたのは、デュランくらいのもんで……。
あー……よりにもよって、ルルドに鈍感だの節穴だの言われるなんてな。お前、人のこと言えねぇだろ。
ホントに竜の……いや、ルルドの感覚は、一体どうなってんだろうな。
「竜気術なんて、結局は便利な力ってだけなんだからさ。
何をもったいぶって…………。
あー……そっか……そうなのか」
と、ここでルルドがしゅんとうなだれた。
「ごめんね。あなた、無能なんだもんね……」
「は……?」
「僕、無神経に……またやっちゃった。ヴァルにも注意されてんのに。うっかりして……。
そっか、そっか……できないって言えなかったんだね。
いつも赤い竜石を持ってるから、てっきりできると思いこんでて……僕の勘違いだったんだね。自分でも無能だって言ってたのに。できないことを、お願いしちゃって……。
ホントにごめんなさい」
「っ!!誰が、無能だ!いつ私ができないと言った!?」
「ムリしないでいいんだよー。
僕には簡単なことだから、大した負担じゃないし。ヴァルにも良く、お前は普通じゃないから気をつけろって言われてるんだけど。
ごめんね。気にしないで。ほら、僕には全然、ホントに大したことじゃないからさ」
「火をつければいいんだろ!」
「え?違うよー」
「はぁ?」
「えーっと、煮立つまでは強めの中火……この量だと、大体15分くらいかな。
その後は、弱火でじっくりコトコトと30分くらい煮込んで――」
「………まさか、その間ずっと竜気術で調整しろということではないだろうな……?」
「あ。……ほら、だからムリしなくていいって――」
「できないとは言っていない!……できないとは………」
「やっぱり、難しいことなんだよね、これって。ヴァルはちゃちゃっとやっちゃってるからさ。
もう、ヴァルってば、いつも僕のことおかしいだの普通じゃないだの言うけど、自分だって人のこと言えないじゃんねぇ」
お前と比べんなよ。
俺のはあくまで、人の常識の中での優だよ。
お前のは種類が違うだろーが。そもそもの種類がよ。
もう……止める気にもならねぇよ。好きにしてくれ。
だってお前……どうせ、俺の言うことなんて聞かねぇんだから。
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